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gimmick-天遣騎士団-  作者: 秋谷イル
三章・長い夜へ

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聖者の金言

 深海のように暗く静かな部屋。そこを訪れた男は巨大なガラスの円筒の前に立ち、その中にいる者へ語りかけた。

「朗報です、ついに『女神』が覚醒しました。やはり『女帝』との接触がきっかけになりましたよ。あなたの読み通り」

『おお、それは正に朗報。わざわざご足労いただき、ありがとうございます』

 筒の中から響く、くぐもった声。中は液体で満たされているので仕方ない。

 男はおべっかに対し、にこやかな笑みで返す。

「なに、あなたは大事な共犯者ですから。この程度は当然のことでしょう」

 元々優し気な風貌なのだが、笑うとさらにその印象が増す。人の好い若僧にしか見えない。

 とはいえ若作りなだけで実齢は筒の中の『老人』と大差無い。そして、ただのお人好しではないことも明らかである

(こんな計画を立てて実行している時点で、同じ人でなしだものな)

 筒の中の老人も笑った。あの娘に激しく損壊させられた肉体も、おかげで順調に回復しつつある。そろそろ計画を次の段階に移す時だろう。

『オクノクの腕は?』

「安定していますよ。安心して下さい、誰にも下手な手出しはさせません。あれの扱いは引き続きあなたに一任します。回復次第、また研究に戻って下さい」

『もちろんですとも、必ずや成功させてみせましょう』

「ええ、人類の革新のために」

『はい、人類の革新のために』

 報告だけして男は去って行った。本職の方が忙しいだろうにマメな御仁だと感心する老人。自分の二人の弟子も同様に敬意を払ってくれれば、もう少し優しく扱ってやったものを。

『まあ良い、イリアムは死に、シスは契約で縛ってある。傭兵あがりが弟子入りを申し出て来た時には何の冗談かと思ったが、気まぐれとはいえ飼い慣らしておいて良かった。兄妹揃って存外役に立ちおる』


 彼の名はラウラガ。錬金術師ラウラガ・バートマッシュ。シスとイリアムの師だ。

 死んではいない。危うく殺されかけたが、すんでのところで先程の男に助けられた。彼としても自分がいなくなっては長年の悲願が叶わぬのだから当然の話。


(見ていろイリアム、天才などと持て囃されていた貴様より自分の方が優れているのだと間も無く証明してやる。貴様などは所詮、真に偉大で崇高な研究を完成させるための踏み台に過ぎなかったのだと、地獄から見上げて思い知るがいい)

 筒の中で醜悪な笑みを浮かべる老人。長いことここにいて退屈なせいか最近は独り言が増えた。

『しかし、奴はまだまだ未熟者だったが、あの娘だけは興味深い。人間をベースにした魔獣。私の造ったアルトルには遠く及ばんだろうが、あれは捕獲して解析してみたいな……天遣騎士団が回収した死体はどれも半端な紛い物に過ぎなかったが、完成品ならあるいは……』


 この男は欲の塊。知識を欲し、功績を欲し、名誉を欲し、そして興味を持てば他人の物まで我が物にしたがる。

 だが、だからこそ錬金術の世界で重鎮になれたとも言える。欲望は良くも悪くも人を動かす強烈な原動力となる。


「……そうです、あなたはそれでいい」

 部屋のすぐ外、ドアの横に立って独り言を聞いていた男はほくそ笑む。あの醜い老人こそが最も重要な舞台装置。彼無くして計画は成立しない。

「心の命じるままに動きなさい。神々もまた人にそれを望んでおられる。自由こそが人間の証明であり、最大の武器なのです」

 囁き、ようやく歩き出す。老人は独白を聞かれたことに気付いていない。彼は高齢な上に元から鈍い。だからこそ計画に引き入れた。

 いくら知恵が回ろうと、一つのことに憑りつかれた人間は愚鈍だし、愚鈍な者はそうでない者にとって扱いやすい駒となる。

 階段を上って扉を開け、自分の部屋に戻った。ここにある隠し扉のことは彼しか知らない。入念に隠してあるので気付かれたことも無い。長い期間、誰にも。

 さらに自室からも出ると、扉の前で待っていた若い僧侶が頭を下げた。お付きの子で、愛らしい顔立ちをしている。

 期待するような眼差し。また『ご褒美』が欲しいのだろうか?

「おはようございます、聖下」

「おはようございます」

 微笑み、歩き出した。僧侶は後ろについて来る。着替えのために設えられた部屋に入って身支度を整え、再び廊下を進んで大きなホールへ入ると、そこにいた者達が一斉に立ち上がった。


『おはようございます、教皇聖下!』


 声が唱和する。穏やかに笑いながら片手を上げて応え、自分の椅子に座る彼。三柱教の当代教皇リリウム・ランシフォリウム。

 聴くだけで心を癒すと言われる優しい声音で挨拶した後、居並ぶ高僧達を見渡し、率先して両手を組んだ。もうすぐ六時の鐘が鳴る。

「さあ、今日もまた祈りましょう。大いなる災いに見舞われた苦境の時代だからこそ、いつもより想いを研ぎ澄ませ一心不乱に祈りを捧げるのです。さすれば天遣騎士団が降臨したあの時のように、必ずやまた我々の声が届き、天の神々が慈愛を注いで下さるでしょう」


 彼に倣って両手を組み、瞼を閉じる信徒達。

 リリウムの言葉は続く。信仰など持たない彼の空っぽのそれが目の前の滑稽な人々の心には何故だか強く響くらしい。


「アルトル、オクノク、テムガムの三柱を讃えなさい。ただ、人々の幸せのためだけに」

 最も邪悪なる者は、いつだって親切な顔で人に近付いて来るものだ。

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