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gimmick-天遣騎士団-  作者: 秋谷イル
四章・愚者の悲喜劇

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砂漠の幻影(1)

 地上に出た直後、突然アリスの姿が変わった。表情もだ。

「あれ?」

 髪と目、そして肌の色こそ同じだが顔立ちは完全に別人。背丈も少しばかり縮んでいる。

 数瞬前までアリスだった少女は慌てた様子で周囲を見回すと、見慣れぬ顔がいくつも増えていることに気付いて怯え、そしてようやく見つけ出したアイズの腕にしがみつく。

「この人たち誰!?」

「大丈夫だリリティア、彼等は天士だが、私達を捕えに来たわけではない」

「本当?」

「ああ、本当だ」

 優しく諭すアイズ。昔の彼女からは考えられない姿にまたも驚かされる一同。同時に納得も出来た。

「この子が、例の……」

「リリティアか」

 先の事件の際クラリオにいなかった彼等も、これが彼女との初対面。話には聞いていたが、ようやく顔を合わせることが出来た。

 ――リリティアとはアリスの中にある別人格。彼女以外にもアリスの中には六人の少女達、つまり彼女自身とリリティアを合わせ八つもの人格が存在するらしい。

 うち六人は皇女だった頃のアリスの身近にいた少女達。貴族で、その体には少なからず皇族の血も混ざっていた。そのためアイリスの適合体として選ばれ、本命のアリスより先に魔素結晶の移植手術を受けたのである。

 彼女達は誰一人として『アイリス』には成れず命を落とした。しかし記憶は人格と共に魔素に保存されている。だから唯一の成功例であるアリスは彼女達六人のどの姿にもなれるし、いつでも交代出来る。かつて天遣騎士団が追ってアイリス達も、そんな彼女らの生前の姿と人格を複製して放った囮らしい。

 一方、リリティアはカーネライズ国民だった以外にアリスとの繋がりは無い少女。だが山中で足を滑らせ転落し、死にかけていたところを逃亡中のアリスに発見された。そして生き延びたいかと問われて頷き、その人格と記憶を魔素結晶に取り込まれた。

 本物の彼女はとうに死んでいる。それでもリリティアの人生は契約通り続くことになった。アリスに自分の姿と記憶、そして戸籍を明け渡したからである。クラリオに潜入しようとしていたアリスには、自分と良く似た背格好の帝国民の娘になり代われることは好都合だった。

 実際、そのおかげで彼女はまんまとクラリオ市内に潜入し、先の虐殺を実行している。

 いわばリリティアはクラリオ壊滅事件の共犯者なのだが、しかし怯えた様子の少女を前に天士達も戸惑いを覚えた。アイズから事前に注意されていた通り、この少女は今なお何も知らないらしい。

「わたし、また記憶が飛んでる……」

「彼等が来た時、今のように怖がっていた。そのせいだろう」

「じゃあ、そんなにたくさん忘れたわけじゃない?」

「せいぜい二時間程度だ、気にしなくていい」

「うん……」

 彼女の記憶はアリスによって操作されている。クラリオでの潜伏時、周囲の目を欺くため不都合な事実を全て忘れさせ、その上でリリティア本人として生活させていた。それが今も続いている。

 もっとも、クラリオが壊滅して正体も露見した今は周囲を欺く必要など無い。現在忘れてしまっているのは、自分が本当は死者であるという事実とクラリオ壊滅の真相だけ。

 いや、もう一つ。アリスら『アイリス』に交代している間の記憶も彼女には残らない。そういう時にはなんらかのストレスに晒されて記憶が飛んだと説明することにしている。元々アリスによる記憶の改変を心因性の健忘症だと診断されていたため、今も問題無くその嘘を信じているのだ。

 ゆえに、リリティアはただの純粋な子供。その身に世界を呪う悲しい怪物達を宿してはいるが、彼女自身はごく普通の少女でしかない。

 アイズを今の彼女に変えた存在という意味では、極めて特別だと言えるかもしれないが。

 そのアイズはしゃがみ込み、リリティアと目線を合わせて事情を話す。

「ブレイブが捕えられてしまった」

「団長さんが?」

「ああ、だから助けに行きたい。彼等もそのつもりで協力を求めて来た」

「じゃあ、アイズは捕まらないの?」

「彼等にその気は無い。どころか、ブレイブを救出出来たら私達の悪者退治(・・・・)を手伝ってくれるらしい」

「えっ」

 目を見開いてノウブルを見上げる少女。不安と期待が入り混じる切実な視線を向けられ、巨漢は無表情のまま認める。

「我々は味方だ」

「ありがとう!」

 妙に嬉しそうだ。安堵したようにも見える。

 それに悪者退治とは、もしや――

「この子も知っているのか? ユニ・オーリのことを」

「知ってるよ、魔獣たちを作った本当の悪者でしょ?」

 アイズより先に頷くリリティア。そして自分の知っている話を説明し始めた。クラリオを壊滅させたのは七人目のアイリスで、アイズ達はその最後の魔獣を倒したけれど、その後でイリアム・ハーベストとは別の真の黒幕がいると判明した。アイズはその男を追跡して倒すべく、唯一の生存者リリティアを伴って旅立ったのだと、そう教えられたらしい。

「クラリオを守れなかったから、他の人達に見つかると逮捕されてしまうかもしれなくて、それで隠れて旅してるんだって、そう聞いたけど……」

 もうこそこそする必要は無いのだろうか? アイズとノウブルの顔を交互に見上げるリリティア。ノウブルの方は身長差がありすぎて首が痛い。

 そしてふと疑問を抱いた。どうして彼等に今の説明をしたのだろう? 別にクラリオでのことや、あの街を離れた後のことを語る必要なんて無かったのに。記憶が飛んでいるなら相手はもう知っているかもしれない。

 彼女には、それが自分の中に潜むアリスの干渉による行為だったこともわからない。

 なるほど……ノウブル達は納得した。察したというより、あからさまに明示されたのである。今の説明の最中、リリティア自身は気付かぬまま一度だけ顔がアリスのそれに代わって彼等全員を見渡した。そして「しーっ」とでも言うように唇に指を当てたのである。リリティアの記憶や認識はアリス次第でどのようにでも書き換えられるというのは事実らしい。

「……」

 少女の傍に屈むアイズの目も雄弁に語っていた。話を合わせてくれと。彼女はリリティアに真相を教えたくないらしい。だから嘘を吹き込んだ。

 僅かな時間だけ黙考して、ノウブルもその要望に応える。

「そうだ、俺達もその悪党を追っている」

 仮に真相を明かしたところで、どうせアリスが記憶を弄る。なら話をこじれさせても時間の無駄だ。効率良く先へ進めるとしよう。

「ユニ・オーリは一刻も早く倒さねばならない。そのためにもまずブレイブを救出したい」

「そっか、団長さんは一番強い天士だもんね」

「ああ、奴の力は必要だ」

 これは本心。今までは天遣騎士団を存続させるため救い出そうとしていたが、ユニ・オーリの存在と危険性を知った以上、最大の脅威を排除することにこそブレイブの力を使いたい。あの『嵐』の力は自分達天士に与えられた加護の中で最大の火力を誇る。牢の中で腐らせておくにはもったいない。統率力や見識という点でも自分ではまだ彼に及ばない。正体がアルトル復活に携わった錬金術師の一人だと言うなら、その知識もまた必要になるかもしれない。

「やったねウルジン、また天士のみんなと一緒だ」

「ヒヒンッ」

 リリティアの言葉に嘶きで応じるウルジン。当然このアイズの愛馬も穴ぐらから出て来た。彼の役割はリリティアを運ぶこと。自分を人間だと思っている彼女には、アイリスの能力を用いた高速移動はできない。

 少ない荷物とリリティアをウルジンの背に乗せ、手綱を握るアイズ。準備は整ったとノウブル達の顔を見渡す。

「では、行こう」

「ああ」

 天士達は馬より速く走れる。だから急いでいる時は徒歩を選ぶ。今回は結局ウルジンの速度に合わせる必要があるが、それでも聖都までの道のりは通常の旅路より短くて済むだろう。そのための仕込みはすでに済ませてある。

 彼等は走り出した。先頭を行くアイズに、ノウブルが訊ねる。

「誰かいるか?」

 第三者の存在についてだ。三柱教が敵なら、こちらの動向を監視していてもおかしくない。少なくとも砂漠に入ったことは知られているはず。

「いや……見当たらない」

 眼神の力で索敵しつつ答えるアイズ。広大な砂の海には現在、彼女達と彼等以外の何者の姿も見当たらない。他の生物は鳥と獣、虫と植物くらい。

 だが天士達は警戒を続ける。

 敵はいつ襲って来てもおかしくない。彼女達の語ったことが本当なら、眼神の眼すら欺く者が、この地上には存在するのだから。

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