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足踏みする4話

 教室に入ってからは、もうぐったりして帰りたくなっていた。


 けど、従者がみっともない姿を見せてしまっては、主人であるレナ様の顔に泥を塗ってしまうことになるので、ここは気張ろう。

 勇者の精神力を見せてやる!



「……ユウリ?なんで今変顔?」


「変顔してたつもりはないんですが……」


 気張ってるつもりが、変顔してたみたいだ……って、どういう回路でそうなったんだ?


 相変わらず教室内でもレナ様は目立ちまくってる。こんな所で変顔なんてしてたらきっといじめられる。まぁレナ様がいればいじめなんて起きないだろうけど。


 そんなところで、この学校の教授と思われる人が入って来た。



 ここで、レナ様が通っているこの学校について軽く説明しておこう。


 ここはお金持ちの人達がお金で入学し、貧乏な人は死ぬほど頑張って入ることが出来る学校だ。


 だから、多数がお金持ちで、少数の人達が普通の家庭出身である。


 見分けるのは簡単で、お金持ちは皆、メイドをつけている。正に俺みたいな感じ。そして庶民はつけてない。


 教育自体はとても素晴らしいものだが、お金持ち出身の人達は金さえあれば卒業できるので、中身の生徒は大半が腐りかけである。


 ここで教えられていることは、レナ様が通うくらいなので、魔法とは無縁の剣術中心である。


 もっとも、レナ様は世界で1番剣術が上手い人なので、教わる事は何もないのだが。


 というか、今教えられている内容が……



「現代の剣術は、トウガ流とニエスト流に分かれており、トーガ流の極意というのが、相手の視線から剣の流れを読むというものでーーー」




 ーーー俺とレナ様が生み出した剣術の説明であった。



「ユウリ、なんか恥ずかしいね」


 レナ様は、俺にそう耳打ちした。


 うん、実際のところ、すごい恥ずかしい。


 というのも、俺達の旅の中の暇つぶしで、『どっちの剣術が世界に普及するか』というちょっとしたお遊びで、作ったのが俺達とはわからないように広めた剣術だからだ。


 つまり、俺もレナ様も、我流。極意とか、風呂入りながら適当に考えた奴だし。


 ちなみにトーガ流が俺ので、ニエスト流がレナ様のである。


「トーガ流の祖は、はるか2000年前の伝説の刀鍛冶トーガルベスであると言われており、秘伝書の存在などはもはやーーー」


 ごめんなさい。『トーガ』って名前は、名付けた頃滞在してた村の宿屋の主人の名前を拝借しました。トーガルベスさんは知りません。


「そして、ニエスト流の極意は、自らを正しさの境地に至らせることでーーー」



 授業がニエスト流に移ったところで、レナ様に密かに聞いてみた。



「あの極意、レナ様が考えられたのですか?」


「いや、あの時泊まってた宿屋の主人が言ってた」


 もう現代の剣術の祖は、あの時の宿屋の主人なのかもしれない。





 □□□□□□□□





 その日の授業の中で、俺達は外に出ていた。


 剣術の実技の様なもので、2人1組になって組手をするというものだった。


「一緒にやろー」「今日は負けないからな!」「誰か、誰か一緒に……」「組もうぜ!」



 と、各々が2人組を作っていく中、勿論レナ様は大人気だった。



「レナ様、今日は私に!」「私にお教え下さい!」「私に!」「私が!」「いやいや私が!」



 というような感じ。

 朝、レナ様を見ていた生徒達が、許可を得て近づいて来たような感じ。


 それを遠巻きに僕は眺めていた。


 レナ様の言っている内容は特に聞こえなかったが、表情から察するに、ペアのお誘いは断っているみたいだった。


 まぁあれだけ人気だと、特定の1人と組んだらなんかしたらその人がいじめられたりしそうだもんな……断るのが正解だろう。


 なんて呑気に考えていると。



「ーー〜〜……〜〜……ユウリ!」


 と名前を呼ばれたかと思うと、レナ様が僕に向かって、こっちに来るように、手で指示をした。


 使用人なので、駆け足で向かう。



「はい、なんでしょうか?」


 皆んなの話の中に割って入るのは気が引けたが、主人に呼ばれてしまっては仕方がない。


 そう考えていた矢先。




「私、この子と組むから」




 レナ様の発言で、その場の空気が凍った。


 俺の思考も凍った。




「え、えぇぇぇっ!?!?」




 そして最初に驚きの声をあげたのも俺だった。


 レナ様に集まっていた注目が、一斉に俺に向いた。


 うわ、目だけでこの人達が何言いたいか分かってしまうぞ……

「誰?」「なんでコイツ?」「メイド風情が?」「強いの?」

 みたいなこと考えているんだろうな……



「れ、レナ様?メイドのわたしは参加必須ではございませんので、ぜひとも、ご学友の皆様と組手をなさいませ」


「えー?ユウリがいいよ」


「いえいえ、私など、剣術はからっきしでございますので、ご学友の皆様と組まれるのがよろしいかと」


「誰も私について来れないから、ユウリと組んでも変わらないよ」


 頑固な奴っ……って、今は主人なんだった。

 頑固なお方っ……


 レナ様が言ってるから誰も文句は言ってないけど、皆んなの目が「断れ、断れぇぇっ……!」って言ってるんだよ!


 どうしたら……



「もういいや。早くあっちで始めよ」



 僕が苦しんで考えていると、レナ様が俺のことを引っ張ってきた。



「何するんですか!?」


「組手!」


 そんなこと聞いてるんじゃない!

 レナ様は、俺がYESと言わないから、強引な手段に訴えたようだった。


 というか、痛い!引っ張ってる腕が痛い!てかもげる!痛い痛い痛い痛い!


 そして、広場の端っこまで連れて来られた。



「じゃ、始めよっか!」


 レナ様は、俺に先生から配られた木の剣を渡してきた。


「始めるって……」


 そう言いますけどね、さっきレナ様に組手を申し込んでいた人達が、組手をするふりして俺達の周りを囲んでるんですよ。


 そして俺を見てるんすよ。


 怖ぇぇぇ……



「ほら、構えて!」


「は、はい!」


 でも主人であるレナ様が言うならやるしかない。腹を括ろう。



 今の俺は、初心者冒険者ですら装備しないような木の剣ですら、両手持ちでしか振り回せない。


 だけど、両手持ち用の剣も扱った経験があるので、それ用の構えをしてみた。



「……ユウリ、構えは変わってないね」


「構えだけなら変わらないですよ」


 これからの動き方も分かる。頭の中に、経験が思い浮かぶ。


 俺がトーガ流と名付けて流布した剣術は、俺が勇者として使っていた剣術の一部である。


 つまり、現代剣術の先の先を行っている剣術を、俺はかつて扱っていた。


 レナ様との組手に関しても、旅の中で何度も行って来たから、レナ様がどう動いてくるか、大体予想がついている。


 1回、今の俺がどこまで戦えるか挑戦してみるか。



「行きます!」


 レナ様に宣言して、俺は一気に間合いを詰めるーーー





 ーーーはずが、2歩目でこけた。


 もう、すてーん!すってーん!ってこけた。剣もどっか行った。



「「「「…………」」」」



 時間が停止した。


 ちょ、誰か時間停止魔法使ったぁ?あれ大魔法だから、使えるなんてすごいなぁ!じゃ、時間を進めてもらって良いっすか?


 ……なんてね。知ってるよ、俺のせいなんでしょ?なんかもんくあんのかおい。グレるぞ?地面に寝そべったままグレるぞ?



「ゆ、ユウリ、ゆっくりやろっか。ゼロから教えてあげるね」


 レナ様に気を遣われている!


 しかも、周りの人も多分気まずそうに俺から目を背けている気がする!流石に無能というかドジすぎて、皆んな目を逸らしてる気がする!


 学校、嫌かも!

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