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昔話のつづき  作者: なか
第一章
28/37

25 空を掴む



「もう、ほんと、信じられない…」


「はははっ、大丈夫か?」


結晶の神殿を出て見えない橋を渡り終えたイオは、膝に両手をついて項垂れていた。そんなイオへ明るい笑顔を向けるタスクに、イオは恨みがましい目を向ける。

その後は問題無く村に戻った2人は旅の準備をすると、次の日には村を出発することにした。




「恵みの力ってどうやって使うんだ?」


その日の目的地へ向かう道中、休憩中にタスクはイオへ問いかけた。


「どうやってって言われてもなぁ。…まずはミールに言われたように、剣を握った時に力の結晶を触った時の感覚を思い出すことかな」


「昨日もそれでやってみたんだけど、今一よくわかんねえんだよなぁ」


眉を寄せながらタスクが話すと、イオは考えるように視線を逸らした。


「うーん、私も感覚的な事しかわからないからなぁ。…前にミールが、恵みの力を使うには力の素になるエシカと祷力を組み合わせるって言ってたの覚えてる?」


「ん?あー…確か、神々の神殿で言ってたやつか?」


「そう、それ。エシカは祷力に反応するみたいだから、剣に祷力を流して周囲のエシカを引き寄せて恵みの力にする。タスクが昨日触ったのは風の恵みの力の結晶だし、集めるのは風の素になるエシカかな」


「全くもってわかんねえぞ?…んー、イオはエシカがあることがわかるのか?」


「剣を握って集中すればね。エシカを感知するきっかけが、力の結晶を触った時の感覚なんだよ」


「とんでもなく手探りだな…」


タスクが悩ましげに頭を抱えると、イオが大きく息を吐いた。


「しょうがないね、誰もできない事をするんだから。とりあえず、剣を握って手や剣に風が当たる感覚をイメージして集中する感じじゃない?」


「…とりあえず、やってみるか」




夕暮れ時。

宿泊予定の町に着いた2人は、宿を探す為に薄暗くなりだした町の中を歩いていた。ここアツハナの町は馬車の行き来が多くそれなりに大きな町のようで、宿泊先もすぐに見つかりそうであった。


「ねぇタスク、少し嫌な気配しない?」


町の中心街を暫く歩いた時だった。賑やかな町の中とは対照的に、眉間に皺を寄せたイオが真剣な目をタスクに向ける。


「まさか、魔物か?町中にいるのか?」


驚きに目を見開いたタスクに、イオは静かに首を振る。


「まだ離れた所にいるみたい。この微かな気配だと、町の外じゃないかな」


「…なんにしても、人に被害が出たらまずい。行ってみよう」


イオを先頭に2人は来た道とは反対側へ進んでいく。

町を横断するように足早に進み、建物が少なくなった町の外れに差し掛かった所でタスクにも魔物の気配が掴めてきた。


「確かに、魔物の気配だ。でもこの感じだと、まだ距離があるよな?よく気がついたな」


「練習してきた甲斐があったかな。休憩をする前に、魔物の気配を探るようにしてたから」


イオの言葉に、タスクは渋い表情を浮かべる。


「いつの間にそんな事してたんだよ。…俺も練習しないとだな」


「タスクはその前に、恵みの力を使えるようにしてからじゃない?私も、恵みの力が使えるようになってから魔物の気配が探しやすくなったから」


「う〜ん。…何かきっかけでもあればなあ〜」


実体のない空気を掴むが如く、恵みの力に対して全く手応えを感じていないタスクは空を仰いだ。

2人は町を離れ街道を進む。辺りは暗くなってきており、左右に広がる森の奥には夜が訪れてきている。道幅の広い通りだが、そこを行き交う者はいない。街道を進むにつれて魔物の気配が確かなものになってきているが、それらしき姿はまだ見当たらない。


「森の中か?」


「かもしれない」


タスクの言葉にイオも頷きながら、近くなってきた魔物の気配を辿り慎重に足を進める。

暫くすると、道の両脇に広がる木々の中の一つに目が留まる。


「木の魔物か?」


「木の影に隠れているのかもしれない」


2人は剣に手を伸ばしながら、イオが言ったように木とその周囲の暗く沈んだ辺りを警戒しながら近付く。

木まで数メートルまで近づいた時、木の下の方で鈍く光る2つの光が見えたと思った途端に木の影から大きな黒い塊が飛び出してきた。2人は咄嗟に後ろへ下がり飛び出してきたものから距離を取る。


「熊の魔物?」


剣を抜いたタスクの視線の先には、太い四肢で地面を踏みしめる熊の姿があった。黒い毛に覆われた中には、僅かな光を反射させた目が鈍く光っている。体を起こせば、2人の身長を優に越す大きさはありそうだ。


「気をつけて、他にもまだいるはず」


タスクに続いて剣を抜いたイオが、周囲の魔物の気配を探っていると微かに足元から音が聞こえてきた。僅かな物音に気がついた途端、片足に何かが巻き付く感覚があった。はっとして足元を見ると、地面から伸びた蔓のような物が足首に巻き付いている。咄嗟に足を引こうとするが、蔓がしっかりと巻き付いていて全く動かせない。


「何だ⁈」


タスクの片足にもイオと同じように、地面から伸びた蔓が巻きついていた。

すぐに熊の魔物の方を見ると、2人が動けない事を見て取ったのか大きな体を揺らして走り始めた。

タスクは急いで足を動かそうとするが、蔓が固く巻き付いていて阻まれてしまう。素早く顔を上げると、飛びかかってきそうな距離にまで迫った魔物の姿が目に映る。タスクが歯を食い縛り剣を構えると、足元から何かが弾けるような重い音がしたのと同時に目の前に水が噴き上がり魔物との間を遮った。


「タスク、下がって!」


イオの声ではっと我に帰ったタスクは咄嗟に蔓が巻き付いた足を動かすと、僅かな抵抗があっただけで簡単に引き剥がすことができた。そのまま先に後ろへ下がっていたイオの元まで後退しつつ熊の魔物の様子を見ると、先程の水が当たったのか顔を振りながら背後へ戻って行く姿があった。


「助かった」


タスクが声をかけると、イオは軽く首を横へ振った。


「タスクが言った通り、さっきの木も魔物だったようだね」


「じゃぁ、足に巻き付いてきた蔓は木の根っこか?」


「そうみたい。さっきの所までは木の根が伸びてきてるようだから、近付く時は捕まらないように動かないとね」


「わかっ…」


返事をしながらイオの方へ顔を向けたタスクは不意に言葉を詰まらせた。


「タスク?」


不自然に言葉を止めた事を疑問に思いイオがタスクの方を向くと、タスクは町とは反対側の暗くなった道の先を指差した。


「あれって…人か?」


タスクの声にイオが振り向くと、黄色がかった小さな灯りが木々の間を抜けて移動してきているのが見えた。


「まずいね…。タスク、暫く魔物を引き留められる?」


「ああ、任せとけ」


「すぐに戻るから」


イオはそう言うや否や小さな灯りの元へ走り出した。すると、じりじりと2人との距離を見ていた熊の魔物がイオの方へ頭を向けた。


「お前らの相手は俺だ!」


タスクはそう言うと、熊の魔物に向けて走り出した。木の近くにいる熊の魔物に向かう途中でふと思い立つと、先ほど木の根に捕まった位置で方向を変え魔物の周りを回り込むように走り出す。すると、タスクが方向を変えた辺りで地面を押し退ける音と共に木の根がひとつ2つと伸び上がった。その様子を確認しているとタスクの足元からも物音があり、咄嗟に後方に下がると地面から木の根が飛び出してきた。イオの言った通り、一度捕まった所と同じ木からの距離の所には既に木の根が伸びてきているようだ。


「さて、どうするか」


タスクが魔物を睨みながら剣を構え直すと、不意にあの感覚が蘇ってきた。それは結晶の神殿で感じて以来のもので、激しさは無いが全身を包むように駆け抜ける感覚はタスクのよく知る感覚だった。


これが、風の感覚…


タスクは静かに呼吸をすると、魔物の姿を見据えた。





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