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gimmick-天遣騎士団-  作者: 秋谷イル
三章・長い夜へ

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別れ(1)

 辺り一面、何も無い暗闇。気が付くとエアーズ達はそこに立っていた。アリスまでもだ。

「ここは……?」

「私の精神世界」

 戸惑う彼等の前に姿を現す、黒いドレスを着た女。アイズと同じ顔、けれど異なる雰囲気を纏う存在。

 天士だからだろう、全員が一瞬で理解し、アリスとブレイブ以外はその場に跪く。

「アルトル様!」

「まさか、これだけ大勢で入って来るなんてね。ここへ辿り着けたのはアイズとノーラの二人以外では、お前達が初めて」

 呆れ顔で彼等を見渡すアルトル。彼女とて未来を完璧に見通せるわけではない。時には予測できなかったことも起こり得る。これがまさにそれ。

 まったく、昔から変わらない。人の想いは良くも悪くも奇跡を起こす。

「それで……何を支払ってくれる?」

 歩み寄り、エアーズの前に立って訊ねる。ここへ来られたのは彼の力。心を通わす能力があったればこそ。だから願いはすでにわかっている。アイズを生き返らせたいのだろう。

 彼女としても、その方が都合は良い。復讐はまだ終わっていない。ただし千年前の争いに敗れて弱体化し、挙句に器まで失いかけている身。このままでは不可能。神の起こす奇跡には相応の対価が必要になる。

 それが何かも予測はついていた。今の彼に支払えるものなど、そう多くは無い。

 問いかけられたエアーズは顔を上げ、やはり決然とした意志を示す。

「貴女から授かった力を全てお返しします。それで足りなければ命も捧げるつもりです」

「でしょうね……」

 やはりか。失望し、残酷な事実を告げる。

「でも、それでは足りない」

「えっ……」

「まがりなりにも私は神。器である彼女も相応に貴重な存在。天士一人の力と命ではどうにもならない。諦めるか、あるいは他の者達の命まで捧げるか、二つに一つ」

 選択を迫られ、エアーズは言葉に窮した。流石に仲間達にまで死ねとは言えない。

 しかし、すぐに声を上げる者がいた。アリスだ。

「何人必要なの?」

「全員。それでようやく」

 質問を予測していたらしく即答するアルトル。

 アリスも同じ。だったらと口角を上げ、改めて訊ねる。

「私の命はどう? 彼等の何人分に値する?」

「なっ……」

「何故、あいつが……?」

 驚く天士達の前で、さらに臆さず詰め寄って行く。

「私の中には、さらに六人分の魂もある。これなら足りるんじゃない?」

「魔獣を生み出す魔獣……そうね、お前は神に最も近付いた者。お前達七人分の魂と引き換えならアイズは確実に蘇るでしょう。天士達を犠牲にする必要も無い」

「じゃあ、やって」

 アリスとアルトルの利害は一致した。天士達もそうだろう。死にたい者が死んで、死ぬべきではなかった者が蘇る。誰も悲しまない。

 なのに、その肩に大きな手が置かれる。振り返った先にはウォールアクス。怒った顔で拳を振り上げ、迷わずアリスの頭に叩き落とす。

 ゴン! かなり強めの拳骨の後、叱りつける彼。

「ふざけんな! 副長はお前を助けるために死んだんだぞ! そのお前が死んじまったらあの人が悲しむ! そんなこともわからねえのか!?」

「な、なんでそれを……」

 ブレイブとエアーズ以外は知らないはず。いや、そうか――わかった。アクス達の姿が青い光に包まれている。エアーズの力だ。彼が仲間達にアイズの死の真相を伝えた。

 だから彼等は笑って手を振る。

「そういうことだ、俺らが行く。本当ならとっくに死んでいた身だ、惜しかねえよ」

「でも! 私が貴方達を!」

 特にアクスには恨まれているはず。そうでなければおかしい。

 なのに彼は、殴った頭を今度は優しく撫でるのだ。愛おしげに、何かを思い出すように。

「辛かったな……気付いてやれなくて、すまなかった」

「あ……」

 アリスは、自分もまたエアーズの放つ光に包まれていると気付いた。彼女の中の怒りと悲しみも、この場の全員に伝わったのだ。

「フィノアを殺されたことは許しちゃいねえよ。だからってな、子供を死なせて大人が生き延びるなんて格好悪くて仕方ねえだろ」

「それもそうか」

「まあ、副長が一緒にいる限り悪さはしないだろう」

「そうだよな、あんなに楽しそうだったもん」

「本当は許すべきじゃない。だが、俺も賭けてみたくなった」

「生きて償え」

「たしかに、それが公平だ」

「頑張れよ」

「副長と仲良くな」


 天士達は近付いて行く。アルトルに向かって歩んで行く。

 アリスは思わず手を伸ばした。彼等のことは憎んでいたのに、敵だとしか思っていなかったはずなのにこのまま行かせたくない。


「待って! 行かないで! そっちへ行っちゃ駄目!」

 遠ざかっていく。アルトルと天士達が遥か彼方の小さな点になり、見えなくなってしまう。

 謝りたい。ようやく素直に言えるのに、もうこの声が届くかどうかもわからない。

 そこにいるのはもう怪物ではなく、ただの一人の少女だった。

「ごめん! ごめんなさい! 行かないで! 行かないでよ皆! 私と一緒にいてよ!」




「……ちゃんと聞こえたぞ、お嬢」

 微笑みながら振り返るアクス。その隣でハイランサーも笑った。皆、リリティアと過ごした日々を思い出している。

 明るい少女だった。両親を喪ってなお、生きることを楽しんでいる彼女の姿に何度も励まされた。戦争が終われば傷付いた人々の心も癒えると信じられた。

 あれがきっと、アリスにとっても本来の姿。普通の子供ならそうあるはずの、当たり前の希望に満ちた形。

 それを守るのが大人の役割だろう。

 天士達はアルトルの前に並び、再び跪く。不思議と、以前にもこういうことがあったような気がする。

 エアーズは申し訳なさそうに呟く。

「みんな、ごめん……」

 こうなるだろうと思ってアリスの感情を全員に共有した。皆、優しいから、彼女の本心を知ってまで憎み続けることは不可能だとわかっていた。

 自分の願いを叶えるため彼ら全員を巻き込み、犠牲にしようとしている。なのに仲間達は誰一人彼を責めようとしない。何故なら――

「一番辛いのは、お前だろ」

「副長が生き返ったって、そこにお前はいないんだ」

「それでも助けたいんだろ。だったら力を貸す」

「仲間だからな」

「俺達がいなくなっても、アイズ副長さえいれば天士はまた増やせる」

「そしていつか戦争は終わる。必ず平和な時代がやって来る」

「お前は間違っちゃいない。これでいい」

 自分に言い聞かせているようにも聞こえる。決意が鈍らないうちにと内心では願っている。

 彼等のその意志をアルトルは汲んだ。向かって右から順に一人一人の肩に触れていく。

「自由を与えます」

 フューリーの魂が消えた。どうなったのか正確なところは誰にもわからない。

 ただ、彼が旅立ったのだとだけ理解した。

「自由を与えます」

 スカルプターも、クラッシュも、ロックハンマーも旅立った。

「自由を与えます」

 ライジングサンとミストムーンの兄弟が消え、ウッドペッカーとハウルバードもいなくなった。

 グレイトボウは消える直前に「団長をお願いします」と言い遺した。ここにブレイブの姿は無い。彼だけはアリスと共に現実世界へ帰された。まだ役割が残っているからだろう。

「ありがとうございました」

 そう言ったのはメイディ。アルトルから与えられた能力のおかげで多くの命を救えた。どれだけ感謝してもしきれない。

「自由を与えます」

 スタンロープ、アルバトロス、クラウドキッカー、アクセルライブ、ハイドアウトが続けて消失する。

「じゃあな」

「ああ」

 能力の相性が良いため、良くコンビを組んでいたサウザンドとハイランサー。先にサウザンドがいなくなり、自分もまた消える直前、反対側のウォールアクスを見るハイランサー。こちらは友人としての付き合いが長かった。

「フィアナさんとはさ、きっとまた会えるよ。待っていてくれると思うぜ」

「そうだといいな……」

 ハイランサーが消え、ウォールアクスの前に移動したアルトルは、まだ彼等に教えていなかったことを伝える。

「想い人とは会えます」

「え……?」

「死者は必ず、その瞬間に『狭間の世界』を訪れるのです。一瞬が永遠になる世界。魂が次の生へ進むことを望まない限り、いつまでも留まることが出来る。彼女はまだ旅立っていません。だから私が同じ『狭間』へ導きましょう。望むなら、そこで添い遂げなさい」

「……ありがとうございます」

「礼は不要。お前達は良く働いてくれました。それに対する、ささやかな報酬に過ぎない」

 そして、ウォールアクスもその『狭間の世界』へと旅立つ。

 最後に残ったのはエアーズ。彼は不遜と知りながらも顔を上げた。最後にもう一度アイズと同じ顔を見ておきたい。

「心配せずとも、お前も彼女に会えます」

「ありがとうございます。でも、貴女の顔を見たかったのです」

「私を?」

「はい……安心しました。貴女からは人間に対する強い憎しみが伝わって来る。だけど、それだけじゃない。今もまだ我々を愛して下さっている」

「それは当然」

 彼女はこの世界を守るために造られた神。本当の創造主、真の三柱の願いによって生まれた。

 あの方々はこう仰ったのだ、この世界の生命を愛し、慈しみなさいと。

「創造主が、ウィンゲイト様がお帰りになればわかります。あの方は全てを愛している。その愛を分かたれて生まれたのが私。一度や二度裏切られた程度で見限れるはずもない」

 だからこそ憎んでいても離れられない。愚かな子供達でも、もっと長く見守っていたいと願ってしまう。

 そして別れは、やはり悲しい。

「天士トークエアーズ、ご苦労でした。お前達、特にお前の名をアイズが忘れることは無い。その名と忠誠心は永遠に彼女の心に刻まれます」

「だったら嬉しいです」

 笑って、けれどやっぱり寂しそうにエアーズは消滅した。やがて彼等から返却された力と対価として受け取った命が一つになり、アルトルの手の中で鼓動を打ち始める。

「さあ……」

 自分の胸に握った両手を当て、瞼を閉じるアルトル。光が溢れ出す。

「彼等の想いを無駄にしないで。目覚めなさい我が半身――アイズ・アルトル」

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