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13 幸せな結末をきみと



 翌日、繰り延べになった鴨は、イネス一家とマクシミリアンとアントニオによって平らげられ、その後、コーヒーテーブルを囲んで一同が集まった。



「今日は、あちこちで昨日の晩餐会の噂で持ちきりだ。充分恥もかいて、大人しく帰国するだろうな」

 トリスタンが言う。


「先日の歌劇場のこともあったし、彼らは悪い評判だけ残して行くのね」

 イネスが続ける。



「しかし、僕も見たかったよ、トニーとマクシミリアン殿のアルゼンチン・タンゴをさ」

 少し離れた椅子に腰掛けたミゲルがアントニオに目配せする。


「楽しかったよ、またやろうじゃないか、マックス」

 ウイスキーを傾けながらアントニオが答える。

「ああ、是非とも」



「結果良ければ全て良しだが、あの手の輩には気をつけたまえよ」

 トリスタンの言葉にマクシミリアンが頷く。


「悪巧みはどっちがしたの?」

「イネスに決まってるだろ?清廉なレイナム子爵ではあるまい」

 アントニオが口を挟んだ。


「まあ、酷いわね。私が意地の悪い女みたいな言い方!」

「しかるべき意趣返しができるよう、事前に二人で決めましたよ」


「… ちょっと!」

 イネスを援護したマクシミリアンが、両親の目の前でイネスの手を握ってくるため、慌てて手を振り解く。


 アントニオが冷やかしの口笛を吹くと、皆が笑い声を上げる。



「イネスには、両親と四人の小舅がいる。君には、いつも十二の目が向けられていることを忘れないでくれたまえよ。それに、我々の手にも負えない暴れ馬なのだから、君の手綱捌き次第だ」


「そうだ。鉄道が開通すれば、その日の内に君の領地に僕たちは駆けつけることができる。その代わり、イネスがへそを曲げて里帰りすると言ったときも帰って来やすくもなるのだから、気をつけてくれよ」

 トリスタンとミゲルの言葉にイネス以外の皆がまた賛同し、再び笑い声に包まれた。







 晩餐会から数日でフィンボールド侯爵一家が帰国し、マクシミリアンに平穏が戻った。


 マクシミリアンは一年の留年も覚悟していたが、課程は順調に進み、三ヶ月後に予定通り帰国の見込みだ。

 イネスの家族との毎週の晩餐も、初めこそぎくしゃくしていたもののいつの間にか打ち解け、マクシミリアンはイネスの五人目の幼馴染だと言っても不思議ではないほどになった。





 イネスは、サンタンジェリン教会のベンチから夕焼けを眺めている。



「リズ、お待たせ… 」

 マクシミリアンがやって来た。彼を待っていたのだ。


「マクシー…」

 イネスが立ち上がろうとすると、マクシミリアンに制される。


「ここで、少し話をしよう」

「ええ」


 マクシミリアンはイネスの隣りに腰掛けると、周囲を見渡す。

「何か気にしてる?」

「神殿で逢引きをすると、アモナズロに邪魔をされるかもしれない… 」


「ふふ、逃亡経路の話?」

「そう。逃亡じゃないけれど… 」

 そう言うと、マクシミリアンは一呼吸置く。


「僕は、きみがデビューしてから三ヶ月、ずっときみと話す機会を待っていた」


「え?」

「きみがどの夜会に来るかわからなくて、何度も空振りした。同じ会にいても、きみを紹介してくれる知人が見つからなくて、やっぱり空振りした。やっときみを紹介された夜会では、ダンスに誘えなかった。それで、きみと絵を見た夜会。あの時、やっときみに辿り着いたんだ」


「話らしい話をしたのはあの時が初めてじゃない?」

「思った通りの人だった」

 マクシミリアンがイネスに手を重ねる。


「私のほんの一部しか知らなかったのに?」

「そうかもしれない。でもきみ以上に僕が知っている女性はいなかったし、今もこれからもきみ以上の人は現れない。だから、一緒に生きていこう。僕の国に、来て欲しい。きみも、きみの大切な人も、きみの大切な思い出も、僕が守っていく」



「… それは、プロポーズ?」

「え? 通じなかった?」


「何か、足りないんじゃない?」

 イネスが言うと、マクシミリアンが小さく、あっ、と声を漏らす。


 マクシミリアンはイネスの手を取り、大きな石のついた指輪をイネスの指にゆっくりとはめる。


「きみを愛してる。この先、もっともっと深く、きみを愛したい」

「私も… 」


 マクシミリアンの指がイネスのおとがいに触れると、イネスは瞳を閉じる。



「僕たちの結末には幸せしかないから… 」

 吐息混じりのマクシミリアンの言葉にイネスは頷いて、互いの額を合わせた。



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