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gimmick-天遣騎士団-  作者: 秋谷イル
四章・愚者の悲喜劇

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逃亡者の行方(1)

 アイズ達は襲撃者八名をアリスの髪で拘束して一ヵ所に集めた。そして一人だけを目覚めさせ、問いただす。

「お前達は何者だ。誰の命令で来た?」

「……」

 無言を貫くその襲撃者は八人の中で唯一の女。まだ年若く少女と言われても納得できる。しかし肉体は人としての限界近くまで鍛え抜かれていて明らかに平凡な娘ではない。

 もちろん武装解除させてあるが、さっきまではかぎ爪をつけていた。つまりフルイドの戦っていた相手である。彼が苦戦した理由はこれだ。

「また悪い癖が出たな」

「すみません……」

 ノウブルにも叱責され肩を落とす彼。天士フルイドは相手が女だと戦うのを躊躇う。どうしても剣が鈍るのだ。

 ――彼には人間だった頃、姉が三人と妹が二人いた。その三人の姉に愛され、二人の妹を溺愛して育った。

 記憶はアルトルに奪われたものの、体に染みついた感覚が女性を敵だと認識させにくくしている。インパクトやマグネットと同じ周囲の水分を認識できる超感覚を有しており、索敵や追跡に優れているためアイリス追跡の任務に加えられたが、当人としてはやはり嫌だったに違いない。

「許してやれノウブル」

 自責の念を感じたアイズはフォローに回った。さっきは同じように怒鳴ってしまったものの、彼女だけはフルイドの事情を知っている。

「こいつらは私達の情報を知っていて、しっかり対策を立てて来た。フルイドも相性の悪い相手を割り当てられたんだ」

「だろうな」

 フンと鼻を鳴らすノウブル。フルイドには唯一の女が攻撃を仕掛け、全員の装備に金属が使われておらず、マグネットの加護への対策も取られていた。

 どの襲撃者も接近戦を得意とする彼やアイズにはカマイタチや炎の矢による遠距離攻撃を仕掛けて来たし、おそらくはインパクトやアイリスに対する作戦も考えてあったはずである。披露する前に潰されてしまったが。

「この女の存在はそれ自体がヒントになっている。私達の能力については先の戦争に参加した者達ならある程度知っていてもおかしくない。しかし性格まで知っているとなると、こいつらにそれを教えた人間は限られてくる」

 何故なら戦時中の天士達に性格(・・)なんてものは無かったからだ。あの頃はまだ記憶を奪われてから日が浅く、どの天士も命令に従って戦うだけの人形と同じだった。例外はブレイブとノウブルだけ。

「とはいえ、それなりにいるぞ。クラリオに残った者達はともかく、こちらはアイリスの追跡で大陸中を巡っていたからな」

「ああ。だが彼等の装備を用意できる組織は一つだけだ。三柱教だろう」

「……」

 女は一言も喋らない。前に襲って来た者達もそうだった。彼等は拘束される前に自害してしまった。アリスの記憶を読む力についても知っていた可能性がある。

 眉をひそめるマジシャン。

「何故、三柱教だと? たしかに怪しいのは彼等ですが……」

 断言できる理由を知りたい。

 アイズは少し離れた場所に積んである装備品の山を視線で示した。襲撃者達から取り上げたものだ。

「あの甲冑の素材だ。あれはドラゴンの骨で出来ている」

「えっ!?」

「ノウブル、おそらくナルガルでお前が倒したやつを使ったのだろう」

「……なるほど」

 納得出来たノウブルは頷く。他の面々もだ。あの時、帝都で倒したドラゴンの死体は解体された後、清める(・・・)ため聖都へ運ばれたと聞く。アイズの見立てが正解なら、その骨を再利用できる者は三柱教関係者しかいない。

「そもそも魔素は存在すらほとんど知る者のない物質よ。イリアムは私が始末したから、後は団長さんとその師匠のラウラガ、それに例のユニ・オーリしか魔素を使った兵器なんて造れない」

 他にもいるかもしれないが、とにかく自分の知っている容疑者は残り三名と述べるアリス。それから髪を数本伸ばして襲撃者達に向けて伸ばす。気付いた天士達はざわついた。

「おい、待てよ!」

「何をする気だ?」

「喋る気が無いみたいだし記憶を読ませてもらう。殺したり魔獣化させたりはしないから安心して。黒幕を突き止めるためだし、いいでしょ?」

 一応、確認を取るアリス。視線の先にいるのはアイズ。

 彼女は少し悩んだ後、頷いた。

「この連中は明らかに訓練された刺客だ。簡単には吐かないだろう……やってくれ」

「副長!?」

「私はもう副長ではない」

 そう、今の自分は天遣騎士団の副長ではなく天士ですらない。女神の残骸を移植されただけの人間だ。必要なら倫理にもとる行為も行おう。

 もちろん、本当は嫌だ。自分でするのも、アリスにそんなことをさせるのも。だが問題を速やかに解決するにはこうするしかない。

「ありがとう」

 アリスは満足気に頷き、髪を襲撃者達に刺す。しかしその瞬間、女の口角がほんのわずかに上がったことをアイズは見逃さなかった。

「アリス!」

「!?」

 素早く剣を抜き、アリスと襲撃者達の中間で桜色の髪を切り裂く。

 全く同時に女が叫んだ。

「破界の狼煙を上げよ!」

 途端、その全身が猛火に包まれる。どころか他の襲撃者達まで同様に発火し、炎は切断されたアリスの髪まで焼き尽くした。

「ウィンゲイト様のために!」

 最後にそう叫んで倒れる女。あっという間に全身が消し炭。

「危なかった……これがお前の力への対策らしい」

「……なるほど、助かったわ……ありがとう」

 改めて感謝するアリス。おそらく襲撃者達は全員が強力な暗示を仕込まれていたのだ。いざとなったら彼女を巻き込んで自決するために。あの甲冑を身に着けていたことで彼等の体内には魔素が残留していた。それを火種に人体発火を引き起こしたのである。

 アイズが髪を切り離してくれなければ、読み込もうとした記憶と一緒に自分の中にも同じ暗示が侵入を果たしていただろう。そして先程女が叫んだ言葉で彼女の体内の魔素も炎と化し、全身を焼き尽くしたに違いない。

 いや、そうなったらアイズ達まで巻き込んで周辺一帯を焦土と化していたに違いない。なにせ彼女の体内には高密度魔素結晶がある。それが暴発した時の被害は、今目の前で起きていることの比ではないはずだ。

「あっさり自決しやがった……」

「それにさっきの言葉……」

「あからさまだな」

 眉根を寄せるインパクト。女は『ウィンゲイト』と叫んだ。アイズから真の歴史を教えられた彼等は、それが本当の三柱のうち一柱の名だとすでに知っている。しかし世間では千年前に異界から攻めて来た邪悪な神々の一柱だと信じられたままだ。

 そんな邪神を崇める集団がいくつか存在する。世界を呪い、一度完全に崩壊させてからの再生を望む異端者達。中には長年三柱教を相手に血みどろの闘争を続けて来た武闘派も存在するという。

「こいつら、異教徒ですか」

「邪神信仰の」

「ウィンゲイトは邪神ではない。だが、そういうことだろうな」

 どういう経緯でそうなったかは不明だが、三柱教と異教徒の一部が結託した。そして強力な装備を得て自分達を狙っている。

「これも、貴様の仕掛けたゲームか……ユニ」

 アイズの中のアルトルが怒りと憎しみを滾らせている。今度こそ絶対に奴を討てと復讐の成就を願う。

 もちろんそのつもりだ。彼女の願いは必ず果たしてみせる。けれどアイズが戦う理由は別。

「もう、こいつらからは何も聞き出すことはできない。行こう、アリス」

「そうね」

 頷き合ってウルジンの背に跨る二人。さっきは手綱を引いていたのに、どうして今度は一緒に乗るのかと天士達が訝った時、アリスが瞼を閉じた。

 直後、その顔がリリティアのものに戻る。

「……あれ?」

起きたか(・・・・)、リリティア」

「わたし、寝てた?」

「ああ、落ちそうになっていたのでな、私も一緒に乗ることにした」

「そうなんだ……ごめんね、急いでたのに」

「気にしなくていい」

「あれ? なんか変な匂いがしない? 焦げ臭いような……」

「砂漠の植物だ。独特な匂いがする。食料にならないかと思って焼いてみたのだが、食べられそうにない」

「そっか」

「そうだ」

 リリティアが後ろを見ないよう気遣うアイズ。そんな彼女に素直に従う少女。天士達には、まるで母娘のように見えた。

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