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昔話のつづき  作者: なか
第一章
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24 風の声



イオが落ち着いたところで、タスクと共に神殿の扉を開けた。

神殿の内部はナウリの村の神殿とほぼ変わらず、柱以外に遮る物のない開けた空間になっている。その中でも窓だけは違っており、扉から向かって両側の壁には縦に細長い形の物がいくつか嵌められていた。細長く切り取られた景色には、途切れた地面とその奥の彼方に流れる白い雲が見える。

2人が室内へ進み扉が閉じると、先ほどまで絶えず聞こえていた風の音が全くしなくなり辺りを静寂が包んだ。まるで全く違う場所へ移動してきたかのように雰囲気が変わった室内は、窓から差し込む陽の光が存在感を増したかのように感じられ神聖な空気が満ちたような気がした。


「中はあんまり違わないんだな」


部屋の中央へ近づいたタスクは、床にある丸い溝とそれを囲むように広がる文字の塊を見下ろした。


「そう、だね」


室内を見回していたイオがタスクの隣へ近づくと、頭上から陽の光を浴びたかのような感覚を受け既視感のある感覚に2人は顔を見合わせた。


『…タスク、イオ、聞こえますか?』


2人が何かを言う前に、想像していた人物の声が聞こえてくる。


「ミールか?聞こえるぜ?」


『無事に辿り着けたようで良かった』


宙に呼びかけたタスクの声に、ほっとしたようなミールの声が返ってきた。


「まさか、神殿が地面ごと空に浮いてるなんて思わなかったぜ」


「ほんと、凄いけどとんでもないね」


どこか得意げに腕を組むタスクの隣では、イオが疲れたように緩く首を振る。2人の声から様子が伝わったのか、ミールの楽しそうに笑う声が聞こえてきた。

 

『それは、私も見てみたいですね』


「そっか、ミールは来たことないんだな」


意外そうに顔を上げたタスクに、ミールの穏やかな声が返ってくる。


『ええ、いつか行ってみたいですね。その時は、案内をお願いします』


「おう。任せろ」


イオが渋い顔をするなか胸を張るタスクの様子が伝わったのか、ミールが穏やかに笑う声が聞こえてきた。


『さて、そろそろ本題に入りましょうか』


ミールのその言葉で2人は表情を改める。


『やり方は前回と同じです。ここには風の恵みの力の結晶が隠されています。力の刻み込みを行い力の結晶が現れたら、力の結晶に選ばれた人は臆せず手を伸ばしてください』


「わかった」


2人の返事の後、僅かに間を空けたミールはゆっくりと言葉を繋げた。


『2人とも、剣の準備をして円の模様の中に入ってください』


2人が剣を抜き円の中に立つと、タスクが顔を上げた。


「準備できたぜ」


『では、始めましょう。剣の先を床につけて、光の力と共に祷力を流してください』


ミールの声で剣に意識を向けた2人は、剣から光の力を受け取り体を巡らせた後、剣の先から床に力を流した。床へ力が伝わると、それぞれの剣先から光の輪が波紋のように広がり、2つの輪が合わさると床から壁へと伝い部屋全体へ一気に広がっていった。細かな光の粉が空中に名残となって煌めくのを見回していた2人は、部屋の中心で何かが光ることに気がつき目を向ける。部屋の中心では光の粒が浮かんでおり、辺りに舞う光の粉を引き寄せるように輝くと瞬く間に3センチほどの姿になった。直ぐに輝きが収まり現れた姿はほぼ透明な球体で、その表面の所々を薄い緑色が流れてゆく。その様子は風が吹き抜ける草原を思い起こさせた。




「綺麗…」


イオが思わず呟く中、タスクは内側から光り輝く球体から目が離せなくなっていた。


これは、何処かで…いや、知ってる…これは…


タスクが記憶の糸を辿ろうとしていると、力の結晶である球体が脈打つように一度輝いた。それと同時に、タスクの頭に中にある光景が浮かぶ。昨日も目にし、今日も見てきた馴染みのある景色に、タスクの思いは確信へと変わる。


やっぱりそうだ。これは俺のよく知ってる…


タスクの耳に、よく知っていて慣れ親しんだ音が遠くに聞こえた気がした。それは、先ほどまで耳にしていたものでもあった。思わず口元に笑みが浮かんだタスクは、もう一度力の結晶が輝いたことに応えるように片手を伸ばしていた。


イオはタスクの動きに気づいたが、何も言わず静かに見守る。


いつもは見えるようで見えず、触れられるようで触れられないものの結晶へゆっくりと手を伸ばしたタスクに、力の結晶もまるで迎えに行くように近づく。そして、タスクの指先が触れた途端に力の結晶が眩く輝き2人を光で包み込んだ。


「っ…!」


タスクは光で包まれるのとほぼ同時に、全身のあらゆる方向から突風が吹きつけるような感覚があり身動きがとれなくなった。あらゆる方向に体が押され吹き飛ばされそうになるのを、足を踏ん張りなんとか堪えていると何処かから微かに声が聞こえてきた。


『へぇー…お前が…継承者ってやつか。…まあ…頑張れよ…』


ふと、タスクの全身にかかる圧力が無くなり、目を開けると辺りを包んでいた光も無くなっていた。思わず詰めていた息を吐き顔を上げると、宙に浮いていた力の結晶も無くなっている。


「タスク、大丈夫?」


余韻のように頬に空気の流れを感じていると、宙を見つめたまま無言でいたタスクの耳にイオの声が聞こえてきた。はっとして声のした方を向くと、僅かに眉を寄せたイオと目が合う。


「…ああ、大丈夫だ。イオは、何ともなかったか?」


「私は、力の結晶が光るのを見ただけだから何ともないよ」


「そっか…」


そこでタスクは先ほど聞いた微かな声を思い出し、イオの声ともミールの声とも違うことに首を捻った。


『今回、風の恵みの力の結晶に選ばれたのはタスクだったようですね』


「ああ。…なあ、ミール。さっき力の結晶に触った時に、誰かの声が聞こえた気がしたんだけど…何か知らないか?」


『そうでしたか…』


タスクの問いかけに、僅かにミールの考えるような気配があった。


『私が調べたところでは、そのような記載はありませんでした。しかし、そこは光の神の力を借りて作られた場所。何かしら、記録に載せきれない影響もあるのかもしれません』


「タスクにも、声が聞こえたんだね」


「そいやぁ、イオも前に言ってたな。今回も聞こえたのか?」


この前の神殿での事を思い出したタスクがイオの方を向くと、イオは首を横に振った。


「今回は何も聞こえなかったから、力の結晶に触れた人だけに聞こえたのかもしれないね」


『イオも聞こえていたのですね。…この事は私も覚えておきましょう』


それと、とミールが前置きをして言葉を続ける。


『前回イオにも言いましたが、タスクは力の結晶に触れた時の感覚を忘れないようにしてください。それが、恵みの力を使う時の手がかりになります。既にイオは力が使えるようになってきていると思うので、共に鍛錬を続けるようにしてください』


「わかった。よろしくな、イオ」


良い笑顔で振り向いたタスクに、イオは顔を引き攣らせた。


「あぁ…よろしく…」


そんな2人の様子がわかったのか、ミールの笑う気配が伝わってくる。


『次に2人に行ってもらいたい場所は、ホヒバの村です。その村にも聖域とされている場所があり、そこの祈りの場に神殿へ繋がる扉が隠されています』


「ホヒバ…カントの生産地だっけ?」


「ああ、どっかで聞いたことがあると思えば」


イオの言葉に、タスクは今思い出したと言わんばかりに手を叩いた。カントとは手のひらくらいの大きさの丸くて薄い赤色をした果物で、熟すと甘い香りがし食べるとすっきりとした甘さなのが特徴だ。


『そうです、国の西の外れに位置している村です』


「よし!じゃあ、次の場所へ行くか」


タスクの言葉にイオが頷いたところで、ミールの心配するような声が聞こえてきた。


『最近になって、魔物の動きが活発になってきているように感じます。2人とも、くれぐれも気をつけてください』


「…わかった、ミールも気をつけてね」


『ええ、ありがとう』


イオの言葉にミールが穏やかに応えたのを最後に、2人は神殿を後にした。







ここまでお付き合いいただき、ありがとうございます。


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