荷馬車でゴー
「なんだい。人を連れて行こうって腹づもりで来ただろうに、荷馬車しか用意がないのかい?しけてるね」
元気がなかったのではなかったのか。
ナンナは荷馬車に乗り込みながら文句を言った。
騎士と別れて程なく、この荷馬車と兵士の一行が家の前までやってきた。
どうやら先ほどの騎士が同行の許可をとってくれたようで、ナンナとその連れは全員荷馬車に乗って良いと言われた。
一安心だ。
アリーシアも無事間に合った。
村長の娘だし、持っていきたいものはたくさんあったろうに、意外にも荷物は斜めがけの布かばん一つだった。
それに比べてこちらは大荷物だ。ナンナの指示で急ぎまとめた巻物やら何かの植物の粉やらを風呂敷の要領でブランケットに包んだら、もうぱんぱんだ。熊でも入ってるんじゃないかってくらいのサイズは流石に待てない…と思ったら、魔法の一振りでふわふわと荷馬車に乗り込んで行った。
アニメやファンタジー映画で幾度となく見てきたからだろうか。驚いたけれど、ショーでも見ているみたいだった。
マジもんの魔法やん。すげー
本当にナンナは魔女なんだなー
もともと乗っていた荷を端に避けて、荷台の空いたスペースにナンナ、ミリー、アリーシアと、私は座った。
荷台には幌がかかっているので、外の音が遠ざかる。
ガタン!と想像を超える振動を伴いながら、荷馬車が走り出した。
「…あの、そろそろ説明してもらえませんか?」
アリーシアがチラチラとこちらを伺っている。
どうやら私のことを気にしているようだ。そういえば自己紹介がまだだったが…
うっかり舌を噛みそうな振動なのによく話せるな
「まぁそうさな。とりあえず彼女はアヤカだ。私の…孫ってことにするかね」
揺れに翻弄されている私の代わりにナンナがだるそうに説明した。
なぜ孫?と思わないでもないけれど、本当のことを無闇に話す必要はないしね。孫って思われてる方がありがたいか
「するかなって…。はぁ。とりあえずアヤカさん?っておっしゃるんですね。はじめまして。そのぅ…先ほどは失礼しました」
私に気づいてなかったことかな?確かにびっくりしたけど
2人ともこの揺れの中話せるのすごいなと感心しながら、とりあえず頷いておく。
「あんたが気づかないのも無理ないさ。…アヤカは気がついているかい?いや、いないだろうね。あんた、無意識に魔法を使って人から気づかれないようになっているよ」
は?
その瞬間、石にでも乗り上げたのか、一層激しくガタッガタンッ!と揺れた。開きかけた口を慌てて閉じる。
「私も驚いたがね。私がかけた軽度の認識阻害魔法に自分の魔法を重ねがけしてる。…ん?よく見ると、その被ってるシーツに魔法をかけているね。これならシーツを被っている限り、気がつくのは元々の魔法をかけた私か、そこにアヤカがいると知っている人間だけだろうね」
「アヤカさんも魔女なんですか?」
「そうなのかい?」
2人、いやミリーも入れて3人に凝視されて慌てて首を振った。そりゃもう激しく。
「まぁ、そうだろうとは思ったけどね。なにせあんたの魔法はメチャクチャだ。全く法則を無視したかけ方をしてる」
「魔女でないのに魔法が使えるんですか?」
「たまにあることだがね。かなり素養のある者がそれと気づかず無意識に魔法を行使してしまうことは。でもね、そもそも魔法が使える人間はほんの一握り。一生魔法に出会わず死んでいく者がほとんどの世の中では、まぁ珍しいだろうね」
そんなに魔法って貴重なの?!
それを無意識に使ってるって…私天才ですか?
そもそも魔法って物語の世界って感じでものすごく遠い存在なんだよね。ナンナが魔女っていうのは、なんか見た目からそうなんだって受け入れられたけど、自分がそうだと言われるとかめちゃくちゃ驚きなんだけど……………
これが異世界チートってやつ?テンションあがりますわな。うふふふ
私のニヤケ顔はありがたくも古びたシーツで隠された。
「ところで、なぜアヤカさんはそのような…格好をされているんですか?」
今言い淀んだよね?いいんだよ?ボロい格好って言っても
「そうさね。これからはアリーシアと過ごす時間も長くなるだろうから、ちゃんと顔を見せておいた方がいいだろう。あんたが嫌じゃなけりゃ」
またも3人の視線が私に集中する。
別に顔を見せるのは嫌じゃないけど…。むしろこのボロシーツはナンナが被れって言ったのお忘れですか?!
腑に落ちないものを感じながら、シーツを背中に落とした。
「よ…よろ、しく」
ガタガタと激しく揺れて、たどたどしい挨拶になってしまった。
でもこれ以上しゃべれない!舌噛む!
「…………………………………えっと
絶対、ナンナさんのお孫さんではないですよね」
アリーシアはボケた顔で言った。
確かに見た目でわかるわな。盲点だった