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色々な説明を含めたプロローグ

「ハァ……ハァ……魔王ヴァルラダ、これでお前も終わりだ……」


 勇者と呼ばれることもある俺は、朦朧とする意識を繋ぎ止めながら、聖剣すらも杖にして、前へと歩みを進める。


 もはや廃墟となった『魔王城』に、体のほとんどを失った魔王が横たわっている。


 辛うじて見える胸元には、『核』と呼べるものが、剥き出しになっていた。



「ハァ……ハァ……終わりだッ……!」


 俺は聖剣を振り上げ、そこへ突き刺した。



 最期は、あっけなかった。ガラス玉を落としてしまったような軽い音と、感触。



 これで、終わり。

 数年間に渡るはずの、俺の異世界での旅は終わり。



 やっと、俺の使命も終わりーーー




【勇者よ、油断したな!!】


「ッ!?」



 ーーーが、次の瞬間には、俺の周りには黒い煙が立ち込めていた。


 発生源は、魔王の『核』。



【我を殺すお前が、ただで生きていられると思うなよ!】


 やがて、黒い煙が、俺の体内に侵入してくる。


「うがッ……あぁァァ……」


 体の力が抜けていく。

 脳に記憶として刻み込まれてきた経験が、消化されていくみたいだった。



【フフフハハハハハハーーーー………】



 魔王の高笑いが、いつまでも、耳の奥で反響していた。



 魔王の断末魔の高笑いを聴きながら、俺は薄れ行く意識を手放していった。





 □□□□□□□□





「レナ様、朝ですよ」


 所変わって、こちらは王都ランスロー。


 その中の、とある大豪邸。


「う〜ん…….まだ、まだ眠い……」


「眠くても、起きてください。レナ様、学校のお時間ですよ」


「いいよ行かなくて。その代わり、ユウリが教えてよ」


「駄目です。お母様から、必ず学校に送るように言われておりますから」


 レナ様は、渋々起き上がった。


「ユウリ、着替えさせてよ」


「は、はぁっ!?何言ってん………何をおっしゃいますか、レナ様?ご自分でお着替え下さい」


「ちぇー、つまんないのー」


 レナ様は、立ち上がって、あろうことか、いきなり服を脱ぎ始めた。


「ちょ、ちょっと待って下さい!急に裸を見せないで!」


「え〜?別に見たって良いじゃない?私達、()()()なんだし〜」


「レナ様……お前、わざと言ってるだろぉ!」


 涙目になりながら、俺は叫んだ。

 もちろん、おそらく肌を露出してるだろうレナ様の方は見ずに。



 今更だし最悪のタイミングだが、俺の自己紹介をしておこう。


 俺は、()勇者のユウリ。魔王を倒しことから、晴れて英雄となって帰国し、今後の人生遊んで暮らすーーー



 ーーーはずだった、悲劇の男。


 そして突然だが、今俺は、メイド服を着ている。


 ……うん。今、絶対勘違いしたよね?唯一の趣味がメイド服を着る事の可哀想な勇者の姿を、想像したよね?


 違う、違うんです!いや、メイド服は着てるんですけど!


 これは、嫌々なんです!着せられてるんです!


 そこにいるレナ様にーーー



「はい、着替え終わったよ。もうこっち向いていいよ」


「ほ、本当ですか?振り向いたら、裸なんて事はないですか?」


「もう、別に私は裸を見られてもいいんだよ?」


「わたしが良くないんです!」


 決死の思いでレナ様を見ると、俺が用意しておいた彼女の制服にすっかりと着替えてしまっていた。



「それにしても、ユウリのメイド服は可愛いね〜。そんなにメイド服の似合う人、そうそう居ないよ?」


「う、うるさいうるさいうるさい!変な事言うのはやめろ!……下さい」


「あはは、変な敬語ー!」


 無邪気に笑いやがってぇぇぇっ!


 ぎゅっ、と拳を握って、沸々と湧いた怒りを抑える。


 そう。全ての元凶は、コイツ。


 レナ様とか呼んでるけど、別にそんな呼び方したくないコイツ。



 彼女が布団の上でぴょんぴょん跳ねると、肩まで伸びた金髪がぴょこぴょこと跳ねる。


 無垢に笑う姿は、16歳という彼女をまだ幼く見せてくる。


 だが彼女は、齢16にして、『剣聖』と呼ばれている。

 そして、剣の腕前だけなら、勇者として魔王討伐を任された、俺よりも上である。



「ユウリには、反省してもらわないと。()()()姿()になったのは、自己責任でしょ?」


「うぐっ……それを言われると、返す言葉がありませんレナ様」


『そんな姿』とレナ様が言う僕の格好は、なにも、メイド服だけの事を言っているわけではない。


 僕が男として似合わないメイド服を着ていると言うことを嘲っているわけでもない。


 むしろ、自分で思ってしまうが、()()()()()()()()()()()()



「ユウリってば、勇者だった時はあんなに勇ましかったのに、まさか、まさかねぇ」


 レナ様は、ニタァ、という音すら聞こえてくるみたいな、悪い笑顔を顔に浮かべた。




「まさか、そんな可愛い女の子になっちゃうなんてね!」





「ああああああ!!!!」



 事実を再認識させられて、俺は膝から崩れ落ちた。


 そう。俺は、()()()にして、()()()()()()()なのだ。



 もっと詳しく言おう。


 俺が魔王の核を破壊した時に受けた呪いによって、俺は女の子になってしまったのだ。


 それを助けてくれたのが、剣聖であるレナ様。


 だけど、勇者が呪いによって女の子にされたなんて話は、英雄譚に傷がついてしまう。


 しかも、俺の勇者としての能力の大半も、呪いによって封印されてしまった。今ならその辺にいるちっちゃめの虫型の魔物とすら、何らかのラストバトルかの様な熱戦を繰り広げてしまうだろう。



 それもこれも、レナ様が言ったように、全部自己責任なのだ。



 実は、というかもう予想がついていただろうけど、この剣聖は元々、俺の勇者パーティの仲間だったんだ。


 しかし俺は、彼女達仲間を置いて、1人で魔王との戦いに向かったのだ。


 その理由はまた今度話すとして、俺1人で魔王を倒すことが出来たのだが、1人で向かった為に、俺自身も瀕死に陥ってしまい、()()()()()を受けてしまったと言うわけである。



「でも、ユウリが世間に秘密にしたいなんて言うから、私のメイドなんかやる羽目になってるんだよ?別に、魔王の呪いで女の子になっちゃいましたって言っても、私達が賛同すれば、皆んな信じてくれるんじゃない?」


「そうなんですけど……でも、いつか呪いを解いて、ちゃんと元の姿に戻ってから帰ってきたいというか……」


 せっかくの英雄譚を、傷つけたくないんだ。


 という思いはあるのだけど、そうなるとじゃあ今の俺って知り合いも頼る人も誰もいない孤独な少女って事になるよね。


 だから、レナ様が助けてくれたのだけど……



「ユウリがここで暮らす為ならなんでもやる、って言ってくれて嬉しかったよ!一眼見た時から、私のメイドにしたい!って思ってたから……」


 何も出来ない代わりに何か手伝いをさせてくれとレナ様に頼んだのが運の尽き。


 まんまとメイドとして雇われてしまうことになったのだ。




「……ユウリ、本当に嫌なら、辞めても良いんだよ?」


 と、俺がうがぁぁっと頭を抱えていると、レナ様はさっきまでのはしゃぎようから打って変わって、心配そうにこちらを見て、そう言った。


 それを見て俺は思わず、目をまんまるにしてしまった。きっとアホっぽい顔になっていた事だろう。



「あー、えっと……いや、うん。ごめんな、()()。確かにメイド服は好んで着てないし、もちろん嫌なんだけど、レナの役に立ちたいって言うのは本当なんだ。助けてもらった恩があるからさ」


「ユウリ……」


 名家の娘のレナの家はとても広いので、そんな所に、見ず知らずの女の子として、しかも客人としてもてなされ続けるのなんて、それこそ勇者の名に恥じる行為だと思う。



「……敬語、忘れてる」


「あっ!ご、ごめん、じゃなくて、申し訳ございません、レナ様!」



 やっぱり、メイドになるなんて事、辞めた方がいいかもしれない。

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