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昔話のつづき  作者: なか
第一章
29/37

26 風を読む



遠くから近付く小さな灯りは、移動の速さからして馬に乗っているのだろうか。

イオは走りながら、次第に近くなる灯りの様子を覗った。空に登りだした丸く大きく見えるハツの月に淡く照らし出されたその影は、馬に乗った人の姿が2つあるように見える。走る馬の複数の足音も聞こえてきた。イオは大きく手を振ると声を上げる。


「止まってくださーい!」


もう一度声を掛けたところでイオの位置がわかったのか、2人の馬に乗った人影が歩調を緩めイオの前で止まった。


「こちらは警備隊だ。こんな時間にこんな所でどうしたんだ?」


馬に乗っていたのは警備隊の格好をした2人の男性で、声をかけてきた人が持つ小さな灯りに浮かぶ表情からは怪訝に思っていることが窺える。


「実は…」


イオが話し始めたところで、背後から地面に大きな岩が落ちたような重い音が聞こえてきた。


「あれは、なんだ?」


もう1人の隊員が道の先を見て呟く。

イオが振り向くと、道の先で黒く大きな影と小さな影が暗闇の中蠢くのが見える。イオは眉間に皺を寄せると、警備隊を振り仰いだ。


「この先の道で、凶暴化した熊が暴れてるんです」


「凶暴化した熊?魔物か?町の警備隊には連絡したのか?」


疑念を抱く声に、イオははっきりと頷いた。


「問題ありません。なので、お2人には他の通行人が近付かないようにここで警戒してほしいんです」


イオが言い終わるか否かで、またしても背後から地響きのような音が聞こえてきた。警備隊2人の視線が道の先に向く中、イオは冷静になるように心がけて口を開く。


「私は戻りますので、ここはお願いします」


「おい、待て!」


すぐに走り出したイオに慌てて声をかけた隊員に、もう1人の隊員が声をかける。


「何かありそうだ、少し様子を見よう」





タスクは熊の魔物に向かって駆け出した。

木の魔物の根が伸びてきているであろう範囲に入った途端に、足元の地面から根が這い出てきてタスクをとらえようと狙ってくる。根が生えてくることを予想して足を踏みかえて避けながら熊に向かおうとすると、上体を起こした熊が前足を地面に勢いよく打ち付けた。地響きの音と共に衝撃がタスクの足に伝わり、動きが僅かに止まる。その僅かな隙を突いて木の根が伸びると、すぐに足を引こうとしたタスクよりも早く根の先が足を絡め取った。そこへ飛び掛かるように向かってくる熊へ、タスクはすぐに剣を横へ振り突風を顔に当て目眩しをする。熊の動きが鈍ったうちに根を切りつけ引きちぎるように足を動かすと、大きく後退して根の範囲から出た。

しかし、根の範囲から出たかと思った所でまたしても根が地中から伸びてきて足を取られてしまった。タスクはすぐに根を切りつけるが、熊が目前まで迫ってきていた。素早く身を低くしたタスクは横へ飛び出すように駆け、先ほどよりも明らかに素早い動きでその場から離れた。その背後では、のしかかった熊が地面を叩き轟音を立てる。全身に風を纏わり付かせたように周囲に風を起こしたタスクは、先ほどよりも離れた位置で魔物を振り返った。


「さすがに…」


肩で息をしながら、無意識にタスクの口から言葉が溢れる。乱れた呼吸を整えながら根が伸びてこないことを確認してると、熊が木の方へ下がっていくのが見えた。先ほど捕まった位置から察するに、どうやら根が地中に伸びている範囲が広がっているようだ。タスクが熊との距離を測っていると、道の奥から近付く影に気がついた。近付くにつれ朧げによく知る相手の姿が浮かび上がる。


「イオ!根っこの範囲が広がってる。気をつけろ!」


タスクの声が聞こえたのかイオの動きが変わる。そして、そのまま魔物に近づくイオに合わせてタスクも動き出す。


「木の魔物を頼む!」





「わかった!」


イオはタスクに返事をした後、すぐに木の根が広がっているであろう地点に差し掛かった。

すると、タスクが言った通り始めよりも魔物から離れた位置で根が地中から伸びてきた。イオは根が伸びてくることを予想して、進行方向を変えながら飛び出してくる根を素早く躱していく。

根に行く手を阻まれながらも道脇に並ぶ木に近づいていくと、その中の一本が少し道側に迫り出した位置に立っており、魔物の気配もその木で間違いなさそうだ。しかし、木へ一歩近づくにつれ飛び出してくる根の数が増え、行く手を遮る柵のように道を塞いでくる。

根の先が迫る気配にイオは素早く剣を横に振った。すると、飛び出してきた根の奥、木に近い方の地面から地中の根を断ち切るように横へ伸びた水の刃が噴き上がる。水の勢いに釣られるように、飛び出してきた木の根が地面へ凪ぎ動きがなくなる。根を避け、さらに前進するとまたもや新たな根が伸びてきて道を塞ぐ。再び剣を横へ振ったイオは、近づく根を地中から水で切り上げた。すると、辺りの地中から伸びてくる根の勢いが僅かに緩んだ。その隙に木の元へ走り込み、幹まで数メートルの所まで近づくと剣を横へ振る。鋭く横切る剣の切先から細い紐状の水が飛び出したかと思うと、木の幹の下方を勢いよく打ちつけた。弾けるような音と共に木の幹に斬り込みが入り、更に返す刀でもう一度剣を振るうと鞭のようにしなった水が先ほどの斬り込みと交差するように二つ目の斬り込みを入れた。

そこへ幹が弾ける音に呼応するように、イオの頭上から枝葉が揺れる音がした。イオが反射的に後方へ下がると頭上から木の枝が矢のように降り注いできた。後退し続けるイオを追いかけるように、幾つもの枝が鋭く地面に刺さる。鋭利な枝の雨が降り続ける中、イオは完全に切り倒すことができなかった木に鋭い視線を向けると、もう一度剣を木に向けて振り下ろした。その切先から放たれた頭程の大きさの水の球は、降り注ぐ枝の矢を跳ね除けると木の幹の上方に当たった。

木全体が揺れるほどの衝撃が走ると、切り込みが入った幹から軋むような音を響かせ木が傾いていく。まるで悲鳴のような音を立てながら木の幹が上下2つに割れ、地面に当たった枝が折れる音と共に木が地面に倒れた。





イオに声をかけたタスクは、熊の魔物の気を引くため熊に近づいた。

イオの様子を伺っていた熊の魔物も、近づくタスクに顔を向ける。そして、タスクが根の範囲に入るやいなや前に踏み込み勢いを付けると前足を上げて地面を踏み鳴らした。踏み鳴らされた地面は、地響きと共に数メートル離れていたタスクの足元まで揺らす。タスクはすぐさま、進行方向を変え熊から距離をとろうとするが、揺れで動きが鈍ってしまう。なんとか根をすり抜けると、熊の鋭い爪をすんでのところで躱す。近づくことすら困難な状況にタスクは息をついた。

一度根の範囲から出たタスクであったが、熊がイオの方を向かないうちにすぐに走り出した。熊に近づくとまたしても木の根が地面から伸びてくる。タスクはそれを避けて再び距離を取ると、熊との間合いを見た。

すると離れた所から、何かがぶつかるような音が聞こえてきた。音に反応した熊が後ろを振り向こうとするところを、タスクはすぐに駆け出す。近づくタスクに気がついた熊はすぐにタスクへ飛び掛かった。タスクは横へ避けると僅かに距離を取るように下がる。そこへまたしても、離れたところから何かがぶつかるような音が聞こえた。

足元に意識を向けると先程までと違い、木の根が伸びてくるのが遅く勢いも無いように感じる。熊も先ほどの音に気づいた様子で木の魔物の方を振り返る。タスクはその隙に、熊へ向かって走り出した。近づくタスクに気がついた熊は、飛び掛かるように前足を振り上げた。


「ここは…」


呟いたタスクは、熊の手前で素早く剣を下から切り上げる。すると、固いものが当たったかのような鈍い音と共に熊が下から顔を殴られたように仰け反った。熊が上体を仰け反らしたところで、タスクは剣を低く構えると地面を蹴る。そしてまるで突風のように駆け抜けたタスクは、熊の胴を一瞬にして切りつけた。

切られた熊は、その勢いに押されるように仰向けに地面へ横たわった。木の魔物が地面に倒れ折れた枝が四方へ飛び散る中、熊の魔物も地面に沈む。暫く熊の魔物は呻くように身じろいでいたが、程なくして全身の力が抜けるように動かなくなった。

肩で息をしたままその様子を見ていたタスクだが、熊の毛先が徐々に透けてきた事を確認するとゆっくりと剣を収めた。


「タスク!」


離れた所からイオの声がしてそれに応えようとしたタスクだが、剣を納めた途端に全身が重くなり視界が揺らいだ。

遠くでタスクの名を呼ぶ声が聞こえた気がするが、何も応えることができないままタスクの意識は暗闇の中へ飲み込まれていった。






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