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gimmick-天遣騎士団-  作者: 秋谷イル
四章・愚者の悲喜劇

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劣化の果て(2)

 ――数秒前。

【フルイド、インパクト、マグネット! お前達のその感覚を借りるぞ!】

 アイズは戦い方を見つけた。この幻像の中で敵の位置を正確に知り、反撃に移るための方法。

 すでに彼女は満身創痍。死んだ仲間達の力を借りてどうにかアクターの攻撃を凌ぎ続けてきたが、それでも全身に夥しい数の傷を刻まれ、大量に失血してしまっている。

 なのに女神と同化したこの肉体は、なお死ぬことを許さない。どころか彼女に戦い方を見出させた。

 名を呼んだ三名、そして最愛の男トークエアーズから受け継いだ『声』の力が鍵となる。

 彼の死に際に判明した事実。指定した対象や範囲内の人間全ての脳内に直接声を響かせるこの加護の正体は、心と心を繋ぐ力だった。

 ならばできるはず。

(私と彼等の思考を繋いで情報を共有する!)

 フルイド、インパクト、マグネット。三者の超感覚が得た情報をエアーズの能力を通じて取得し、統合して足りない部分を補完し合う。過去現在未来全てを見通すアルトルの情報処理能力もあって初めて可能なこと、そして構築した立体図をまたエアーズの力で味方全員に転送する。

 途端、ノウブルとアリスにも周辺の状況が鮮明に把握できるようになった。

「これは!?」

「エアーズの能力……そうか、僕達の感覚を繋ぎ合わせて」

「この状態なら、目で見て戦うのと大差無い!」

「礼を言うぞ、アイズ!」

 作戦を変更するノウブル。これならむしろ加勢に向かわず邪魔な襲撃者達を蹴散らして露払いすべきである。アイズなら単独でも勝てる。

「先にアクター以外を排除する! 続け!」

「応!」

 反撃に転じる彼等。何が起きているかわからない襲撃者達は動揺する。

「なっ、なんだ――」

「こいつら、見えているぞ!」

 その通り、見えてさえいればさほどの脅威でもない。敵が困惑している間にノウブルはあっさり二人を撃破した。炎の矢もカマイタチも彼の『盾』を打ち破ることは出来ない。

 部下達もそれぞれ一人ずつ蹴散らした。これで残り七人。

 ノウブルは巨体に見合わぬ速さで動き回る。さらに三人がほとんど一瞬の間に彼の手で狩られた。ことここに到って襲撃者達は恐怖を抱く。

「ひ、ひいっ!?」

 逃げ出そうとした彼等の足に絡み付く桜色の髪。二人が空中に持ち上げられ残り二人に叩きつけられる。絡まり合って気を失う襲撃者達。

「仕事が遅いわね」

 ルインティの複製を倒したアリスが合流。これで地上の戦いは決着。

 そして空中でも、アイズとアクターの戦闘が佳境を迎えていた。



 受け流しからの一刀。そして蹴り上げてからの返す刃。どちらもアクターに致命傷を与えることはできなかった。やはり目で見て戦うのとは勝手が異なる。

 今のアイズは自身の視界でなく、他人の目を借りた俯瞰視点によって戦っているようなもの。どうしても本来の動きより精度は落ちてしまう。

 だがやはり、さっきまでよりは戦いやすい。少なくとも二度と幻像には惑わされない。

 魔素噴射で逃げたアクターをさらに追いかける彼女。すでに体はボロボロで全身が悲鳴を上げている。ここで決めてしまわなければ。

「逃がさん!」

「ええ、逃げませんよ!」

 突如足を止めて迎え撃つアクター。彼とて勝利を諦めたわけではない。距離を取って時間を稼いでいる間に、何故幻像が見破られたか察しがついた。

(エアーズの能力! あれでフルイド達と情報を共有している! なら!)

 まだ奥の手が使える。そう判断して反撃に転じたのである。

(二度目なら多分対処される。でも初手でこれは防げない!)

 彼は動力甲冑を動かしている魔素を大量に放出した。この甲冑は稼働時間に制限があり、長時間継続して使用することは難しい。こんなことをしたら当然そのタイムリミットに大幅に近付いてしまう。

 おそらく動かせるのは残り数秒間。だが弱り切ったアイズの心臓を貫くには、その数秒があれば事足りる。

 まだノウブル達が残っていることなど考えなかった。彼はとにかくアイズと決着を付けたい。自分の方が優れていることを証明したい。

「!」

 霧に包まれ、何が狙いかを悟るアイズ。単純な目くらましでなく加護の阻害を目的とした噴霧。エアーズの力による仲間達との繋がりが断たれ、再び幻像が彼女に襲いかかる。

『これで終わりだ!』

 もうフルイド達の支援は無い。アイズの眼には今、全方向から数え切れないほどのアクターが次々に襲いかかって来るように見えている。

 彼女の眼は人間のものより遥かに優秀だ。天士と比較してなお次元の異なる機能を有している。アクターはこの半年、そんな彼女の眼すら欺けるよう訓練を重ねて来た。

 そう、どれだけ優れていようと視覚は視覚。可視光を受容体で捉え脳が処理する。そのプロセスは天士であれ女神であれ同じ。その唯一の共通点を突いて攻撃できるのが彼の能力。

 天士以上に幅広い波長の電磁波を認識できる彼女を欺くには、自身の能力に対する理解を深めて解釈を拡大し進化させる必要があった。そのために血反吐を吐いても脳を酷使し続けた。

 全てはルインティのために。彼女を幸福にしたい。彼女と共に生きたい。

(そのために死ね、女神(アルトル)!)

 頭上から攻撃。ここぞという時に背後を狙う癖がある――以前の手合わせでそう指摘されたことを思い出した。アイズはやはり幻像に翻弄されていて完全に彼を見失っている。これで完璧に詰み、

 ――だが、この瞬間、彼は大きなミスを犯していた。眼前のアイズにばかり気を取られて周囲への警戒が疎かになっていたのだ。幻像で敵を惑わし相手の背後ばかり取って来た男が、逆に不意を突かれる結果となった。

 無数の鉄球が飛来し、甲冑や剣に当たって甲高い音を立てる。

「なっ!?」

 マグネットの攻撃。しかし何故? どうしてこのタイミングで?

 彼にはエアーズの力を借りたアイズの声が届いていない。だから彼女が霧で包まれる直前に出した指示も聞こえなかった。

 私に向かって撃て――アイズはそう指示したのだ。マグネットはそれに従い、彼女に対し鉄球を放った。

 幻像に惑わされようと関係無い。止めを刺すつもりならアクターは必ず目の前まで近付いて来る。その瞬間に鉄球が飛来すれば自分だけでなく彼にも命中する。当たればそれで音が鳴る。

 幻像のアクター達に斬られてもじっと耐えていたのはそのため。確実に反撃を当てるべく耳を澄ましていた。

 そして今、彼女は音を聴き取った。その方向に向かって躊躇無く踏み込む。

 鉄球は彼女にも当たった。しかし覚悟していた彼女と不意を突かれた相手とでは当然ながら反応に差が出る。アクターが言った通り、その反応速度の差が明暗を分けた。

「アクター!」

 名を呼んだのは能力を使うため。天士ハウルバード――死した十九人の仲間の一人。その加護は声を出している間、自身や武器を超振動波で包み込む能力。呼びかけと同時に放たれた一撃は吸い寄せられるように胴に命中し、竜骨から作られた甲冑を粉々に砕いた。さらにアクターの全身の筋肉と骨にも致命的な損傷を与える。

(たしかに私は弱くなった)

 だが、それでもとアイズは思う。自分自身は衰えたが、この身に宿る天士(なかま)の想いと力がある限り、何者にも屈しはしない。

 どんな障害も、彼等と共に越えて行く。

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