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gimmick-天遣騎士団-  作者: 秋谷イル
四章・愚者の悲喜劇

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窮地

 アイズはクラリオで思い出した真実を全て語った。彼女は天士でなく人間で、人の身にアルトルの眼球を移植した人造神。同じように人に加護を与えて現在の天遣騎士団を生み出した張本人だと。

 対価として彼等が人間として生きていた間の記憶を全て奪った事実も、もちろん包み隠さず明かした。

 話を聞き終えた天士達は呆然としている。予想を上回る衝撃的な告白にインパクトも毒気を抜かれてしまった。

「副長が、アルトル様……」

「我々も、人間……?」

「加護を授かる代償に、記憶を捧げた……ですか」

「いや、奪われたのだ、私に」

 フルイドの発言を訂正するアイズ。たしかに望んで天士になった者もいたが、大半は何も知らぬまま強制的に変質させられた被害者である。この場の例外はマジシャンだけ。

 彼は有名な奇術師だった。しかし事故によって指を切断されてしまい悲嘆に暮れていたところへ三柱教からの使いが訪れ、指を元に戻せると言われて志願したとアルトルの記憶から知ることが出来た。

 たしかに天士となったことで彼の指は再生した。しかし本来の自分を忘れたことで結局奇術師としての彼はいなくなった。これはこれで騙された被害者とすべきだろう。

 インパクトは大陸西部の港町で活動していたギャング。子供の頃から慕っていた兄貴分を敵対組織に殺され復讐のため五人を殺害。その罪で服役中、数で勝る相手を一方的に惨殺した戦闘力と凶暴性に目を付けられ選ばれることに。

 フルイドは大陸各地の水の水質について調査していた研究者。聖都周辺の水に他では見られない物質が混入していることに気付いてしまい、囚われの身となった。

 マグネットは鉱夫。鉄鉱の存在を感じ取れる特殊な感覚の持ち主だったため幼くして鉱山で働かされていた。その感覚が天士化によって強化されれば強力な武器になるかもしれない。そう考えた三柱教は大金を積んで身柄を買い取り聖都まで連れて来た。罪だと説いている人身売買を自らの手で行ったのだ。

 ゆえに彼等は被害者である。他の天士達も大半は同じ。

 だからこそ約束する。

「まだ試したことはないが、今の私になら人間に戻すことも記憶の返還も可能だと思う。代償として加護を失うが、望むなら言ってくれ」

「アイズ」

 アリスは首を左右に振り、待ったをかけた。彼女は天士を人間に戻すことに反対らしい。その方が自分達にとっての脅威を減らせるのに。

 どういうことかわからず天士達は眉をひそめる。アイズは、わかっていると少女に答えてから頭を下げる。

「ただ、すまないがしばらく待ってくれ。私を罰したいのだとしても、人間に戻りたいのだとしても今は無理だ。先にすべきことがある。それが終わるまで他のことはできない」

「何をする気だ?」

 鋭い眼差しで射抜くノウブル。返答次第ではやはり戦うことになると表情で語っている。問われ、今度はアイズがアリスを見た。アリスも彼女と目配せを交わし、黙考してから助言する。

「彼等の事情も聞くべき。どうしてここへ来たのか、まだわかっていない」

「そうだな……」

 頷いたアイズは再びノウブル達の方へ振り返って促す。

「先に語り出しておいてすまない。今度はそちらの話を聞かせてくれ。対話を望んでいるということは、私達を討伐しに来たわけではないのだろう?」

「この戦力で出来ると思うか?」

「お前がいる」

 即答するアイズ。彼女の視線もノウブルを見据えている。記憶を取り戻した今、この男の危険性について正しく理解出来たのだ。彼ならば自分とアリスを殺し得るかもしれない。

「……俺が何者か知っているような口ぶりだな」

「ああ、知っている。アルトルとノーラの記憶が教えてくれた。そして私自身、お前がそれを知りたがっていたことを知っている。今もそうなら明かそう」

「いや、いい」

 意外にも提案を蹴られる。彼は以前から自分の出自を知りたがっていたはず。なのに何故?

「知りたくなくなったのか?」

「お前に事情があるように、こちらも今はそれどころではない。知ったせいで心変わりする可能性がある以上ひとまずは避けたい。話を戻すが、俺達が来たのは協力を求めるためだ」

「何?」

「ブレイブが囚われた。今はおそらく聖都のどこかに監禁されている。お前達には救出を手伝って欲しい」

「……やはりか」

 驚きはしない。アイズも元上官の不在には気付いていた。彼女の眼はどこにいようとも大陸の隅々まで見渡すことができる。

 しかし、そんな彼女の視線を通さぬ場所が一ヵ所だけある。聖都だ。

「知っていたか」

「ブレイブがいなくなったことはな。状況を考えると聖都に行ったのだろうと思っていた」

 天遣騎士団の長たる彼にはクラリオが壊滅した事情を人間に対し説明する義務がある。そのために聖都に向かったことは容易に推察出来た。

 そして、そのままあの地に留まり続けているとすれば姿が見えないことにも説明が付く。あの都には彼女の視線も届かない。空気中に漂う特殊な微粒子のせいで遮られてしまう。

「捕えられたんだな……」

「ああ、俺達には一度だけ面会の機会が与えられた。クラリオが壊滅した時の事情も、その時に聞いた」

 神の使いを信徒が拘束するなど、普通に考えればありえない話。だが三柱教上層部は天遣騎士団が元は人間だという事実を知っている。その主が人工の神であることも。なら遠慮が無くても不思議ではない。

 それに三柱教の長は――

「団長は……追撃命令を出しませんでした」

 自分達は元人間。その事実に対する動揺から立ち直ったインパクトが会話に割り込む。

「あの人は逆に、副長とアイリスに手を出すなと言いました。何らかの被害が出るまでは静観しろと。理由がやっとわかりました、副長がアルトル様だからなんですね。でも、だったらお願いします、力を貸して下さい。このままじゃ天遣騎士団自体が潰されちまう」

「どういうことだ?」

 ブレイブが責任者として罰せられるのはまだわかる。しかし彼だけでなく他の天士達の存亡までかかっている事態だと言うのか?

 訝るアイズに再びノウブルが説明した。

「三柱教の決定だ、我々を封印すると言っている」

「封印だと?」

「ああ。度重なるアイリス追跡失敗とクラリオ壊滅を受け、各国の天遣騎士団に対する信頼が著しく揺らいだ。天士の能力だけでなく正体に対する疑念の声まで上がり始めている。この状況が長引けば三柱教の風聞まで悪化しかねない。だから、そうならないうちに天へ帰ったことにして退場させたいらしい」

 ――アイズは女神アルトルの遺体の一部を人間に移植することで造り出した人造神。そしてその使徒たる天遣騎士団も元は人間で、大半は罪人として拘束されていた者達。

 この事実が明るみに出れば先の大戦での功績などすぐに忘れ去られ、神をも恐れぬ所業を主導した三柱教に対して批判が殺到するだろう。彼等はそうなることを避けたい。だから懐疑的な目を向けられた時点で隠蔽に走った。

「我々にはお前達二人の捕縛、もしくは抹殺が命じられた。だから今も自由に動けている。だが任務を達成次第、聖都で封印措置を受ける予定だ」

 最大の物的証拠は天遣騎士団そのもの。彼等とアイズさえいなくなれば神の骸と他者の人生を弄んだ事実は闇に葬ることが出来る。

 ブレイブ班以外の面々はすでに大陸各地から聖都に集結しつつある。彼等が今どうなっているかはわからない。

「出発前に三柱教を介しない形で状況を伝えたのでな、可能な限り時間稼ぎはしてくれるだろう。だが、それも長くは続かないはずだ」

「なるほど、証拠隠滅か。クラリオを失ったお前達には、もう拠り所も無い」

「そういうことだ、領主となったブレイブも更迭されている。同じ手で猶予を生み出すことはできまい」

 天遣騎士団は用済み。むしろ魔獣を上回る過剰な戦力は新たな戦争の火種になりかねない。そういう理由で真相を知らない者達からも天への帰還を望む声が上がり始めていると聞く。

「我々が帝国を倒したのに……」

「オレらの居られる場所なんて、もうこういう穴ぐらか人の来ない山奥にしか無いのかもな。天界にだって席は用意されてないだろうし。そもそも、そんなところ本当にあるんだか」

「……」

 アイズは知っている。人々が天界と呼ぶ空間は実際にあると。けれど本来は人間の天士、そして自分の精神が耐えられるような場所ではない。他の神々もいた時代ならともかく、今はもう空虚な静寂が支配するのみの何も無い空間だ。あんな場所では耐え難い孤独に蝕まれて狂ってしまうだろう。

 だから自分達がこの先も生きていくには、どうにかして地上で居場所を作り出すしかない。

 ブレイブもそれをわかっていた。彼が旧帝国民の監視を名目にしてクラリオを手に入れたのは天士達に新たな役割と居場所を与えるためでもあった。実際に半年前までそれは上手く機能していた。

 全て自分とアリスが破壊してしまったけれど――彼女が天遣騎士団の窮状に責任を感じているのは、それが理由でもある。

 アイズが密かに罪の意識に苛まれていると、フルイドが拳を震わせた。

「三柱教は、私達をなんだと思っているんだ……!」

 ブレイブはアイズが第二のアルトルだとまでは語らなかった。当然、天士が元々人間だという事実も。

 だから彼女の告白のおかげでようやく理解出来た。天士は先の大戦で勝利を勝ち取るための道具に過ぎず、戦争に勝ってさえしまえば用済みとなって捨てられる運命だったのだと。

 いや、捨てられる方がまだマシ。封印するということは、いつかまた未来の戦場で利用される。武具を倉庫に仕舞うように眠らせておいて必要な時にだけまた目覚めさせて戦わせる。

 自分達から本来の記憶を奪った三柱教なら、次もまた全てを忘れさせて駒として扱うだろう。どこまでも人間扱いはされない。

「――でも、どうして反抗しないの? 貴方達の力なら人間ごとき簡単に屈服させられるでしょう?」

 純粋な疑問をぶつけたのはアリス。言外に彼女ならばそうすると言いたげな表情。力を与えた者の思惑はどうあれ、自分達は人間を圧倒的に凌駕する力を手に入れた。自由が欲しければ存分に行使すればいい。

 ノウブルはそんな彼女を冷ややかな眼差しで見る。

「父親とイリアムを殺し、帝都を地獄に変えたお前のようにか?」

「皮肉はよして、別にそこまでしろとは言ってない。貴方達なら簡単に自由を勝ち取れるという話。アルトルと三柱教の間で交わされた契約にも『人類への服従』なんて約束は含まれていなかったでしょう? 三柱教の関係者さえ避ければいいのよ」

「何?」

「契約……?」

 天士達の表情が一変し、そしてアリスも察した。

「そこまでは聞いてなかったのね」

「何を約束した?」

 自然、彼等の視線はアイズに集中する。どうやらまた自分が語る番が回って来たようだと彼女も悟った。

 この半年間ずっと迷っていた。けれど今ようやく決意出来た。

 彼等は協力を求めており、自分達も本音を言えば助力が欲しい。少なくとも対立だけは避けるべき。双方共にそんな余裕は無い。

 何故なら敵は、かつてこの世界を守っていたアルトル達『守界七柱(しゅかいななちゅう)』ですら陥れ死に追いやった怪物。天遣騎士団と戦いながら片手間に戦うことは不可能。自分達が協力してさえ勝てるかどうか。

 だから今度は、この真実を語ろう。

「皆、千年前の戦いのことは知っているな?」

 人間だった頃の記憶は全て奪ったが、一般常識など必要な知識は全て天士化された際に改めて刷り込まれたはずである。だからこれは念の為の確認。

 天士達は唐突な質問に顔を見合わせた。意図がわからない。

「異界からの侵略者と戦ったという、あれですか? 三柱の神と人間、そして我々の前の天遣騎士団が協力して立ち向かったと言い伝えられている……」

「そうだ。あれは我々が勝ったことになっている(・・・・・)

 異なる世界から魔獣を率いてやって来た邪悪な神々。地上に降臨した彼等は、この世界を創造した創世の三柱と戦った。

 敵の名はウィンゲイト、エリオン、ジーファイン。

 創世の三柱はアルトル、テムガム、オクノク。

 しかし、この神話は真実ではない。むしろ真逆の物語。

「千年前の戦い、本当は私達は負けた。侵略者に敗北し歴史を書き換えられた。三柱教が信奉する神々の名は偽り。真の三柱は敵として語られてしまっているウィンゲイト、エリオン、ジーファイン。アルトルを含めた偽りの三柱は本来、あの方々に仕える『守界七柱』という下位の神々に過ぎなかった」

 敵は本当の三柱の名誉を貶め、敬愛する主の座にアルトル達を据えることで彼女達にも恥辱を与えた。

 そして――

「この世界を掌握した敵の本当の名はユニ(・・)オーリ(・・・)。神ではなく人間だ。確証は未だ無いが、奴は今なお生きていてリリウム・ランシフォリウムと名乗っている可能性が高い」

「!」

 再び目を見開く天士達。ノウブルだけは逆に鋭く細めた。たしかに真の敵がその立場なら色々と合点がいく。

「……教皇か」

「そう、おそらく現教皇が奴だ。そしてアルトルは復讐のためユニの提案した『ゲーム』に乗らざるを得なかった」

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