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gimmick-天遣騎士団-  作者: 秋谷イル
四章・愚者の悲喜劇

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三柱の真実(1)

 千年前まで、この世界は真の三柱から管理と維持を任された守界七柱という神々によって守られていた。

 眼神(がんしん)アルトル、盾神(じゅんしん)テムガム、嵐神(らんしん)オクノク――現在『創世の三柱』と呼称されている神々は元々その守界七柱の一角である。

 侵略者との戦いは盾神テムガムが奴、ユニ・オーリによって正気を奪われたことから始まった。

 彼はアリスの体内にあるのと同じ高密度魔素結晶、別名『竜の心臓』を移植されて我を失い、この世界を破壊せんほどに暴れたのだ。それによって五つの大陸のうち二つは海底に沈み、バダヤ大陸とガナン大陸の間には消えない空間の歪みが残った。両大陸間の行き来を途絶させた海上絶壁はそうして生まれたものである。

 東のルガフ大陸との間に横たわる銀色の霧に覆われた海域も彼が原因。他の六柱との死闘の果てにテムガムはその場所で倒れた。だが彼の骸は回収されず、今も膨大な魔素を吐き出し続けている。放出された魔素は様々な怪物に変じて霧への侵入者を襲うようになった。ゆえにルガフ大陸との往来も難しい。

 テムガムの死後も彼の亡骸を回収せず放置せざるを得なかった理由は、戦がなおも続いたことにある。

 敵は狡猾だった。自分自身は隠れたまま他の神々、そして人類を言葉巧みにそそのかし殺し合わせて戦力を削いだ。アルトルが恋人を殺めた戦いもそんな同士討ちの一つ。

 彼女が真相を知ったのは傷付き倒れた荒野で、あの男がようやく姿を現した時のことだった。全てを見通す眼を持つはずの彼女でさえ、それまでその存在にすら気が付けなかった。

「やあ、こんにちは美しいお嬢さん。女性型の眼神は初めて見たよ。僕の世界の君は男でね」

 訊いてもいないのに自分から素性を語り始めた。それまでずっと隠れていたことが嘘のように饒舌に。

 ここと同じように創世の三柱によって創られた別の世界の出身であり、主神マリア・ウィンゲイトに恋焦がれていること。彼女の求める『完成品』になりたくて、より強大な力を欲していること。

 そして――

「退屈してるんだ、僕は」

「な、に……?」

「あの方は僕の『完成』を待たず亡くなってしまった。ああ、もちろん永遠の別れになるとは思っていない。彼女ならきっと帰って来る。なにせ輪廻転生を司る神だ、必ずまた蘇るさ。僕はそんな彼女を引き続き愛そう」

 けれど、そう、けれどだ。彼はそれまで待ち続けなくてはならない。神から見れば短い時間かもしれないが、人の子の彼にはあまりに長い歳月を。

「だからこの戦争を起こした。何故? 何故? 何故? 君達は繰り返し問いかけていたね、何故なのかと。どうして仲間同士で殺し合う羽目になったのか、どうしても原因がわからない。僕も見ていて心を痛めた。だから君の前に姿を現し、教えてあげようと思ったんだ」

 奴は笑った。紫がかった銀髪の、長く垂れた前髪の間から覗き込む鉛色の目を輝かせ、口角も高く吊り上げて。

「みぃ~んな僕の暇潰し! あの方が蘇るまでの退屈しのぎ! もうあの方の望む『完成品』に至る道筋は見えたからさ、後は楽しみながら時間を潰すことにしたんだ。君達が大事に守って来た世界を玩具(オモチャ)にして!」

「ッ!」

 アルトルの眼に真実が映った。彼は何一つ嘘を言っていない。本当にただの暇潰し。そのためだけに自分達は殺し合わされ傷付いた。そして、なおもこの男は世界の全てを弄ぼうとしている。

 彼女は何も言わず、無言のまま跳ね起きて右手を振る。男が射程内に入って来た瞬間、隠しておいた最後の力で攻撃を仕掛けた。刺し違えてでも必ず心臓を抉り出すつもりだった。

 しかし次の瞬間、彼女の動きは止まってしまう。

 男の体内に何かある。それに気付いてしまった。下手に傷付ければ大爆発を起こし、星全体に深刻な被害をもたらす。そんな未来が見えた。

「怖いなあ」

「!」

 一瞬の躊躇の間に逆に胸を刺され、最後のチャンスを失ってしまった。刺創から皮膚が黒く変色していく。刃から強烈な思念が流れ込んで全身を侵食する。呪いだ、暗い絶望と憎悪を煮詰め濃縮した強力な呪詛。神殺しのため念入りに鍛え上げられた魔剣。

 もはや声も出ない。小刻みに痙攣しながら、死に際の虫のように情けない姿で宙を見上げた。これ以上何も出来ない。全ての戦いと、その中で散った命に心の中で詫びる。誰も彼もが無駄死になった。

 絶命寸前の彼女が最後に見た光景は、近付いて来るナイフの切っ先と怨敵の嘲笑。最後に聞いた声も奴の言葉。

「君達もね、この程度では死ねない。知ってるんだ、何度も(・・・)試したから。他の玩具に飽きたら、また起こしてあげるよ。そしたら僕とゲームしようぜ。君は美しいから大事に取っておかなきゃ。またチャンスはあるよ。頑張って、次は勝てるかもしれない」

 そして、彼女の目玉は抉り出された。



 それからの千年の眠りの間にもアルトルに安らぎは無かった。致命の一撃となった心臓への一突き。それによって注ぎ込まれた呪詛がずっと彼女の精神を蝕み続けたからである。

 正直、今も影響下から抜け出せたとは言い難い。憎悪を抑え込んで我を保つことこそ出来るようになったが、アイズの身に着けた物が黒く変色する現象はあの呪いが残っている証。彼女自身の負の思念と強く結合してしまい、もはや切り離すことはできない。

「それは……大丈夫なんですか?」

 天士マジシャンに問われ、アイズは軽く頷く。

「私への影響はほとんど無い。別人格だからか、アルトルが守ってくれているからかわからないが、とにかくなんともない。彼女の記憶に触れようとする時には流石に苦痛を伴うが、それも意識的に記憶を掘り返さない限り起こらないことだ」

 あるいは、だからこそアイズという新たな人格を生み出したのかもしれない。彼女にとって過去の出来事は全て他人事だ。アルトルの記憶もノーラの記憶も大切にこそ思っているものの、自分の経験だとはどうしても思えない。記憶が蘇ったばかりの頃は彼女達と自分を混同していたが、時が経つにつれて自分は自分だと思えるようになっていった。

 もっとも、いつかは蝕まれるかもしれない。キッカケさえあれば、この呪いは容易くこの身を滅ぼすだろう。事実クラリオではアリスを倒そうとしてアルトルの力をより多く引き出し、その代償に全身が黒く染まった。怒りや憎しみが強くなると一時的に強くなれるが、アルトルの魂に強く癒着している呪いの影響もまた大きくなる。そういうことなのだと思う。

「だから私は、なるべく早いうちに奴を倒したい。呪いに侵食されれば正常な思考など出来なくなるかもしれない。狂化して他の神々に討たれたテムガムのように」

「なるほど……それはわかった。しかしユニ・オーリと言ったか? その男が三柱教の教皇だという証拠は?」

「無い」

 ノウブルに問われ即答。今のところは憶測に過ぎない。しかし状況証拠なら揃っている。

「近年起きた事件の数々、その一連のタイミングがあまりに作為的だ。自然な流れでこうなることはありえない」

 イリアムによる魔獣の復活。それを利用した帝国の侵攻。アルトルの再生に天遣騎士団の降臨。そしてアイリスが引き起こしたナルガルとクラリオの崩壊。どれも本来なら百年単位の間隔を空けて発生すべき事象。それがこの数年間に集中している。何者かがそうなるように仕向けたからだ。

「だから教皇か」

「ああ、この流れを作れる立場となると限られる。発端となった侵攻を始めた帝国の皇帝ジニヤか、あるいは大陸全体に強い影響力を持つ三柱教。特に教皇ともなれば容易な話だ」

 奴が再び現れたのは準備が整ったからだろう。千年前のあの日に言っていたゲームを始めるため舞い戻ったのだ。でなければ自分(アルトル)が復活するはずはない。少なくとも、そこには必ず奴の関与があった。

「ブレイブの師、ラウラガ・バートマッシュに研究資金を与えて私を造らせたのは三柱教だ。彼等はアルトルの復活後すぐに接触して来ている。ブレイブはあの場にいなかったので、この契約の内容を知っているのは私と三柱教の人間だけだろう。内容は単純で、天遣騎士団を再結成し、悪しき魔物を討って戦争を終わらせろと言って来た」

 ――それは言葉通りの意味だったのだろう。少なくとも使いとして目の前に立った者達にとっては。

 しかしアルトルは見抜いた。先にも言ったように千年前の屈辱の記憶が彼女に確信させたのだ、彼等の背後にはユニ・オーリがいると。

 アリスがその説明を補足する。彼女も奇妙な発見をした。

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