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昔話のつづき  作者: なか
第一章
35/37

31 揺らぎ閃く


本編へ戻ります。





神殿内に広がった光は、程なくして収まり眩しくなくなったところでタスクとイオは目を開けた。

辺りを見回すと、先ほどまで宙に浮いていたはずの力の結晶が見当たらない。


「あれ、どこ行ったんだ?」


タスクが周囲を見回していると、何処か離れた所で話しをしているようなくぐもった声が聞こえてきた。


「ミール?大丈夫?」


神々の神殿の離れた所で話しているような様子に、不穏な空気を感じ取ったイオが探るように声をかける。


『…ええ、問題ありません』


僅かに間を空けて返ってきた声に、タスクとイオは顔を見合わせるとタスクが伺うように声をかけた。


「なぁ、さっきまで、目の前にあった力の結晶が無くなったんだけど…どうなってるんだ?」


『…今回は私が力の結晶を受け取ることが出来たので、こちらで結晶を受け取っています。なので、心配せずとも大丈夫ですよ』


「…さっきまでここにあった結晶が、今の一瞬でそっちに移動したの?」


イオの驚きの声に、ミールが気を緩めるように微笑んだ様子が伝わってくる。


『…姿を現した力の結晶は、声を送るのと同じように神殿から神殿へ移動させることができるのです』


「この神殿って、何でも出来るような気がしてきた」


思わず頭を抱えたイオの隣でタスクは感心したように腕を組むと、何かを思い出したようにはっと声を上げた。


「じゃあ、ミールにも聞こえたか?結晶を触った時に、知らない声を」


『…ええ、私にも聞こえました。…私達が聞いた声は、それぞれ別の人物のものだったのでしょうが』


「どういうことだ?」


タスクはイオにも顔を向けてみるが、イオも首を傾げるしかない。


『私達が聞いたのは、力の結晶を作ったそれぞれの先代の光の使い手の声だったのです』


「先代の声?」


「それって、何千年も前の人でしょ?」


イオの問いかけに、ミールは穏やかに言葉を続ける。


『ええ。力の結晶は、先代の光の使い手がそれぞれ光の神の力を借りて作ったもの。そしてそれは、恵みの力が使えた当時の人達でも扱うのが困難な程の力を秘めています。扱い方を誤れば、大きな被害が出る可能性もあるのです。簡単には手にできない場所に安置したとしても、後にどのように使われるのか心配だったのかもしれません。その思いが、光の力によって結晶の中に取り込まれたのでしょう』


「俺達が聴いたのは、先代の思いだったのか…」


自身が聞いた声を思い出すタスクの横で、イオも何やら考えるように顎に手を寄せる。


『私達は、先代の思いに応えられるように力を使っていきましょう』


「そうだな」


タスクとイオが頷くのを聞くと、ミールは言葉を続けた。


『この神殿での結晶の受け継ぎは完了したので、次の神殿があるロクトージの村へ向かってもらうところなのですが、もう暫く2人に会っていないので一度合流しましょう』


「そう言えば、神々の神殿で会ったきりだったな」


タスクがホースキの町でミールに会ってから、随分と時間が経っていることを思い返す横でイオが顔を上げた。


「何処で落ち合う?前と同じ、神々の神殿?」


「いいえ、今回は場所を変えさせてください。私の勝手な都合なのですが、今回は王都の祈りの神殿まで来てもらえませんか?」


「いいぜ、王都の祈りの神殿だな」


『ありがとう。それと…』


タスクの声に答えた後、ミールが不自然に言い淀んだ。


「…ミール?どうかしたの?」


『いいえ、何でもありません』


首を傾げたイオの声に答えたミールは、気持ちを切り替える様に言葉を続ける。


『今回で、結晶の神殿を半分まで回る事ができました。けれど、闇の使い手の動向が気になります。闇の魔物の出現以外に、何か動きがあるかもしれません。今後も気を引き締めていきましょう』


「ああ」


「そうだね」


王都で落ち合うことを確認し、3人は会話を終えた。





ミールとの会話を終えたタスクとイオは、何気なく神殿を出たところで襲いかかる熱気に思わず息を詰めた。

神殿内は暑さを感じなかったため、熱気が満ちる洞窟内に神殿があることをすっかり忘れていた。そして、焼けるような暑さの橋を渡らなければならないことも勿論忘れていた。

橋に近づくと肌を焼くような暑さが迫り、タスクは表情を歪めた。


「もう、一度渡ったんだしさ、神殿にも行ってきたんだし、少しくらい暑さを和らげてもいいんじゃないか?」


タスクのげんなりした声に、イオはため息とともに首を緩く振る。


「じゃぁ、お祈りでもしてみる?暑さを和らげてくださいって」


「…わかってるって、ちゃんと渡るよ」


2人は気合を入れ直し、灼熱の橋を渡り終えた。

暑さにぐったりしながら聖域と繋がる扉まで辿り着くと、早々に扉を開き明るい外側へと足を踏み出した。扉を潜った途端に全身を明るい光と涼しい空気が包む。何度か瞬きをし目が慣れてきたところで周囲を見渡すと、日が傾き始め夕方に差し掛かっているところのようだった。風が強いわけではなかったが、僅かにそよぐ風でも全身の熱が引いていく感覚がわかる。

タスクは思わず深呼吸をした。


「…暑すぎるのって、大変なんだな…」


タスクの声に頷きながらイオも同じように息を吐く。


「ちょうど日が暮れるし、村に戻ろう」


2人は聖域を降りて、夕日に照らされた農園の間を下って行った。





次の日、2人は王都へ向けて出発した。

ホースキの町へ向かうよりも若干遠くなるが、それ程違いはないだろう。ようやく見慣れてきた農園を離れ、旅の中ではよく見る森の中の道を進んでいく。

その日訪れた町の外れにある空き地に来ていたタスクは、剣を振り鍛錬をしていた。

立て続けに剣を振り、最後の一振りに力を込める。

すると、剣を振った切先から突風が巻き起こり、正面の草が勢いよく地面に倒れた。


「使えるようには、なってきたなぁ〜」


タスクは体勢を戻しながら、風で倒れたままになっている草を眺める。

以前、イオに恵みの力の使い方を聞いた後、少しづつ風の恵みの力が使えるようになってきていた。

イオが言った「葉っぱ」のように、吹く風に祷力を乗せて風を纏めることで必要な状態へ操っていくようだ。後は、祷力の加減で突風にしたり殴れるほど硬く纏めたり、さらにまとめて鋭い刃物のように形を変えていく。完全ではないが、コツが掴めてきた。


「後は、あれだけがよくわからないんだよな〜」


そう呟きながら、タスクは腰に手を当てた。

以前の戦闘時に、風を使って普段よりも速く移動した事があったが、その方法がいまいちよくわからなかった。

ミールの話によると、先代の記憶が恵みの力の使い方を補助してくれるようだが、鍛錬の時に剣を握っただけですぐに使い方がわかると言うわけではないようだ。確かに、剣を握った方が恵みの力を使いやすくはなるが、平時にはかなり集中しなければ使うのはまだ難しい。戦闘時にはほぼ意識しなくても使えていた気がするが、それほど都合よくは出来ていないようだった。


「そう簡単にはいかねぇんだなぁ〜」


タスクが考えながら剣を見つめている様子を、離れた所で鍛錬をしていたイオが何気なく目にし、思わずその動きを止めた。


「…タスクが考え込んでる…明日は雨かな…」


そう呟いたイオは、よく晴れた空を見上げた。








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