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gimmick-天遣騎士団-  作者: 秋谷イル
三章・長い夜へ

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死闘(5)

(こいつは知らないはず!)

 彼はリリティアを怪しんでいた。だから何人かの団員には手札を隠させておいた。もしも彼女と戦うことになった時のために。

「兄さん、今だ!」

「ああ!」

 ライジングサンとミストムーン、双子の天士の連携技。ミストムーンの霧は敵の視界を奪うことにも使える。さらには霧の密度を高めてレンズを作り出すことも可能。

 そのレンズに兄ライジングサンの『光』の能力を組み合わせると強力な光線が放たれる。大戦中には大型の魔獣を四体まとめて焼き払ったほどの高火力で。

「!」

 流石に光速の攻撃を避けることはできない。直撃を受けるアリス。そこへ再び空間の穴が開いてアクセルライブが飛び出して来た。

 が、そんな彼と空間の穴の向こうにいるハイドアウトをまとめて貫く髪。

「言ったでしょう」

 電撃を流して無力化し、ライジングサンとミストムーンの方を見やる。

「貴方達では深度が足りない。そして天士にできることは私にもできる」

 彼女の口から銀色の霧が吐き出され、空中にレンズを形成した。そこから放たれた光線が地面を抉りながら双子の天士に迫る。

 しかし二人に直撃する寸前で逸れた。アリスの意識が別の方向へ向いたせいだ。

「やめろリリティア!」

「馬鹿、エアーズッ!」

 空中から降下して来たエアーズの一撃。剣を受け止め、一瞬ためらうアリス。

(私だと気付いて――)

 彼が戻っていることは知っていた。先程のブレイブ達の連携、あれは彼の力を介し声を出さずに打ち合わせたものだろう。毒を打ち込まれた時、脳内に響いた声も彼の仕掛けた奇襲。

 だからわかっていた。けれど出て来て欲しくなかった。脳裏に彼とアイズとリリティアの三人で過ごした幸せな記憶が蘇る。

 それでも迷ったのは一瞬。その一瞬で勝機を掴めるほど彼は強くなかった。アリスはエアーズを殴り飛ばし、そして空にいるクウラドキッカーにも目を留める。すぐさま彼に対しても髪を伸ばす。

「やばっ!」

 とうとう見つかってしまった。逃げるキッカー。執拗に追い回すアリスの髪。

 地上では並行してブレイブとの近接戦を繰り広げる。こちらは彼女が逃げる側。封印を無理矢理こじ開けた今の彼なら自動防御を突破して攻撃できる。そして彼の剣は彼女にとって猛毒。二度と喰らうわけにはいかない。常に一定の距離を保つ。

 追跡と逃走を続けながらアイリスは探った。周囲に髪を伸ばして。

 そして見つけ出す。囮に誘われ姿を見せた標的を。

「あはっ、そこにいたのね」

「逃げろメイディ!」

「あッ!?」

 倒れた仲間を物陰に移動させ治療しようとしていた天士メイディ。その姿を発見して即座に攻撃を放つアリス。戦闘力に乏しい彼はあっさり胸を貫かれて倒れた。

 が――

「えっ?」

 毒を受けた時のような眩暈が生じる。突然気分が悪くなり全身の皮膚がボコボコ泡立ち始めた。

 それはメイディが倒れる瞬間、直感で思いついた反撃方法。本来なら治癒に使う力をありったけ髪を通してアリスに流し込んだ。過剰な量のそれが生命機能の一部を暴走させ、彼女にダメージを与えたのである。

(こんな手が!?)

 予想外の痛手を被り、よろめくアリス。皮膚が弾けて全身血塗れとなる。それでも怪物と化したその身は倒れない。死なずに魔素を利用した再生を始める。

 そこへブレイブが仕掛けた。絶体絶命の窮地に見出した一筋の勝機。そこに賭ける。

「グレイトボウ!」

「はい!」

 アクセルライブが倒れたことで身体強化の効果は切れた。代わりにグレイトボウの『弦』の能力で弾き出してもらい一気に間合いを詰める。グレイトボウは同時にいくつもの瓦礫を発射。全弾がアリスに直撃。もちろんダメージは入らなかったが狙いは別。

(実体だ!)

 瓦礫がすり抜けずに当たった。ならば幻覚でなく本物。そう確信して剣を突き込むブレイブ。

 爆風が髪を押し退け、自動防御に隙間を作る。そこを潜り抜ける白刃。少女の心臓に深々と突き刺さる。結晶に切っ先が届く感触を得た。

 ――なのに遠のく。弾き飛ばされ逆方向へ飛んでいく。グレイトボウとクラウドキッカーも刺し貫かれて絶叫を上げた。これでクラリオにいた天士達は全滅。


「あと、一歩だったわね」


 よろめきながら口角を上げるアリス。グレイトボウに攻撃された瞬間、思いついた。彼の能力を真似て周囲に髪の結界を形成。あまりに細く肉眼で捉えることは難しい。それでも強靭な彼女の髪は相手の突進力を利用し跳ね返す罠となった。ブレイブはそれにかかったのである。

 もちろん、こんなもので終わらせはしない。彼等とて意識があるうちは戦い抜こうとするだろう。だから彼女の髪は倒れたブレイブの四肢に絡みつき、即座に骨をへし折る。

「ッ!」

 苦痛に表情が歪む。悲鳴を上げないのは大したもの。でも、こうしておけば能力を使って拘束を解いても戦うことはできない。逃げ出すことも。

「殺しはしない」

 今はまだ。他はともかく、この男には罪を告白してもらう。殺す前に自分のしたことを認めさせなければならない。

「貴方が死ぬのは、それからよ」

 持ち上げ、下から睨みつけるアリス。ブレイブを見上げた相貌には怒りと憎しみ、そして強烈な侮蔑の感情が込められていた。




「はあっ……はあっ……はあ……」

 流石に息が乱れ、膝が震える。鎧は途中で脱ぎ捨てたので鎧下着と靴だけの姿。馬で二日かかる距離を一時間足らずで駆け抜けるなど天士といえども無茶が過ぎた。

 でも、ようやくアイズは戻って来た。クラリオへ。すっかり日が落ちて暗くなった山道から街を取り囲む高い防壁を見上げる。

「はあ……はあ……」

 仲間達が送り出してくれた、先に行けと。あの場に現れた魔獣は囮。アイリス本体がクラリオを襲撃しているなら彼女の『眼』が必要なはずだと言って。

 一刻も早く戻りたい、そんな焦りを見抜かれた。本当は、それが理由だったのかもしれない。

「……っ!」

 乱れた呼吸を強引に整え、門に近付く。街の内外を繋ぐ唯一の出入口。そこは閉ざされたままになっている。

 けれど、すぐにわかった。武器を持ったまま力尽きた兵士達の亡骸を見て確信する。巨大な門はわずかに開き、そこから魔獣達が這い出そうとしていた。彼等はこの場所を死守したのだ。魔獣が外へ逃げないよう必死に踏み止まって戦い続けた。

「すまない……」

 もっと早く戻っていれば助けられた。死なせずに済んだ。

 わかっていた。ここへ辿り着く前から、とうの昔に。認めたくなくて目を逸らし続けた。能力で見ることをしたくなかった。

 でも、これ以上は無理だ。戻って来てしまったのだから。

 この目で見て、知らなければならない。

「すまない……」

 もう一度謝り、その場を離れる。巨大な鉄扉の向こう側は魔獣の死体が折り重なっていて完全に塞がった状態。強引に押し開くより壁を登った方が早い。

 普通の人間なら登ろうとなど考えない垂直の高い壁。だがアイズの目は彼女の体重を支えられる僅かな凹凸を見つけ、さらには登攀に最適なルートも瞬時に割り出す。

 装備の重さを感じさせない身軽さで簡単によじ登ってしまう彼女。一旦は壁の上の通路に立って、もう一度深呼吸する。そうして覚悟を固め、反対側から壁内を一望した。

 そして知る。いや、知ってはいたが思い知らされた。守りたかった場所は、もう無いのだと。

 クラリオは完全に壊滅してしまった。眼下にあるのは闇夜を照らす炎と瓦礫の山だけ。

 誰の姿も見当たらない。生きている者は誰一人として。

 死体ばかりが転がっていた。

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