えいぷりるふーる -真夏の通り雨-
「雫、おはよう」
「おはよう」
雫はクラスメートの女子に挨拶をする。すると、後方からも声がした。
「雫、おはよう!」
彼は雫に笑顔で抱きつく。
「ちょ、ちょっと!」
雫は驚く。が、彼は気にしない。
「あはは、やっぱり、雫をからかうのはおもしろいな!」
彼は純粋な笑顔を見せる。
「もう! からかわないで!」
雫は彼に怒った。
――こいつは、玲生。
――私の幼なじみであり、同級生。そして。
「玲生。宿題やった?」
「やった」
彼、玲生は髪をかきあげながら、言う。
――はい。嘘。
――こいつは、嘘をつくとき、髪をかきあげる癖があるのだ。
昼休み
「雫! 一緒に昼飯くおー!」
玲生は雫に抱きつく。
「ちょっとー!」
雫は驚く。
「あはは。やっぱり、雫をからかうのはおもしろい!」
玲生は笑顔で言う。
――髪をかきあげてない。本心か。このやろう!
雫は怒りを必死に抑え込んだ。
屋上
「雫、進路決まった?」
玲生が聞いて来た。
「うん。そういう玲生は?」
雫は聞き返す。
「まだ」
玲生は簡潔に答える。
「そうなんだ。家のあと継がないの? 美容院でしょ?」
「まぁ、あんまり、美容師の仕事に興味ないからな」
「そっか」
雫は俯いた。
「お前は、家継ぐのか?」
玲生は雫を見る。
「うん。一応、父は開業医だし」
「そっか、別々の大学か。なんかさみしいな」
――髪をかきあげてない。もしかして、さみしいって、本心?
――だったら。
「ねぇ」
雫は玲生に話しかける。
「ん?」
玲生は彼女を見る。
「最後の夏休み、何がしたい?」
「え?」
玲生は少し、きょとんとする。
「海へ行ったり、バーベキューしたり」
「うーん?」
玲生は考える。すると、雫は付け加える。
「恋したり」
「え!?」
玲生は顔を赤くする。そして。
「ば、ばか言いやがって!」
そう言い、照れた。すると、雫は彼の仕草を見る。
――あ、また、髪をかきあげてない。
雫はくすっと笑い、彼を見ながら、言う。
「冗談だよ」
「え!? 冗談……。って! からかうなぁ!」
玲生は少し、照れくさそうに、怒った。
――あーあ。もすうぐ夏休みかぁ。
――何か、進展しないかなぁ。
雫は青空を見上げた。
次の日
「雫、おはよう」
玲生は髪をかき上げながら、彼女に挨拶する。
――何で挨拶で嘘を!?
雫は驚く。
「じゃ、俺は教室に」
玲生はぎこちなく、言葉を続けると、そそくさと教室へと向かった。
――な、何だ!?
――もしかして、昨日のこと、気にしているのかな?
雫は少し、ドキドキがこみ上げた。
授業中
雫は玲生をチラ見する。
「この英文を玲生、答えろ」
先生が玲生を当てる。
「はい。月がきれいではないですね」
玲生は髪をかきあげながら、答えた。
「お前、全然、違うぞ」
先生はそれを聞き、呆れた。
――何、英語の時間に嘘ついてるの?
雫は唖然としていた。
昼休み 屋上
「あー。先生に怒られたぁ!」
玲生は伸びをしながら、叫んだ。
「あんな、変な日本語訳言うから」
雫は少し、笑いながら、言う。
「だって、それどころじゃ」
玲生はぼそりと呟くように言い、俯く。
「ん?」
雫はそれを見て、玲生の顔を覗き込む。
「何でもない」
それに対して、玲生はそっぽを向きながら、髪をかきあげた。
――なんか、あるんだなこいつ。
――もし、そうなら、向こうから告白してほしいな、なんて。
――思っちゃだめかなぁ。
――あ、空が青い。
――もうすぐ、夕立だ。
雫は少し、ドキドキした。
放課後
――わぁ、夕立。
――傘、忘れちゃった。
雫は校舎の玄関で立ち尽くした。すると、後方から声が聞こえた。
「お前、何やってんだ?」
雫は振り返る。すると、玲生だった。
「傘、忘れた」
雫はそう言う。
「じゃ、一緒に帰る?」
玲生は傘を差し出す。
「うん。ありがとう」
雫は笑顔で答えた。すると、玲生は少し、戸惑った。
「い、いや。やっぱり、俺、走って帰る。じゃ」
玲生は傘を雫に持たせると、勢いよく走り出した。
「え!? ちょっと!?」
――なぜ? なんか、意識されてるというより、もしかして、嫌われた?
――どうしよう。
雫はその場に取り残された。
次の日
――傘、返さなくちゃ。
――放課後でいいか。
雫は昨日の傘を見た。
放課後
雫は傘を玲生へ返そうと、教室を見渡すが、いない。
――あれ? いつの間にかいない。
――そっか、今日は塾の日か。
――届けよう。
雫は傘を届けることにした。
塾
――あ! いた!
雫は塾の前にいる玲生を見つけた。が、しかし。
――ん? 何やってるんだろう? 一緒にいるのは美涼さん?
美涼は玲生に抱きつく。そして、キスをする。
――え?
雫は傘を落とした。ガシャ。すると、玲生はその音に振り向く。
「雫」
玲生もその場に固まった。
――そんな、どうして。
そんな雫の元に、夕立が再び、降ってくる。
「それじゃ」
雫は走り出す。
「雫! 待て!」
玲生は雫の腕を掴む。が。
「放して!」
雫は叫ぶ。
「誤解だ! 別に何も思ってなんか!」
玲生は髪をかきあげた。
「!?」
――何で、髪を?
雫は目を疑う。そして。
「もういい! 何も聞きたくない!」
雫は走り去った。
「雫」
玲生はその場に佇んだ。
次の日
――どうしよう。学校へ来たけど、……。
――このまま、屋上でさぼろうか。
雫は屋上に向かった。
屋上
――ん? 誰かいる。
雫はドアを少し、開けて彼を見た。
「あれ? 雫さん? どうしたの? 君もさぼり?」
同級生の斗真だった。
「う、うん。まぁ」
雫はぎこちない。
「あ。もしかして、昨日のこと?」
斗真は表情を明るくする。
「え!? 何で分かるの!?」
雫は驚く。
「分かるよ。だって、俺も遠くから見えたし」
――え!?
「そ、そうなの!?」
「まぁね」
斗真は笑顔で続ける。
「ちなみに、昨日の言い分は本当だと思うよ」
「え?」
雫はきょとんとする。
「昨日、ちょうど、夕立が降り始めただろう?」
「うん」
雫は頷く。
「きっと、そのせいだよ。彼が髪をかきあげたのは」
「雨でぬれたから?」
「あぁ。きっと、そうだよ」
斗真は笑顔で言う。
「ということは」
「ということは?」
斗真が嬉しそうに首を傾げる。
「私、謝らなきゃ!」
雫は立ち上がる。
「うん。行って来い」
斗真は笑顔で送り出す。
「斗真君。ありがとう」
雫は走り出した。
放課後
雫は夕立の中、走る。
――塾までもう少し!
――あ! いた!
雫は玲生を見つける。
「玲生!」
「雫?」
玲生は振り返る。
「ごめん」
雫は頭を下げる。
「え」
玲生は戸惑う。
「昨日、玲生の言い分も信じられずに、逃げちゃって」
雫は少し、俯き加減で言う。少し、気まずい。しかし。
「いいよ。そんなの」
玲生は苦笑する。雫は顔を上げる。
「こうして、俺に会いに来てくれたんでしょ? 俺はそれだけでいいよ」
玲生は笑顔だった。それを見て、雫は涙を流す。
――私から言った方がいいの?
「好き」
声が重なる。
「!」
二人は驚く。そして。
「よかった。両想いだね」
玲生は微笑む。
「うれしい」
雫は玲生に抱きついた。