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昔話のつづき  作者: なか
第一章
31/37

28 辿る




砂嵐の中にいるように、視界が霞んでいる。

その中を、時折周りに指示を出しながら急いで進んで行く。


あぁ、これは、知っている…


ミールは既視感を覚えたまま、自分が動いているはずなのに誰か他の人の目を通してその光景を眺めているような感覚を追った。

野外のあちらこちらに居るのは味方の兵士、焦りの感覚がじわりと胸に忍び寄るのは向かっている先の方角から闇の気配が近づいて来ているため。後方には大勢の人々の命があり守るべく布陣を整えているが、闇の勢力の方が明らかに大きい。闇の軍勢は間近だが、援軍は間に合わない。

ミールが前線に到着するや否や、闇の気配が迫った。周囲に号令をかけたところで、前方からいくつもの黒い影が上空へ飛び上がる。飛びかかって来た黒い影が振り下ろす剣を素早く手に取った槍で払いのけると、少し離れた所へ着地した黒い影が今度は真っ直ぐに飛びかかってきた。向かって来た魔物は人間のような姿をしているが、脚がコハニセンのように瞬発力がある。魔物が切り掛かって来たところを槍で往なすと、素早く首元を切り付ける。相手が崩れ落ちるのと同時に、別の方向から違う魔物が飛びかかってきた。振り下ろされた剣を躱しすぐにその首元を切り付けたところで、近くの兵士が魔物に押されているところが目に入る。素早く手を振ると、兵士に襲いかかっていた魔物の体を鋭い閃光が貫く。


「怯むな!押し返せ!」


自分で上げたはずの声が、何処か遠くで叫んでいるように小さく聞こえる。

その状況を考える間もなく、ミールは次々と魔物を相手にしていく。少し離れた所では、仲間がミールを補佐するように魔物の相手をしていることが伝わってくる。その心強い動きに励まされるように、ミールは目の前の魔物を相手にしていく。

後少しで援軍が到着しそうだが、多くの魔物を相手にしてきたことと掛けた負荷も相まって息が上がってくる。しかし目の前には力の強い厄介な魔物が迫っていた。魔物が腕を振り恵みの力のような攻撃を放つとミールも恵みの力を使いその攻撃を弾き、続けて槍を振り鋭利な炎の刃を魔物へ放つ。複数に分かれて飛びかかる炎の刃を躱しきれなかった魔物が倒れると、その後方で隠れるようにしていた魔物が何やら力を溜めているのが見えた。今にも溜めていた力を放ちそうな様子に咄嗟に周囲の状況を確認すると、周囲には何人もの兵士がいることがわかった。あの魔物の攻撃を避ければ多くの被害が出るであろう。もちろん魔物も多く巻き添えになるが、そんなことはどうでも良いようだ。考えるよりも先に槍を握る手に祷力を集めたミールは、力を溜めた魔物が腕を振り黒い炎のような大きな塊を勢いよく投げたのに合わせて槍の穂先を前に突き出した。槍の先端から先が尖り角張った大きな岩が飛び出して黒い炎の塊とぶつかると、炎が岩の先端で砕かれ粉々に散って行き岩はそのまま魔物へと飛んで行く。

その時、ミールは背後からの気配に気がついた。別の魔物がミールの背後から矢を放つ。しかし、恵みの力を放った直後で避けることができない。なんとか急所だけは避けなければと思ったところで、ミールと矢の間を人影が遮った。ミールがその事に気がついたところで、何か固いものが割れる音が響く。間に入った人影が僅かに揺らいだ後、ゆっくりと背後へと倒れてくる。心臓が凍りつくような感覚のまま、仲間の名前を叫ぶ声が遠くから聞こえる。前を見ると矢を放った魔物は、仲間が放った攻撃で倒れていた。ミールが仲間に手を伸ばそうとしたところで、ミールの背後に魔物が2体迫って来ていることに気がつく。身体の内側が燃えるように熱くなった勢いのまま、振り向きざまに槍を横へ振り抜いた。


「下がれ!」


横一線で放たれた炎の刃は、一瞬で2体の魔物を両断する。

完全に頭に血が上っていた。そのまま、さらに向かって来る魔物へ目を向ける。ミールが構えたところで、別の方向から恵みの力の刃が魔物を切りつけた。それが援軍のものだとわかったところで、ミールははっとして辺りに意識を向ける。たった今到着した援軍が前線に入り、魔物を次々と押し返して行く。戦況が好転した事を確認したミールは、すぐさま倒れた仲間へ駆け寄った。

仲間の姿を見てすぐにわかった。

傷が深すぎる…


「しっかりしろ、すぐに治療する」


側に寄ったミールは、すぐに祷力を用いた治療を始める。いつもなら治療でかけた力が相手に溜まっていくのが分かるのだが、まるで手で掬った細かな砂が指の隙間から零れていってしまうかのように何処かへと流れてしまい全く手応えがない。

そこでぐったりとしていた仲間に僅かな動きがあり、口元が微かに動いた。

囁かれた言葉に息を呑む…


「大丈夫だ、すぐに治すから」


まるで懇願するように言うと、さらに治療に力を込める。

そこでまた、仲間の口元が動いた。

その言葉に、引き攣るように息を呑む。


「だめだ。だめだ、だめだ!」


必死に治療を続けるが、指の隙間を零れる砂は止まらない。

命の火が徐々に消えてゆくのが伝わってくる。

必死に手を伸ばしても届かない、零れた最後の砂の粒を追うように仲間の名前を叫ぶ。






「っっはっ!」


ミールは、まるで水中から顔を上げたかのように大きく息を吸った。

暗い視界の先に映るのは見慣れた自室の天井。乱れた呼吸を整えながら、自分が自室のベッドの上で寝ていることを確認する。大きく息を吐き出し、先ほどまで見ていたものが夢であったことを認識しながらゆっくりと体を起こすと、全身にじっとりと汗をかいていることを感じた。カーテンの隙間から淡く白い光が差しているところからして、今はまだ夜中のようだ。

あの夢を見たのは、今回が初めてではない。

数年前にも見たが、光の力を授かってから夢がより鮮明になったように感じる。

きっとあの夢は、先代の光の使い手の記憶なのだろう。何度も夢に出てきてしまうほど、先代にとって心に残っていたことなのかもしれない。

そこでミールは、気分を変えるように首を振るとベッドを降りて窓辺へ向かった。軽くカーテンを避けると、ハツの月の光が柔らかくミールを包む。

今この夢を見たことは、何かを暗示しているのだろうか。

疑問が次々と浮かんできて、ミールは大きく息を吐いた。夜空を見上げ、まるで癒すかのように柔らかな光を向ける月を眺める。

本来闇は、あらゆるものを優しく包むはずのもの。それがどうして、人の命を奪う存在になってしまったのか…

問いかけても返ってはこない思いは、夜の闇に溶けて行く。

今回は、必ず…

ミールは思わず握りしめた手を見下ろす。

その思いが自分のものなのか、先代の思いからきているのか、ミールには判断できなかった。








「…なに、あれ…」


イオは目の前の光景に顔を引き攣らせた。


「あぁー…虫の、シュチミナのでかいやつ」


タスクは目の前に現れた魔物を繁々と観察する。

前方の道には、四方八方に伸びる8本の細長い脚を持ち、丸みを帯びた楕円形の体と頭の部分には丸い目のような物が4つ付いた蜘蛛のような魔物がいた。


「うそでしょ…気持ち悪すぎ…」


甲虫のように滑らかな体の表面は、硬質そうな鈍い光を反射している。胴体に走る線状の模様は、水辺でよく見かけるシュチミナの特徴とそっくりだ。しかし、シュチミナは大きくても3センチほどにしかならず、体ももっと柔らかそうな見た目だったはず。目の前の魔物は1メートルほどの大きさがあり、目線が合いそうな高さに目がある。先ほど、道脇の森の中から4体の魔物が連続で飛びかかってきたが、シュチミナが集団行動をするなど聞いたことがない。

脚を器用に動かしたり軽く飛び跳ねながら2人の方を向く魔物を見て、タスクが感心したような声を出した。


「小さい時は分からなかったけど、口の牙って結構鋭そうだな。確か、牙から毒を出して獲物を動けなくするんだっけ。ってことは、こいつらも毒を持ってるのか?」


「何それ、冗談でしょ…」


タスクの横でイオが、悲鳴のような声を上げ続けている。


「イオって、虫嫌いだっけ?」


「嫌いも何も、あれが大き過ぎるんだって。ひっ!」


正面の魔物が飛び上がり一歩近づく動きに、イオが悲鳴を上げる。


「なんでもいいや。とにかく、片付けるぞ」


剣を抜いたタスクは、先頭の魔物に向かって駆け出した。

タスクに狙いを定めた魔物は弾みをつけて飛びかかって来るが、その動きを見越していたタスクは横に避けて躱すと続けて魔物に踏み込み脚を切りつけた。すると、硬い音が響いたが表面にひびが入ったようで、黄色い体液が飛び散る。後方から、小さな悲鳴が聞こえた。


「思ったよりも硬くなさそうだな」


一度魔物から距離を取ったタスクが剣を構え直すと、後方から何か呟く声が聞こえてきた。後方の様子を見てみると、イオが静かに剣を抜いているところだった。


「もう、むり…」


タスクにはイオが何を言っているのか聞き取れなかったが、やっとやる気になったのかと魔物に視線を戻すと、その横を何かが勢いよく通り抜けていった。


「え…」


急いでその正体を目で追うと、イオが魔物に向けて駆けていくところだった。しかしイオは魔物に斬りかかる事はなく、魔物の間を通り抜けていく。タスクが呆気に取られている間に、イオはステップを踏むように器用に魔物を避けるとあっという間に最後尾まで駆け抜けた。魔物の後方で距離を取ったイオは、続けて剣の先に付いた何かを引っ張るかのように斜め上から剣を振り下ろす。すると、魔物の上空で一筋の線が日の光を反射したかと思った途端、鋭い水の刃となって降りかかった。地上をばらばらに蠢いていた魔物の上に正確に現れた水の刃は、一瞬にして魔物を両断する。


「すげぇな…」


唖然としたまま残骸と化した魔物を眺めていたタスクは一つ息をはいた。


「恵みの力を試す間もなかったなぁ。…折角なら、もう少し観察しても良かったかも」


「よくない!」


腕を組んで消えていく魔物を眺めていると、離れた所からイオの叫び声が聞こえて来た。





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