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gimmick-天遣騎士団-  作者: 秋谷イル
四章・愚者の悲喜劇

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救出

 ガナン大陸南部の港町。

 深夜、停泊している船に向かって密かに大勢の少女達が移動させられようとしていた。全員が整った容姿で手枷足枷を嵌められている。

 三柱教は人身売買を罪と説く。そのため多くの国では違法なのだが、やはり誰もが法に従うとは限らない。

 少女達は先の大戦で帰る国を失った難民。ゆえに足が付きにくい。この町を拠点とする犯罪組織は各地からさらってきた彼女達を一旦倉庫に集めて監禁し、別の国へ運んで売りさばく。

 彼女達は不運な被害者だが、同時に幸運でもある。さっきまで少女達のいた倉庫の屋根の上に立つ二つの人影が言葉を交わす。

「懲りない連中ね。前にも痛い目に遭わせてあげたのに、いつまでこんな商売を続ける気かしら? やっぱり徹底的に潰さない?」

「目立つわけにはいかない」

「手遅れだと思うわ。それに誰が追ってこようと逃げられるでしょ」

「そうだが、本来の目的の妨げになる」

「まあ、それもそうね。多少は邪魔か」

 しかし、ああいう目障りな連中も放置しておきたくない。小柄な方の人影は冷淡な眼差しを男達に向け、少女達に罵声を浴びせる醜い姿を注視した。

「さっさとしろ! いつまでも泣いてんじゃねえ!」

「いいかげん諦めねえか、お前らを助けるような奴ぁどこにもいねえよ!」

「どうせなら笑う練習をしとけ。愛嬌が良けりゃ優しいご主人様に買い取ってもらえるだろうよ」

「馬鹿、そんな奴いるかよ。変態だらけだぞ」

「おい、夢を壊してやるなって」

 ゲラゲラゲラゲラ。何が面白いのかわからない冗談を言って笑い合う。

「胸糞悪い」

「同感だが、殺すな」

「わかってる」

 次の瞬間、もう一つの背の高い影は躊躇無く飛び降りた。着地の音を聞いた男達は目を見開いて振り返る。

「なんだ!?」

 自分達のしていることが犯罪だという意識はあるのだろう。後ろめたいことのある人間は感覚が鋭敏で、だからすぐに気が付けた。いつの間にか絡まった細い糸のようなものにも。

 まあ、気付けたところで何も出来やしないのだが。

「うっ!?」

「ぐっ……な、なんひゃ、これ……」

「抵抗するな。口も利くな。何一つ許しはしない」

 屋根から降りて来た長身の女は、そう言いながら剣を抜き放つ。黒い双眸がどういうわけだか青白い燐光を放った。彼女が一歩一歩前に進むたび、空中に短く軌跡を描く。

 人間ではない――男達は即座に理解した。あの女は人間ではない。髪も眼も服も黒ずくめのその姿は死者を迎えに来た冥府の使いそのもの。

 同時に一人が思い出す。

「くっ、黒い女……それに、この糸……まさかニェルバの連中が捕まった時の、あの……!?」

 二ヶ月ほど前、別の街にいる同じ組織の仲間達が一斉に逮捕された。彼等は突然どこからともなく伸びて来た糸に絡め取られ、身動き一つ出来ずにいる間に黒ずくめの美女に気絶させられたという。

「やめっ――」

 命乞いしようとした瞬間には、もう終わっていた。女は人間の目では捉えることすら難しい速度で動き、瞬時に全員を叩き伏せたのである。

 殺してはいないが、骨を砕き、後遺症の残る怪我は負わせた。

「傷が痛むたび思い出せ。二度と悪事に手を染めるな」

 瞬く間に決着がついたことで被害者の少女達は呆気に取られている。彼女達にも何が起きているか理解しきれない。

「な、なに……なんなの……?」

「助かった……?」

「ああ」

 女は怯える彼女達に近付くと、抜き放った剣でいともたやすく手枷と足枷を切断する。少女達の体には傷一つ付けずに。

 そして踵を返した。

「あっ、ま、待って!」

「置いてかないで!」

「すまないが、私も逃亡中の身だ。代わりにそれを使ってなんとかしてくれ」

「え?」

 空から落ちて来た袋が重い音を立てて地面に落ちる。男達の組織から奪って来たものだ。中身は金で、ここにいる全員で等分しても当面食うには困らないだけの額が詰まっている。

「へっ……?」

 目が釘付けになる少女達。やや衰弱してはいるものの、流石に若いので健康状態に問題は無い。きっともう大丈夫。

「君達は自由だ。二度と捕まらないよう十分に気を付けつつ、それぞれの道を歩みなさい」

 その言葉を聞いた少女達がハッとして改めて恩人の顔を見ようと振り返ると、彼女は夢か幻だったかのようにいなくなってしまっていた。男達を絡め取った糸もいつの間にか消えている。

 いったい何がなんだかわからない。ただ、何人かはさっきの女の顔を知っていた。あんな浮き世離れした美人をそう簡単に忘れられるはずもない。

「あれって……天士様だよね?」

「うん。天遣騎士団の副長様……だったはず」

「逃亡中って、どういうこと……?」

 顔を突き合わせて考えたところで、やはり何もわからない。けれど真っ当な人生に戻るチャンスは得た。与えられた。

 それだけなら理解出来た。

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