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昔話のつづき  作者: なか
第一章
34/37

*閑話* 巡らす


今回は閑話です。

箸休めの箸休め程度に失礼いたします。





アツハナの町で、変わった王家の使者を見送った警備隊のコークの横で、部下のユタが思わずといった様子で言葉を漏らした。


「王女は何をお考えなのでしょう?」


「さぁな、何かお考えがあっての事だろう。」


「その理由って何ですか?」


「分かるわけないだろ?ほら、報告書をまとめるぞ」


ユタの言葉を適当にいなして執務室へ向かって歩き出すと、ふとある人物の声が蘇ってきた。


『この町はいつ来ても、活気があって良いですね』


それは、数週間前に町を訪れたミール王女のものだった。

非公式の訪問だと言う王女は、最近の町の状況を聞きたいと警備隊本部に立ち寄っていた。たまたま他に対応できる者が居らず出迎えたコークの前で、王女は当然のように警備隊の格好をしていて笑みを浮かべた。


「これだけ多くの人が行き来する中でも治安が維持されているのは、皆さんの努力のお陰でしょう」


その服装の理由など聞きたい事はあったが、ひとまず頂いた激励に感謝の言葉を返す。


「ありがとうございます。そう仰っていただくと、我々の励みになります」


穏やかに頷いた王女は、傍に控えていた警備隊の格好をした付き人に合図を送る。


「さっそくですが、聞きたい事があります」


王女の話しに合わせて、付き人が机の上に折りたたまれていた紙を広げる。その紙は地図のようで、町全体の様子が建物の一つひとつまで細かく描かれていた。


「この後、街を見て回ろうと思うのだけれど、街の中で変わっている場所がないか教えてください」


王女は地図を指しながら、新しい建物ができていないかや配置が変わっている所は無いかと細かく質問し、街の外周の様子まで尋ねてきた。


「案内の者を付けましょうか?」


コークの提案に、王女は緩やかに首を振る。


「その必要はありません。今回は公式な訪問ではありませんし、皆さんには自身の業務に専念してほしいのです」


穏やかな言葉とは裏腹にしっかりとした意志の込められた眼差しを受け、コークは案内人を勧めることをすぐに諦めた。


「承知いたしました。では、何かございましたら何なりとお申し付けください」


コークは王女と直接言葉を交わした事はほとんどないが、垣間見えた王女の意思の強さから噂に聞く強かさはもしかしたら本当かもしれないと内心独り言ちた。






ミールとアルミスはアツハナの町を訪れると、警備隊で町の様子を確認し街中の様子を見て回っていた。

街中の様子を見終わると、今度は町の周囲を囲むように作られた害獣避けの壁の外側に足を運ぶ。町へ繋がる街道から離れ、外壁からも少し離れた森の側まで来ると2人は足を止めた。


「この辺りでいいでしょう」


町の方を振り返りながらミールが言ったところで、アルミスが小さ目の布袋を開きながら側へ近づく。


「どうぞ」


「ありがとう」


ミールはお礼を言うと、袋の中から石を1つ取り出した。

手のひらよりも小さな琥珀色をしたその石を手にしたミールは、その場にしゃがむとそっと地面に石を置き、押さえるように指先を石の上に置く。すると、僅かな間を置いてミールの手と石が仄かに白く光り、暫くするとまるで溶け込むように石が地面に沈み込んでいった。石が完全に沈み込んだ後、何かを確認するようにそのまま地面に指先を当てていたミールだが、程なくして小さく頷くと立ち上がった。


「良さそうね。次の場所へ行きましょう」


その後も慣れた様子で作業は進み、町の外側を一周した2人は夜になってから町の中心にやってきた。

そこには小さな神殿があり、近くには物流の拠点となっている倉庫が並ぶ区画があるため、昼間は荷馬車の行き来が多く賑やかな場所となっている。小さな神殿も旅の安全を祈る人々が多く訪れる場所なのだが、夜の闇に覆われた現在は人の影はなく、静まり返った室内には2人の足音のみが静かに落ちる。

それ程歩かなくても横断できてしまう程小さな建物の中央に立ったミールは、町の外側で行っていたように琥珀色の小さな石を床に置くと、まるで硬いものが何も無いかのように石を床へ沈めていった。石が完全に沈んだことを確認したミールは立ち上がると、手を持ち上げるのと同時に実体化させた槍を握りそっと石突の先を床に置く。そして一度深呼吸をすると、集中するように目を閉じた。すると仄かに槍が白く光りだし、その光は徐々に床へと流れて行く。暫くそうしていると、不意に目を開けたミールはまるで力を込めるように軽く石突で床を突いた。その途端、何かが弾けるようにミールの足元の床が明るく輝き、そこから四方八方へ床を伝って光の線が飛び出して行った。一瞬で神殿を飛び出して行った光の線は、地面を伝って町の外まで駆け抜けた。町の外へ出た事で消えたように見えた光の線は、今度は町を囲むように一続きの線を描いた。その事を察したように、神殿ではミールがもう一度床を突く。またミールの足元が輝くと、今度は槍を伝って真上に光の線が飛び上がった。光の線は一瞬で神殿の屋根をすり抜けると、空高くまで飛び上がり建物の数倍の高さまで上ったところで、四方八方へ弾けるように散らばっていく。そして、その光は町を囲む光の線へ向かい、地上の光の線も上空の光に呼応するように町全体を覆う光の壁のように薄く立ち上った。

町全体が光のドームで覆われたかのようになった光景は一瞬にして消え、瞬きをする間に周囲は月の明かりに照らされた夜の風景に戻っていた。一瞬にして全ての出来事が終わったことを確認したミールは、ほっとするように息をつく。

その様子を見て、近くに控えていたアルミスが歩み寄る。


「無事に終えられたようですね。お加減はいかがですか?」


「ええ、大丈夫です。ありがとう。…今回も上手くいったようね」


そう言いながら確認をするように宙を見上げるミールの側へ歩み寄ったアルミスは、部屋の高い所から差し込む僅かな月明かりに浮かび上がるミールの輪郭を見つめた。


「…何か、聞きたいことでもありますか?」


「え、…いいえ、何も」


穏やかに問われたアルミスは、詰まりながらも首を横へ振った。


「そうですか。…最近、何か聞きたそうな、或いは何は言いたそうな顔をしていたと思ったのだけれど」


ミールはアルミスに顔を向けると、何処かおかしそうに静かに笑う。

月明かりだけの暗闇の中、小さく肩を揺らして笑う姿にアルミスは観念したように息をついた。


「そうですね。…こんな事を言うのは不敬だと思いお聞きしなかったのですが…」


アルミスは、ミールの沈黙が了承の合図だと感じ、そのまま言葉を続ける。


「ミール様はどうして、…この争いに、公私を問わず取り組み続けているのですか?…以前お聞きした話しからすると、幼い頃からこの争いに備えて様々な事をされてきたのですよね。…どうして、そこまで…」


「…それが、この国を治る者の務めだから…と、言えればいいのだけれど。実際は、違いますね」


苦笑いが滲むような声でミールが話すのを、アルミスは静かに聴いていた。


「確かに私は幼い頃にこの争いの可能性を聞いてから、何か出来ることはないかと模索し続けてきました」


ミールは、考えるように時折言葉を切りながら話しを続けていく。


「…幼い頃に初めてこの争いの可能性を聞いた時は、その恐怖で部屋から出ることも出来ないほど何も出来なくなってしまいました。

…私は、周りの人達に愛情を持って育ててもらえたと思っています。お父様とお母様、そして私を育て、教え導いてくれた人達。私の周りの人達の多くが、私にとってとても大切な人達です。その人達がいなくなってしまうかもしれないと思うと、怖くてたまらなかったのです。でも…、怖いからと言って部屋に閉じこもっていては、何も変えることは出来ません。

…私の目の前にいてくれる人達は、その人達の周りにいる人達がいるからこそ、そこにいてくれている。だから私は、私の大切な人達を守る為にその周りに繋がる多くの人や物事にも目を向けていく。

…私もただの人ですから、自分を抑えてただ人々に尽くしていくことは難しい。でも、自分の大切な人の為なら力を尽くすこともできる。

…王族の身分はある意味、手段の1つとも言えるかもしれません。

私は、立派な王様にはなれないかもしれませんね」


そう言って笑って話し終えたミールに、アルミスは苦笑いのような笑みを返しながら緩やかに首を横へ振った。










今回もお付き合いいただきありがとうございました。

次回は本編へ戻ります。


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