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gimmick-天遣騎士団-  作者: 秋谷イル
四章・愚者の悲喜劇

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反逆者(1)

「マジシャン!」

「首を拾え! 急げ!」

 マグネットとフルイドが地面に落ちたマジシャンの首を拾い上げる。彼等とアクター達の間にはアイズ、ノウブル、インパクトが立ちはだかった。邪魔はさせない。

 マジシャンにはまだ望みがある。クラリオでもそうだった、天士はそう簡単には死ねない。アルトルに力を返還しない限り彼等は不死に近い生命力を誇る。あの状態でもまだ生きている可能性が高い。切断された首を元の位置に戻せばおそらく助かる。

 しかし――

「無駄ですよ」

 アクターは嘲笑う。その言葉を裏付けるようにフルイドの面持ちが絶望的なものに変わり、重く沈んだ声で報告した。

「再生しません……首を繋げても、何も起こらない……」

「完全に死んでいます……!」

 マグネットも拳で地面を叩く。アイズの言っていたことと違う。何故?

 その理由はアクターの隣の少女ルインティが教えた。

「この髪で切断されたからよ。貴方達天士より私の『深度』の方が深い。気を付けた方がいいわよ、彼のように一撃が命取りになる」

 余裕たっぷりに微笑む彼女は素足で簡素な貫頭衣を身に着けている。顔立ちはアリスに似ており髪と瞳の色も同じ。

 その事実を訝るアリス。

「違う……」

 顔は彼女の中にもいるルインティそのもの。しかし本来のルインティは髪も瞳もずっと色が濃く、赤毛に近い。

 しかも、この距離に近付かれるまで全く気が付けなかった。今までなら双子のように互いの存在を感じ取れたはずなのに。

 複製のルインティは髪をかき上げる。

陛下(・・)も、以前の私だと思って侮らない方がいいですよ。今の私なら貴女達も殺せます。そうしてあげましょうか? 死ぬことが望みだったでしょう」

「随分な自信ね……私と別れた後、何があったの?」

「それは流石に秘密。そもそも知る必要はございません、貴女はここで死ぬのだから」

 ――言うが早いかルインティの髪が四方八方から襲いかかった。会話しつつすでに攻撃態勢を整えていたのである。

 しかしアリスも黙っていない。たしかに死は望んでいるが、ここで死ぬわけにはいかない。知りたいことが増えた。

「なら、力づくで吐かせてあげる!」

「チッ!」

 奇襲を仕掛けた全ての髪がアリスの髪に絡め取られた。しかも強制的に因子を上書きされ本来のルインティと同じ色に変化する。

「勝手に染めないでくれます!?」

「嫌なら自力で戻しなさい。出来ないくせに、偉そうな口を叩かないで」

 桜色と赤色、異なる色の髪が森の中で絡み合い、互いを引き千切ろうとして拮抗する。怯えて高く前脚を上げるウルジン。

「私の後ろにいて」

「ブルルッ」

 賢い愛馬は何度も頷き、素直に背中に隠れた。

「馬まで守ってあげるんて、余裕ですね!」

「!」

 ルインティの赤い髪が炎に包まれ、絡み合った部分からアリスの髪へと燃え移る。普通の炎ならものともしない彼女の髪が一瞬で焼き尽くされた。そして自由を取り戻した赤い髪が動き出す。

(なるほど、たしかに強い)

 今のルインティはかつての彼女とは違う。どういうわけか遥かに強くなっている。アリスもそれは認めた。その上でアイズに告げる。

「あの子は任せて」

 焼き切られた髪をもう一度伸ばし、襲いかかってきた髪を捕獲。今度は簡単に燃えない。髪の表面を魔素でコーティングしている。

「任せた」

 こちらも素直にアリスを頼った。頷き、次の瞬間にはすでにアクターに肉薄しているアイズ。その体から蒸気が立ち昇る。天士アクセルライブから継いだ強化能力。自身の身体能力を瞬間的に数倍まで跳ね上げられる。

 すかさず一閃。完全に敵に回ったものと判断してアクターの首を刎ねた。

 だがしかし――

「残念。僕はそこにはいない」

「!」

 眼神の視力を持つ彼女が欺かれた。否、眼神だからこそ術中に陥る。周囲の光景が目まぐるしく変化。森から城に、廃墟に、海中、空中、星空と一瞬たりとも同じ光景に留まらず、さらにその全てでアクターが異なる位置に出現する。以前よりさらに精度が上がっている。

 これが彼の『幻』の能力。光を操って精巧な幻像を形作る加護。視覚を最大の武器とするアイズにとっては、まさに天敵と言える。

「くっ!?」

 発動前に一撃で決着を付けようとしたことが裏目に出た。敵はとっくに幻像を作り出していたのだ。その上で、それを全く気付かせなかった。

 アクターもやはり、以前より遥かに強くなっている。

 どこからか響く彼の声。たしかに聞こえるのに位置を特定できない。視覚の混乱が他の五感にまで影響を及ぼしてしまう。

『まったく、聖都の中で仕掛ける予定だったのに余計なことを思いついてくれましたね。飛行と転移の合わせ技で来られたら、流石に我々も手の打ちようが無い』

 だからマジシャンを殺した。これでアイズ達の作戦も瓦解。この一戦の結果がどうなるとしても、彼女達は容易にブレイブを救出できない。

『最低限の仕事は果たしました。後は僕らの個人的な事情のために、皆さんも始末させていただきます』

「アクター!」

 ようやく位置を特定できた。そう思って振り抜いた剣は、しかし虚しく空を切る。そして間髪入れず逆方向から繰り出された刃がアイズの背中を浅く切り裂いた。

「!」

『もう死にかけでしょう? 無駄に苦しまないよう、ここで引導を渡してあげますよ』



 当然ノウブル達も幻術に取り込まれた。地面が消え、天地が何度も繰り返し入れ代わり、自分が立っているのかどうかさえわからなくなる。

「ぬうっ……!」

 地面を掴み、どうにか堪えるノウブル。優れた直感を誇る彼とて流石にここまで精細な幻像には対処しきれない。城も廃墟も魚や雲や星々も本当にそこにあるかのような現実感を伴っている。視覚から入って来る圧倒的な量の情報が他の五感にも錯覚を誘発し、匂いや温度まで変化しているように感じさせた。

「こ、これっ! アクターの力も!」

「強くなってるな!」

 掌中の虫のように翻弄され七転八倒するインパクト。アリスに拮抗するほど強くなったルインティの複製と同じく、アクターも明らかに以前の彼とは次元が異なる。いったい何故?

 さらに、そんな彼等に見えない敵が襲いかかった。

(死ね、天士共!)

(ウィンゲイト様に魂を捧げよ!)

 砂漠で襲って来た襲撃者達と同じ一派。魔素動力式の甲冑で天士に匹敵する膂力を身に着けた彼等は、アクターの幻によって姿を隠されたままノウブルとインパクトに左右からの奇襲を仕掛ける。

 ところが、その顔面にフルイドとマグネットの蹴りが叩き込まれた。

「ぐおっ!?」

「く、くそっ! 兜をずらされた!」

 どうやら兜に幻覚を遮断する機能があるらしい。一瞬こちらと同じように幻に翻弄されてから慌てて後退していく二つの気配。姿は相変わらず見えないが、一旦距離を取り直しただけ。またすぐに仕掛けて来る。

 ノウブルは二人に問うた。

「敵か!」

「はい、砂漠で襲って来たのと同じ連中だと思われます!」

「我々が対処するので副長はアイズ様の援護を! インパクト、お前は副長を誘導してくれ! 目で見なければ戦える!」

「! そうかっ!」

 二人は瞼を閉じている。その姿を見てようやく気付くインパクト。たしかにこの状況なら彼等、そして自分の特技を最大限活かせる。

 やはり両目を閉じた彼は深く息を吸い、間髪入れずに咆哮した。

「オラアッ!」

 その声が大気を震わせ波を作り出し、周辺の物体に衝突して反響する。彼はそれを感じ取った。瞬時に脳内で構築される立体的な地形図。そこにいる者達の位置と人数も特定。

「アクターとあの女の他に十二人!」

「彼女はアリスさんが抑えてくれています!」

「アイズ様は苦戦中!」

 磁性体を感知できるマグネットは言うまでもなく、フルイドも人体の大半を構成する水を感じることで幻像に惑わされず戦うことが可能。

「ここなら存分に戦える!」

 彼にとっては地の利もある。砂漠と違って森なら武器となる水が豊富。まずは地面から大量の水分を集めて無数の水球を生成。変幻自在のこれらは刃にも盾にもなる。

 同時にアクターの声がどこからか響いた。

『馬鹿共、距離を保って攻撃しろ! 欲をかくな!』

「す、すみません!」

 叱責された襲撃者達は指示通り距離を保ったまま無数の炎の矢とカマイタチを放ってくる。幻に囚われたままのノウブルには何も無い空間から突然それらが飛び出して来たように見えた。

 だが全てフルイドの水球とマグネットの鉄球、そしてインパクトの衝撃波が迎撃する。撃ち合いならむしろありがたい。彼等としてもその方が得意分野である。

「インパクト! 早く行け!」

「おう! 副長、こちらへ!」

「頼む!」

 部下に腕を引かれ走り出すノウブル。アイズとアクターは相性が最悪。助力を欲しているはずだ。他の敵はとりあえずマグネットとフルイドに任せる。

 アイズの姿は見えない。だが剣戟の音は聴こえて来るので、まだやられてはいない。音の方向から見て空中戦を展開しているようだ。

 先に襲撃者達を倒すべきかもしれないが、アクターを倒さない限り幻の影響から逃れられない。不利な状況を覆すには、まず奴を叩いて幻像を消すべきだ。今ここでアイズを失うのもまずい。

 しかし走り出したところで違和感を覚えた。あまりに敵の攻撃が単調過ぎる。白兵戦を仕掛けて来たのは一度きり。以降は遠距離から炎の矢やカマイタチを放つだけ。何故アクターはそんな指示を出した?

 そうか、ただの足止め。本命は別――そう気付いた瞬間、インパクトが足を止めて振り返った。血相を変えて待ったをかける。

「副長!」

 ノウブルに向けて手の平を見せた、その右腕の肘から先が切断される。驚愕した表情の彼の顔にさらにノウブルの拳が迫った。

「フン!」

 無論、殴ろうとしたわけではなく、その逆だ。あらゆる攻撃を防ぐ『盾』と化した手で部下の右腕を切断した『髪』を掴む。

 そして逆の手は自分の首を守った。予想通り、そちらにも『髪』が食い込み締め上げる。赤い色のこれはルインティの攻撃。

「ハッ!」

 強引に引き千切る。危うくマジシャンのように即死するところだった。

「ぐっ、ああああああああああああああああああああっ!?」

 思考停止していたのだろう、数秒遅れで絶叫するインパクト。血の噴出する傷口を左手で押さえ、歯を食い縛る。

 そして衝撃波を放った。

「ちく、しょうっ!」

 さらに迫っていた赤い髪が吹き散らされる。あまりに細く、生じる『波』も小さいために気付かなかった。腕を斬られる直前に察知できたのだって奇跡に近い幸運。

 しかし、当然ながら攻撃はさらに続く。間断無く襲いかかって来る襲撃者達の疑似魔法とルインティの赤い髪。そちらに先に対処せねばならず、ノウブル達は結局その場で足止めされた。

「マグネット、フルイド、集まれ!」

「はいっ!」

 数の差に押され徐々に疲弊しつつあった二人も指示に従って合流する。直後からノウブルも防御に加わり、二人が迎撃しそこねた攻撃を超人的な反射神経と『盾』を使って防いだ。

 インパクトも服を裂いた布で腕を縛り、止血しながら衝撃波でルインティの髪に対抗する。

「クソ、痛え! 皇女さんは何してんだ!?」

 任せろと言っておいて複製に好き放題させている。まさか負けてしまったとでも?

 防戦一方、このままではまずい。ノウブルは決断を迫られる。

(使うか?)

 奥の手を使えばこの状況も打破できるかもしれない。しかし不発に終わった場合、より厳しい戦況に陥る。彼もまたアクターの能力とは相性が悪い。逃げ切られてしまう可能性は十分考えられる。切り札は時間制限付きなのだ。

 迷ったその時、彼に、いや彼等の身に奇跡が降りかかった。

【フルイド、インパクト、マグネット! お前達のその感覚を借りるぞ!】

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