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怒涛の展開

「私が何したってんだー!!」

はぁ、はぁ、はぁ

久しぶりに大声出したらすっきりするわー

すぅーはぁーすぅーはぁーうっ!えっふえっふ!

…深呼吸したら咽せた。

「あー、ちょっと落ち着いてきた。さっきまで帰るとか思ってた自分ウケるわー。簡単に帰れたらもう私、神ですやん。ははは」


乾いた笑いは続かず、空気に溶けていった。

周囲からの怪しいものを見るような視線が刺さる。

こちとら大事件発生中でね。そんな目で見るなー!


ふと視線を下げれば、ミリーが恐々見上げていた。

急に大声出したからおかしくなったと思われてる?

あ、口調が素に戻ってたか?


さすがにお世話になっている(今後もお世話になりたい、むしろなる予定)のお宅の子どもを怖がらせるとはいけないけない。

「驚かせてごめんねミリーちゃん。あまりに衝撃的過ぎて…。あ、村のことじゃないよ」

いや、村のこともか?頭がぐちゃぐちゃだ。


異世界云々については秘密にした方がいいんだろうか?した方がいいんだろうな。ミリーには言ってもいいけど。すでに女神様とか言われちゃってるし。

「なんでここに飛ばされたんだろう…」

なんでもっと裕福な、衣食住が整った場所に飛ばされなかったのか。これから苦労することが目に見えているのに。


誰にでもいいから、愚痴を言いたい。話を聞いてほしい。

けれど、この世界で私が異世界から来たと認めているのは今のところナンナだけだ。今はナンナを頼りにするしかない。


私の服を心許ないくらい細い手が遠慮がちに引っ張った。


「アヤカ様は私たちを助けるためにつかわされたんでしょう?ご飯がいっぱい食べられるように。誰も死なないように」

真剣なミリーの瞳が私を貫いた。


マジかよ。ただの一般人な私に本気で期待してるじゃん…

なんと答えればいいか窮して、カエルが潰れたような声しか出せない私にそんな奇跡の技を期待しないでほしい。


あれ?そういえばナンナが奇跡の力がどうたら言ってたような…


「おい!ありゃなんじゃ?!」

突然、近くにいた老人たちがざわつき始めた。


「馬か?行商が来るには変な時期じゃな」

「いや…それにしては土煙が激しい。もっと大勢のような…」

「こっちにくるぞ!」

不穏な雰囲気が村を駆け抜けて、みんな急いで家の中に消えて行く。音を立てて家々の窓や扉が閉ざされた。


「アヤカ様!私たちも隠れようよ!」

とりあえず教会へ、とミリーに連れられて石造りの建物へ入った。ステンドグラスのような豪華な装飾はないものの、素朴なタペストリーが横断幕のように垂らされている。

そこには先客がいた。


「あら、ミリー?ここにくるなんて珍しいわね」

ふんわりと笑った顔が守ってあげたくなる系美人なお姉さんがいた。

「あ、突然ごめんなさい!少しの間、ここにいてもいいですか?」

「もちろんよ。ここは教会。いつでも誰だって来ていいところなんだから」

お姉さんは私を見もせずに、ミリーを長椅子に案内した。

私は無視ですか?

ちょっともやっとしてしまった。いや、ここは小学生のミリーを優先すべきであっていくら私が見知らぬ土地に迷い込んだ哀れな子羊だからと言って…


外からたくさんの馬の蹄といななきが響いた。

はっとして3人が振り返った直後、教会の入り口が勢いよく開け放たれた。

「全員外へ出ろ!」

革鎧?を着た逞しい男だった。

え?腰のアレって剣ですか??

「突然なんですか!神の御前ですよ!」

「我らは帝国軍だ!わかったらさっさと外に出てこい!出ないと引き摺り出すぞ!」

粗暴な言い様にお姉さんが青ざめながら立ち上がった。ミリーも震えながら着いて行く。


これは行くしかなさそう…だけど、絶対事件じゃん。何かに巻き込まれてるじゃん?

帝国ってなに?剣とか鎧とか本当に中世なんだけど、この世界そういう感じ?


外に出ると、先ほどと同じような格好をした兵士?がひしめいていた。

他の家々からも同様に住人が追い立てられている。

私たちも集められた他の住人と一緒に、村長宅の前の広場に座った。

見渡すと、女子どもと老人ばかりだ。


「こいつら帝国軍だって」

「国境の砦は落ちたの?!」

「わしに聞くな」

「こんな田舎に帝国が何のようだってんだ」

「そこ!うるせーぞ!」


兵士の一喝に住人が黙る。

隣でミリーが不安そうに私の手を握ってきた。

声をかけようとした私より早く、お姉さんが優しく囁いた。

「ミリー、私のそばから離れないでね。大丈夫。ちゃんとナンナさんのところに帰してあげるから」

お姉さん、近くで見ると本当にモデルさんみたい…。これはお姉さんこそ守ってあげねば攫われるのでは?


ふと周りが皆同じ方を向いていることに気づいて顔を上げた。

兵士たちが脇へ避ける。その向こうから身なりのいい集団が近づいて来た。


先頭に、シルバーの綺麗な鎧兜で全身覆った騎士っぽい人物。その次に、服がきつそう(特に腹周りが)な中年男がふんぞり返ってやって来た。その後にも、先ほどの鎧とお揃いのシルバーの騎士らしい集団が続く。


男たちの乗った馬が広場で立ち止まると、後ろから小姓?と思しき軽装の男が懸命に走って来た。

太った中年男の一瞥を受けてなんとか息を整えると、小姓は背筋を伸ばした。

「聞け!サバニ村の住民よ!このお方はカザルス帝国ロイ・シュミット・ハウゼン伯爵様である!そのお言葉、心して拝聴せよ!」

ゼェゼェいいながらもなんとか役目を果たした小姓が脇へ下がる。上司にいいように使われている苦労人感が半端ない。

そのハウゼンとは太った中年男のようで、もったいぶった様子で咳払いした。

「我は皇帝陛下より勅命を受けこの地に参じた」

集められた住人が固唾を飲んでハウゼンに注目する。

ハウゼンは得意そうに顎を上げた。


「先日の国境戦では我が国が勝利した。このまま連合国への侵攻もやぶさかではなかったが、恐れ多くも皇帝陛下がこれ以上の犠牲は無用と御下知なされた。なんと慈悲深いことか!」

ハウゼンがにやりと嫌な笑いを浮かべた。

「停戦会議では、連合国代表議会から感謝の言葉と共に、連合国内で我らが好きに動けるよう取り計らうと約束された。よって我らは争いに来たのではない」

なんだそれは。

結局傘下に収めたのと変わらないんじゃないか?

細かい事情や戦争?についてはわからないが、帝国が胡散臭いやつらの集まりだと感じた私は顔を顰めた。


ハウゼンが目線で小姓に合図して、綺麗な装丁の巻物を持って来させた。

「我らの任務は、この村にいる魔女ナンナシア・オル・アデラインを帝国に連れて行くことだ。かの魔女は世界に名を馳せた大魔法使いの1人らしい。恐れ多くも皇帝陛下は魔女アデラインを帝国に迎えることを決断された。これがその勅書である!」


広場が静まり返った。

ミリーの手が震えている。

…ナンナシアなんとかさんって、ナンナこと、だよね?ナンナが連れて行かれたらミリーは…あれ?私もどうなっちゃうの?!


ハウゼンはさっさと勅書を締まって(ただ見せびらかしたかっただけじゃないの?)住人を見回した。

「魔女の居場所を知る者は名乗りでよ。知っていて知らせないのは皇帝陛下への、ひいては帝国への叛意ありと見做すぞ?」


ざわっと住人たちが慌て出した。

「ナンナ婆がそんなすごい魔女だったなんて…。勝手に居場所を伝えたら報復されたりしないだろうね」

「婆さんの家なんて誰でも知ってるんだから大丈夫だろうさ」

「でも、あそこにたどり着けるのはナンナ婆がいいと思った相手だけだって聞いたことがあるよ。悪いやつは呪いで弾いちまうんだってさ」

「今までそんな奴いたのかい?」

「たしか10年くらい前に…」

「そんなら帝国の奴らは?居場所教えてたどり着けなかったなんて日にゃ、教えたあたい達が罰を受けることになるよ」


そんな呪いがあるなら、無理やり帝国に連れては行けない。よかったよかった。

私がほっとしている横で、お姉さんが突然立ち上がった。

「…い、居場所を教えれば、ここから出てってくれるんですか?」

「あぁ、約束しよう。すぐにここを離れる」

あれ?雲行きが怪しいぞ?


お姉さんが意を決したように口を開いた。

「私は村長の娘アリーシアです。村長代理をしています。ナンナさんは森の中に住んでいて、許した相手しか近づかせません。だから、ここにいる孫のミリーと一緒に、私がご案内します」

そこでみんなの目がミリーに向いた。

おいおいおい!お姉さん、一言の相談もなく動くのやめてよ。ご案内なんてしたら帝国に連れてかれちゃうでしょ?!


ハウゼンはお姉さんを頭からつま先まで舐めるように眺めてからニヤリと笑った。

「なるほど、それでは案内してもらおうか、美しいお嬢さん?」


うわー!典型的なセクハラ親父だー!キモー!

完全にロックオンされているお姉さんは青ざめながらも頷いた。

「ミリーごめんね。行こう」

お姉さんがミリーの手を取って立たせた。

ミリーと手を繋いでいる私も必然的に立ち上がる。

そして3人でハウゼンらと共に、森に向かって歩き出した。


…誰も私のこと指摘しないのは好都合なので、付いて行かせていただきますよ。はい。

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