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gimmick-天遣騎士団-  作者: 秋谷イル
四章・愚者の悲喜劇

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破界の使徒(2)

 一方、マグネットとマジシャンは二人で同じく二人組の襲撃者と戦っていた。若干敵の方が優勢。

「無駄だ、貴様の加護は対策済み!」

「我等に磁力など通じん!」

「――らしいね」

 どちらも棒術使い。背丈と同程度の長さの棒を捻りを加えて鋭く繰り出して来る。マグネットとマジシャンはそれを剣で弾き、あるいは甲冑の表面を浅く削られながらギリギリで避けてどうにか一定の距離を保ち続けた。

 甲冑の力のせいで膂力は相手が上。技量の面でも彼等は劣っている。天士が全員アイズやノウブルのような達人というわけではない。しかも向こうの装備は全て磁力が通用しない素材で造られている。

 それでも、攻撃手段はまだある。

「君達は人間だし、なるべく殺さないようにするよ」

「むっ!?」

「気をつけろ、飛ばして来るぞ!」

 やはり能力や戦法を知られている――だとしても問題無い。腰のポーチから無数の小さな鉄球を取り出し散布するマグネット。するとそれらが磁力に操作され空中を滑り始めた。

「飛び道具ならこちらにも!」

 男達が届くはずのない距離で棒を横薙ぎに振ると、その軌跡がカマイタチに変化して襲いかかった。マグネットとマジシャンがそれを回避した隙に左右に分かれて挟撃を試みる。

 カマイタチも単なる攻撃ではなく、二人が避けて背後の砂丘に当たった途端つむじ風と化し砂塵を舞い上げた。つまり真の狙いは攪乱。動力甲冑によって身体能力の差が埋まった以上、勝敗を分けるのはそれ以外の部分である。

 だがマグネットには通じない。彼等は彼の能力をただの磁力操作だと覚えていた。もう一つの力についても説明されたはずだが、優勢ゆえに侮り、忘れてしまったのだ。

 突然、砂を舞い上げた渦の中から無数の鉄球が飛び出してくる。それは正確に襲撃者達めがけて飛来した。

「むう!?」

「なんと!」

 驚きながら棒で弾き、回避して距離を取る男達。マグネットとマジシャンもその隙に渦の外へ飛び出す。

 ――マグネットには人間だった頃から特異な才能があった。磁力に関係しているものかわからないが、とにかく地中の鉄鉱の位置を感じ取れる。天士化によってさらに強化されたその感覚は不思議なことに人や獣の動きまで目や耳に頼らず感知できるようになった。

 実のところ、磁石にくっついたり反発したりするものだけが磁性体ではない。厳密には全ての物質がそうなのである。そして彼等の生きるこの惑星も巨大な磁場を発生させており、人間や天士にも観測が難しいほど微弱な影響を与えている。

 彼は、そのほんのわずかな違いを感じ取る。

「まだだよ!」

 磁力に操作され、さらに追撃をかける鉄球。しかし予想外の反撃に驚いた男達も冷静さを取り戻し魔素で障壁を形成した。

「かような攻撃!」

 障壁に弾かれる鉄球。やはり、これを突破できるほどの威力は無い。それに生身ならともかく、鎧越しなら直撃されたとて致命傷にはならないだろう。

 二人はマグネットを脅威にあらずと判断する。

「注意すべきはもう一人か」

「うむ!」

 視線を交わして息を合わせ、再び攻勢に転じる二人。今度の狙いはもう一人の天士マジシャン。

 彼は複数の箱を出現させて操る加護。箱は鉄製な上に自在に飛び回って攻防両面に活用される。さらに全ての箱の内部は繋がっており収容した物体を別の箱から放出することも可能。

 強力だが、奇術と同じで種が割れれば対処しやすい。蓋が開閉する瞬間さえ見逃さなければいいのだ。

 そう思った次の瞬間、またしても鉄球群が襲いかかる。今度は直撃を受ける彼等。

「ぐっ!?」

「こ、このっ!」

 背後からの奇襲で障壁を作る暇も無かった。さっき弾いたものを磁力で引き戻して攻撃したらしい。

 けれど威力は大したことがない。やはりこの甲冑を貫くことは不可能。

「その程度とはな!」

「笑止!」

 高圧の魔素噴射。一気に間合いを詰め、二人を弾き飛ばす。天士達は地面に叩き付けられた。

「うわっ!?」

「クソッ!」

「仕留め損ねたか」

「しかし次は――」

 殺すつもりで攻撃した。なのに天士達は生きている。彼等はその事実を軽く受け止めた。たまたま防がれただけだろうと。

 つまりは慢心している。それゆえ技の精度が落ち、二人の防御が間に合った。本気で殺そうとしていれば今の一撃で仕留められたかもしれない。

 なのにチャンスを失った。もう彼等に勝機は無い。

「種は?」

「仕込んだ!」

 砂に半分埋もれたマグネットとマジシャンは短い会話を交わし、それ以上は何も言わず反撃に移る。この二人は大戦中からのコンビ。当然、連携パターンも多い。

「やれ!」

 二つの箱を出現させるマジシャン。即座に蓋を開き、その中へマグネットが鉄球を叩き込む。

 襲撃者達はそのコンビネーションについても知っていた。箱の内部の空間が繋がっていることを利用した多角的な奇襲攻撃。何も知らなければ突然別の箱から飛び出してきた鉄球群に滅多打ちにされる。

 けれど彼等は知っていた。だから足を止めず、そのまま二人の天士へと迫る。奇襲が来る前に倒してしまえばいい、どうせ喰らっても大したダメージになどならない。万全を期して魔素障壁での防御も行った。銀色に輝く半透明の膜が全身を包み込む。これで絶対に安全。

 しかし、それこそが天士達の狙い。彼等はまんまと術中に陥った。

 先にまず箱を探すべきだった。そうすれば見つけられたかもしれない。何故ならそれは彼等の腰、背面に張り付いている。

 この箱は鉄製であり、つまり磁力の影響を受ける。マグネットは先の攻撃で甲冑の隙間に鉄球を食い込ませ、そこにマジシャンの箱を接着した。サイズも手の平に乗る程度なので気付かれにくい。

 その箱が開くと、鉄球ではなく大量の砂が障壁の中に流れ込む。

「なっ」

「うああっ!?」

 自ら形成した障壁の中で砂に飲まれ錯乱する彼等。マジシャンは鉄球を飲み込んだのとは別の箱を砂に埋め込んでおいた。そちらを使って彼等の腰の箱へ砂を転送し続けている。

 当然男達は顔まで埋まって窒息する前に魔素障壁を解除した。マグネットとマジシャンは立ち上がって拳を固めて待ち構え、慣性の法則に従ってそのまま突っ込んで来た彼等の顔に狙いを定める。

 二人とも白兵戦は不得手。だとしてもその肉体は天士。膂力だけなら常人の数倍以上。

「そうさ、僕達は――」

「この程度だ!」

 同時に叩き込まれる拳。兜の上から思いっ切り殴られ襲撃者達は瞬時に意識を失う。いくら鎧が頑丈でも中身はやはり人間なのだ。頭部への衝撃には弱い。

 残り一人。

 いや、そちらもすでに決着済み。

「すいません! 手間取りました!」

 アイズ達に合流するフルイド。例のかぎ爪を付けた襲撃者に長い時間足止めされていた。相手の流した汗と水筒の中の飲み水を使い、どうにか無力化したところである。

「遅い!」

 つい昔の癖で叱りつけるアイズ。

 しかし直後に表情を一変させた。怒りから焦りへ。

「待て!」

「くっ!?」

 インパクトに倒された男だ。気絶したと思っていた襲撃者が一名、いつの間にか立ち上がって動き出していた。



(話が違う! あの女以外も強すぎる!)

 だが、だとしても一人も倒せないなどという失態は許されない。そう考えた男は天士でなく別の標的に狙いを定める。

 アイズは誰より早く追撃に移った。走り出しながら警告を発する。

「ウルジン! 走れ!」

「!?」

 馬上で怯えるリリティア。今の一言で自分が狙われていると察した。

 一方、ウルジンは主人の言いつけ通り男とは反対の方向へ走り出す。襲撃者は彼とリリティアに向かって炎の矢を放つ構え。

 ――瞬間、リリティアの髪が長く伸びた。そして驚愕する彼の全身を瞬時に刺し貫く。

「アリス!」

 そこまでする必要は無いと顔を曇らせるアイズ。彼女が止めたかったのは男の攻撃でなく少女のこの凶行。間に合わなかった。

 危機は去ったと気配で察し、立ち止まるウルジン。振り返った彼の背に跨る少女の顔は、すでに皇女のそれに変わっている。

 彼女は微笑みながら言った。

「殺してないわ」

「あああああああああああああああああっ!?」

 ほら、元気にのたうち回っている。その姿を見下ろすと少しだけ胸がスッとした。

「ほんの少し、死ぬほど痛くて苦しいだけよ」



 ――そんな光景を遥か彼方から見ている者達もいた。アイズとリリティアに察知されることを恐れ、距離は十分に取ってある。この距離なら余計なことをしない限り気付かれない。魔素を使った迷彩も機能している。

「どう?」

「皆、前より強くなっている。一人を除いて」

「誰のこと?」

「アイズ副長」

 今の彼女は死んだ仲間達の力も使えるようになり、以前より強くなったかのように見える。

 しかし実際には逆。以前の彼女はあんなものではなかった。神の双眸と天士に匹敵する身体能力。その二つで十分であり、二つだけの状態こそが最も洗練されていたのである。

 無論、だからこそ良い。

「あの状態なら殺せるよ」

「そう……もう一人の副長さんは?」

「彼も僕に任せていい。厄介なのはインパクトとフルイド、それにマグネットの三人だな。僕にとって相性の悪い連中だ」

「なら私が殺す。箱の人も」

「任せるよ。皇女さんは皆で(・・)殺そう」

「ええ、あの人が一番危険」

「仕掛けますか?」

 二人の会話に背後で控える者達の一人が割り込む。彼等以外にも動力甲冑を装備した暗殺者が十二人この場にいる。

 男は少しも考えることなく頭を振った。

「いや、ここは駄目だ。足枷が足りない」

 八人送り込んであの様。やはり、もっと制限をかける必要がある。腐っても天遣騎士団の副長二人。さらに四人の天士と帝国の最終兵器。あの七人で大陸全土を破壊し尽くすことも可能な戦力。こちらもそれなりの手駒が揃っているとは言え、挑むなら万全を期したい。

 アイズ、皇女、そして天士達。いずれも弱点は共通している。そこを上手く突くことが肝要。

「皆、動くな。人間の君達にこの暑さは辛いだろうが、今動いたら見つかるぞ。彼女達が立ち去るのを待つんだ」

 焦る必要は無い、仕込みはすでに済んでいる。後は標的が罠へ誘い込まれるのを待つだけ。

 その時こそ――

「大丈夫、何も心配はいらない」

「うん」

 女は頷くと、愛しい男の肩へもたれかかった。

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