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gimmick-天遣騎士団-  作者: 秋谷イル
四章・愚者の悲喜劇

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妖精の住処(2)

 そこからさらにしばらく奥へ進み続けた一行は、いいかげん息苦しさを覚え始めた頃、ようやく目的の場所に到達した。

 何故わかったかと言えば、明らかに洞窟内の他の場所と様相が異なっていたからである。まるで地上のように明るく、足下は一面柔らかいコケで覆われている。

 しかも彼女達がいた。黒髪黒目の女天士と桜色の髪の少女が。

 ついでに半年前、クラリオが壊滅した直後に縄を自力で解いて逃げた気性の荒い馬ウルジンの姿もある。あの艶々した黒鹿毛と並の馬より一回りは大きな体格、そしてふてぶてしい態度は間違いない。奴である。

「やっぱりアイズ副長に合流してたのか……」

「くつろぎやがって……」

 アイズ以外の何者も背中に乗せようとしないあの馬には、団員の大半が必ず一度は蹴られている。なので正直会いたくなかった。こちらが何もしなくとも機嫌が悪いと自分から近付いて来て蹴るのだ、あの畜生は。

 アイズはそんなウルジンの前に立っており、帝国の皇女アリスと思しき少女はウルジンの腹を背もたれにして座っている。天士達はその事実にも戦慄した。ウルジンがアイズ以外に気を許すなんて。

 ただ一人、ノウブルだけは気にせず話しかける。

「久しぶりだな」

「ああ、半年ぶりだ」

 現・天遣騎士団副長ノウブルと元・天遣騎士団副長アイズ。ついに邂逅した両者の間に緊迫した空気が漂った。

「変わりないか?」

「見ての通りだ」

「って、あの、副長……?」

「話し合いじゃ……?」

 腰を落とすノウブル。剣の柄に手をかけるアイズ。彼女の背後にいるアリスの髪もざわざわ蠢きながら伸び始める。

「やる気?」

 見た目はまだ幼い少女なのに、彼女の放つ殺気も尋常なものではない。戦うつもりなら徹底的にやると眼光が語っている。

 突然の展開に狼狽する天士達。その中の一人、童顔のマグネットはどうにか場の空気を和ませようと話題を探した。そしてようやく気付く。

「あっ! あ、あ、アイズ副長! 髪伸びましたね!?」

「今さら?」

 これだから男はとため息をつくアリス。呆れられたが、代わりに殺気は綺麗さっぱり消えた。

「ああ、これか……」

 剣の柄から手を離し、代わりに自分の髪を一房つまむアイズ。そしてどこか照れ臭そうに苦笑を浮かべる。

「未だに、エアーズ以外には切らせる気になれなくてな……」

「そう……ですか……」

 ゴクリ、無意識に唾を飲む天士達。今のアイズには、かつて無かった色気を感じる。男としての本能がそれに反応してしまった。

 マグネットが指摘したように、内面だけでなく外見にも大きな変化が表れている。甲冑を脱ぎ捨てて平民の服を着用し、腰に佩いた剣も天遣騎士団の紋が彫られた物から別の長剣へと交換。流石に元の身分が明らかになるような品は何一つ身に付けていない。

 そしてそう、髪が長い。彼女の最大の武器である視力を使う上で妨げになるからと頑なに短く整えていたそれが今や背中に届くほどの長さ。だから余計に美しく見える。

 だが同時に彼等は亡き仲間を改めて想った。そういえばそうだったなと納得する。アイズの髪はクラリオで戦死したトークエアーズが切っていた。彼女は彼以外にけして髪を触らせなかったのだ。

 柔らかい金髪。少し目尻の垂れた優し気な碧眼。実際に穏やかで気の好い男だった彼の死を悼み、天士インパクトが前に出る。

「アイズ副長、教えてください!」

 ずっと答えを知りたかった。彼だけでなくここにいる全員が。

「どうして俺達を裏切って、その魔獣と一緒に逃げたんですか!?」

 彼が指したのはアリス。桜色の髪と瞳を持つ十代前半の少女。改めて見ても旧帝国領で頻繁に目にした皇女の肖像画と瓜二つである。

 彼女は『最後の魔獣』アイリスでもある。錬金術師イリアム・ハーベストが己の夢を踏み躙って汚した皇帝に復讐するべく、皇女アリスを素体にして生み出した最強最悪の生物兵器。他の生物を魔獣に変える力を有し、カーネライズ帝国と連合軍の決戦の場となった帝都ナルガルでは十万の市民を魔獣に変えてこの世の地獄を作り出した。

 戦後、生き残った帝国民を『収監』という名目で保護していたクラリオの街でも同じ凶行を繰り返し、魔獣化した市民を天遣騎士団に倒させることで虐殺。さらにその場にいた天士の大半をも死に追いやって逃亡。

 アイズ自身、一度はこの少女に殺されていると聞いた。なのにどうして今も共にあるのか理解できない。

「そいつは市民と仲間を殺した仇でしょう!?」

「人を指差すなと教わらなかった?」

 眉をしかめるアリス。とても反省しているようには見えない。その態度に彼も一層強い怒りを覚える。

「お前を人間扱いしろってのか!?」

「できないなら立ち去りなさい。殺しはしないけれど、戦うつもりなら無様に這い蹲らせる。そんなのは嫌でしょう?」

「この……っ」

「おい、落ち着け!」

「話し合いに来たんだろうが!」

 他の天士達が組み付いて止めた。とはいえ彼等も本心ではやはり仲間の仇を討ちたいと願っている。

 そうならないようにと割って入るノウブルとアイズ。後者はかつての部下達が感情豊かになっている事実に驚きもした。

「すまん、こちらに戦うつもりは無い。俺自身そう思っていたのだが、お前達を前にした途端殺気立ってしまった」

「私達も同じだ。特にお前を強く警戒していたからな、許してくれ」

 互いに謝罪してから同時に床に座るノウブルとアイズ。アイズは剣もベルトから外して下に置いた。完全に戦意は無いと示すための行為。

 それから振り返って少女に忠告する。

「アリスも、挑発しないでくれ」」

「ええ、ごめんなさい。ついね」

 アイズに対しては素直に謝るアリス。彼女の中には今なお自分を現在の境遇に追い込んだ世界や天遣騎士団に対する激しい憎悪が渦巻いている。共にいてくれるアイズのおかげで辛うじて抑えられているだけなのだ。久しぶりの天士との接触と彼等の敵意に触発され、やはり感情的になってしまった。

(不安定なようだな……)

 情緒の乱れを見抜くノウブル。今のところ制御出来ていると言えど、やはり危険な存在には違いない。

(いつまた爆発するか……団長ブレイブもアイズも危険な賭けに出たものだ)

 もっとも彼とて今からその賭けに乗ろうと言うのだ、二人のことは言えない。どのみちこれ以外に選択肢など無かろう。

 今、天士かれらは追い込まれている。

「アリス皇女、部下に代わって謝罪しよう。同時に釈明させて欲しい。洞窟内では邪魔になるため途中で置いてきたが我々は白旗を掲げていた。どうか話し合いの席について欲しい」

「ええ、わかっている。アイズも私もそう判断した。だからここまで通したのよ」

 頷くアリス。彼女達はアイズの『眼』とアリスの『髪』の両方を用いてノウブル達の動向を観察していた。この洞窟に彼等が侵入して来るより前からの話。白旗を掲げていたのも確認した。

「謝罪は受け入れましょう。その上で改めて確認させてちょうだい。対話こそが望みね?」

 監視されていると察した彼等は、ここへ来た目的、その肝心な部分を道中に一度も語らなかった。

 事前に打ち合わせていたのだろう、こちらがその答えを知りたがるよう心理を誘導すべく。

 その誘導にアイズがまんまと乗せられた。アリスの方は接触を避けるべきと主張したのである。今の自分達は追われる身だから。

 彼女達にとって彼等との接触には利が無い。どころかこんな砂漠の地下深くまで来てようやく手に入れた平穏を手放すことになるだろう。

 しかしアイズは、かつての仲間と話したいと言った。彼等がそう願っているのであればと。

 彼女は彼等の境遇に対し責任を感じており、助ける義務があると思っているらしい。気持ちはわからなくもないので、結局アリスの方が折れた。

 ノウブルは深く頷く。

「ああ、話し合いたい」

「なら、そうしよう。皆も座ってくれ」

「はい。座るぞ、インパクト」

「目的を忘れるな」

「……おう」

 仲間達に宥められ、何度か深呼吸してからノウブルの左隣に座るインパクト。他の天士達もそれぞれ近くに腰を下ろして、そこで気付く。

「温かい……」

 こんな地下深くなのに地面を覆ったコケは熱を持っていた。よく見れば天井が明るいのも同じコケが光を放っているからである。

魔獣(トーイ)よ」

 訊かれる前に説明するアリス。この一面のコケは『アイリス』の力で作った魔獣なのだ。全く害は無く、光と熱を生んで洞窟内を快適な環境に作り替える。虫や人体から落ちた老廃物を摂取して生き続けるので、メンテナンスの手間もほとんどかからない。

 イリアム・ハーベストは本来『魔獣』をこういうことに使いたかった。人の生活をより快適にしてくれる最良のパートナー。それこそが彼の目指した理想だったのである。

 その夢も、ほんの少しなら叶ったと言えるかもしれない。アイズがアリスの中の別人格リリティアに対し、この幻想的な空間を『妖精の住処』だと教えたからだ。リリティアはおとぎ話の世界に来たと純粋に喜んでいた。あの笑顔を見たなら、彼は間違いなく喜んだ。

「お茶もいる? 私の力で生成できなくもないわよ」

「不要だ。気遣いには感謝する」

「そう」

 別にどうでもいいという表情で目配せするアリス。彼女のその視線に促され、アイズから切り出す。

「インパクト、さっきの質問に答えよう。それから謝らせてくれ……すまない、私はお前達から本当の人生を奪った。他の誰よりも私を恨め。私こそお前達にとっては仇だ」

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