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昔話のつづき  作者: なか
第一章
37/37

33 陰影


今回で一章は最後になります。





黒ずんだ甲冑が鈍い光を反射し、金属の板の擦れる音が辺りに響く。

イオが森から飛びかかってきた魔物の姿に驚いていると、剣を構えた魔物は直ぐに鋭い突きを放ってきた。

突進するように一気に距離を詰め勢いよく駆け抜けてくる魔物を、急いで身を翻し攻撃を躱すと距離を取り剣を抜く。


「あんなの、確実に人間じゃない!それに…」


イオは呟きながらも、魔物とその周囲に意識を向けていく。


「さっきのは、もしかして…」


視界の片隅にタスクがもう一体の魔物へ向かって駆けていく姿が映った途端、先程イオに襲いかかってきた魔物が剣を構え走り出した。すぐに身構えたイオは、魔物の動きに合わせて駆け出し攻撃を躱すと、側を通り過ぎた魔物を振り返り、体を回すように剣を振った。剣の軌跡に合わせて飛び出した線状の水が、足を止めた魔物へしなるように向かう。魔物の首元目がけて放たれた攻撃だったが、魔物が振り向きざまに剣を力強く振り下ろすと一撃を受けた水がまるで砕けるようにばらばらになってしまった。


「へぇ〜」


駆け出していたイオはその様子に呟くと、魔物の側面から迫り首元へ向かって剣を振った。

すると剣が掛かる直前で魔物が腕を振り上げ、何の躊躇いもなく腕を使って剣を弾いた。金属がぶつかる音が響く中、魔物がもう片方の腕で剣を振り上げる事を察したイオはすぐに後ろへ下がるために身を引いた。

イオの体のすぐ側で、魔物の剣が唸るように振り下ろされる。

なんとか一撃を躱し魔物から距離を取ったイオは、服の端の魔物の剣が掠った所が騒つくのを感じながら剣を構え直す。


「甲冑の胸の辺りが1番闇の気配が濃いから、あそこを壊せば…」


イオが動き出そうとしたところで、離れたところから金属がぶつかり合う大きな音がし視界の端で砂埃が舞うのが映る。

タスクの様子が気に掛かったところで上体を起こした魔物が動き出し、数歩勢いをつけたかと思うと空へ高く飛び上がった。直ぐに意識を切り替えたイオは、身構えると周囲へ意識を伸ばす。一瞬、イオの周囲で湿度が上がったように空気が湿り気を帯びる。そこへ、腕を振り上げた魔物が勢いよく剣を振り下ろしてきた。イオは素早く横へ走り出して躱し、その背後からは地面を叩く音が響く。音の元を振り向くと、地面に剣をめり込ませた魔物の姿が目に入いる。イオは剣を構え直しながら、魔物がこちら側を向く様子に意識を集中させると再び魔物へ向かって駆け出した。その動きに合わせて魔物が動き出そうとしたところで、突如湿り気を帯びてぬかるんだ地面に足が取られバランスを崩しその場に膝をつく。そこへ近づいたイオは、下から振り上げるように剣を振り水の玉を飛ばした。起き上がろうと上体を起こした魔物は直後に顔の辺りに水の玉が当たり、その勢いに押されて上を向くように体をのけ反らせる。魔物へ素早く駆け寄ったイオが、甲冑の胸元へ力を込めた剣を振り下ろすと金属が割れる音が響くのと同時に胸元に穴が空く。イオはそこで素早く後ろへ下がったが、魔物はそこから動く事なく体が傾くのに合わせて倒れていった。

息を整えながら金属の塊となった魔物が動かないのを確認すると、イオは顔を上げタスクの姿を探した。離れた所で魔物へ駆け寄ったタスクは、素早く魔物を切り抜ける。相手の動きを完全に見切った動きに、程なくして魔物が倒れた。一度派手に飛ばされていた様子のタスクだったが、問題なく相手を倒す事ができそうな状況に一先ず安堵の息をつく。

再び目の前の魔物を見下ろしたイオは、改めて見たその光景に息を呑んだ。穴が空いた甲冑の胸元からは、血が流れる様子も中に入っているものの様子も見えず、代わりに底無しのような暗闇が広がっていた。その内側からは血が流れる代わりのように黒い靄のようなものが僅かに立ち昇っている。


「あれは、闇の力?…いや、この感じは…闇の力とそれ以外の何かだったもの…」


イオはそこで緩く首を振り、苦笑いと共に息を吐いた。


「まいったな…」


魔物の体が透き通りだし宙に消え始めた事を確認したイオは、しゃがみこんでいるタスクの下へ歩き出した。





「タスク、大丈夫?動ける?」


聞こえてきた声にタスクが顔を上げると、イオが歩いてくるところだった。


「ああ、大丈夫」


しゃがんだままだったタスクは立ち上がると、剣を鞘へ収め服についた汚れを払う。


「イオは?大丈夫だったか?」


「こっちも問題ないよ。ちょっと服を掠ったくらい。飛ばされてたタスクよりは平気だよ」


茶化すように付け加えられた言葉に、不貞腐れたようにタスクが返す。


「そっちだって、ぎりぎりだったんじゃねぇか。先に進んだ方がいいだろ?行こうぜ」


2人は魔物が完全に消えたことを確認すると、その日の目的地に向けて歩き出した。

道中、先ほどの魔物についてイオが口を開く。


「さっきの魔物、恵みの力を使っていたよね」


「やっぱり、イオもそう思ったか?」


問題に正解したかのように、タスクが勢い込んで言う。


「あの魔物が、風の恵みの力を使ってたんじゃないかって俺も思っててさ。俺が力を使う時の感覚に、似たものを感じたんだよな」


「タスクもそう感じたなら、あの魔物は恵みの力を使っていたんだろうね」


タスクとは対照的に、落ち着いた様子でイオが頷く。


「これからは恵みの力が使える魔物がもっと出てくるんだと思う」


「それと…さっきの魔物、なんだか不気味だったな。イオも見たか?甲冑の内側が真っ黒だったやつ」


タスクは魔物の様子を思い出すと、眉間に皺を寄せた。


「見たよ。あれは…」


そこでイオは、言いかけた事をもう一度考え直すようにように言い淀んだ。


「何かわかったのか?」


イオの歯切れの悪い言い方に引っ掛かりを覚えたタスクは、イオの様子を見るように問い掛ける。


「ん?あぁ…はっきりとした事はわからないけど…あの魔物からは、甲冑だけじゃない他の魔物が合わさったような気配を感じて…」


「てことは、あの魔物の内側の黒いものは他の魔物の姿だったのか?」


「おそらくね。細かい事はわからないけど、恵みの力が使えた事もあるしこれからは魔物の様子も変わってくるのかもしれない」


タスクは澱みそうな空気を払うように頭を掻く。


「ミールの言う通り、気を抜かないようにしていかないといけないな」


「そうだね…」


雲が覆う空の下、2人は王都への道を歩み続けた。








ここまでお付き合いいただきありがとうございます!

二章の予定は未定ですが、登場人物達の行方を見届けられたらと思っています。


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