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プロローグ

のんびり投稿予定です

よろしければお付き合いください

暑い…

まだゴールデンウィーク前だというのになんなのだ、この日差しは。自転車やめておけばよかった。


これはもう帰れというお告げではないか。

気持ちが挫けそうになりながら、私は親戚が神主を務める丘の上の神社になんとか到着した。


「お、おはようさん。みんなもう来てるぞ」

神主姿の叔父がタイミングよく社務所から出てきた。

「は?早すぎでしょ。まだ9時前だよ。日曜の」

「はは。綾香は余裕だな。今日は衣装着ての通し稽古だろ?みんな待ち遠しいくらいなのにな」


この神社では季節ごとに舞を奉納するお祭りがある。

まもなく訪れる5月のお祭りでは豊作を祈って舞を舞う予定なのだ。舞手は習い事感覚で参加している近隣住民がほとんど。お祭りは小さい頃から参加しているし、何より舞手への憧れがある。みんな意気込み勇んで今日の稽古にも参加するのだ。私を除いて。


「あー、汗すごすぎて衣装着るの無理。午前の練習は衣装なしとかだめかな〜」

「自転車でくるからだろ。バスで来ればよかったのにバス代ケチったおまえが悪い」

かっかと笑って叔父は行ってしまった。


ケチってとかいうな。本当は今日もバイト入れたかったのに。ゴールデンウィークに友達と遊ぶにもお金がかかるんだからな。


だが、叔父を責めるのはお門違い。全ての原因は母にある。

そもそも私は舞手になんの興味関心もなかった。にもかかわらず、高校受験が終わったばかりの私を母が無理やり舞手に立候補させたのだ。理由は「兄さんのところのお祭り久しぶりに行ったけど舞手さんとっても綺麗だったわ〜。あんたもやってみなさいよ」とのこと。


は?ふざけるな。私は絶対やらない!って抵抗も虚しく、いつのまにか話を通して練習に参加させられていた。

それが去年のこと。

地味に離れた場所に住んでいるにも関わらず、稽古には毎回自転車で行った。母から受け取った交通費と昼食代をなるべく浮かせて遊びに使うのはささやかな反抗だった。おかげで体力はついた。

母にはいつも振り回されているので、なんだかんだ諦めて稽古に通った私を褒めてくれ。


そんなわけで、私は今日も不満たらたらに稽古場へ向かった。





「では、本番さながらに。みんな集中して臨むこと」

おばあちゃん先生が手を打ち鳴らすのを合図に、舞手が神楽殿へ向かう。

巫女服に腰から広がる裳、頭には金の冠、手には鈴。

本番の衣装にほかの舞手は浮かれているようだ。いや、私もかな。

いつも稽古前は不平不満ばかりなのに、始まってしまえばそんなことすっかり忘れてしまう。だから一年も続けてこられたのだろう。

あれ、案外性に合ってるのか?


神楽殿の周りには葉桜が青々と茂っていい景色だ。

ざあっと春風が葉を揺らした。


しゃんっ


舞手が鈴を鳴らす。

ゆったりと、習った通りに舞いながら、私はだんだんと春風の音が遠のくのを感じた。


しゃんっ


ほかの舞手と寸分違わず鳴らした鈴が、まるで波紋が広がるように場の空気を振るわせる。


しゃんっ


最後は床に膝をつき、顔を伏せると同時に思わず目を閉じた。







「………………………」


おかしい。先生からの終わりの合図がない。

私はそろりと目を開けて前を向いた。


「………………………………………………は?」


そこは泉のほとりだった。

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