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gimmick-天遣騎士団-  作者: 秋谷イル
二章・夢の終わり

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夢の終わり(2)

「えっ……」

 いつものように抱き合って眠る直前、信じ難い話を聞かされて少女は凍り付いた。

「行っちゃうの!?」

「すまない……しばらくクラリオを離れる」

 謝罪するアイズ。彼女は今朝、一人で団長執務室まで行って改めて直談判して来た。残る二人のアイリスを追わせて欲しいと。当然ブレイブは却下したが、それでも食い下がった。


『あれから二ヶ月経っている、それでも見つからないんだろう? もう待てない、お願いだ、私に任せてくれ。彼女達の苦しみを終わらせてやりたい。それに、やはりクラリオを巻き込みたくないんだ』


 本音でぶつかって真摯に頼み込んだ。ブレイブは悩みに悩み、そしてついに許してくれた。


『……春までだ、こちらではまだ冬だが、三月になったら必ず戻って来い。この約束を守ると誓うのなら許す』


 もちろん誓いを立てた。だから明日、早速部下を二人伴って出発する。


「エアーズも連れて行くの……?」

 ベッドの縁に座り、立ったままのアイズを問い質すリリティア。アイズは小さく頷いた。

「ああ、エアーズとキッカーを連れて行く。二人は伝令役だからな、定期的にここへ戻って来る」

「でも、アイズは春まで戻らないんでしょ!」

「そうだ」

「なら私も連れて行って!」

 切なげに訴えかけて来る。アイズは、けれど直視できずに目を逸らした。

「すまない、それはできない」

「どうして!?」

「危険だからだ。アイリス達はまた私を狙って来るかもしれない、だから私はここを離れる。お前が一緒に来たら意味が無い」

 もう一度リリティアを見つめ、きっぱりと理由を答える。さらに続けた。

「お前に死んでほしくない。だからここにいてくれ、ここにいれば安全だ……頼む」

 本心からの訴え。あの時、気が付いた。サラジェの廃坑でリリティアが洞窟に引きずり込まれてしまった瞬間、自分が本当は彼女と共にありたいのだと思い知った。喪いそうになって初めて恐怖を覚えた。

 いつからそうだったのかはわからない。ひょっとしたら最初からかもしれない。戦時中、自分に愛を告白して来た少年が死んだ。あの時にも同様の喪失感があった。けれど当時の自分にはそれがなんなのかさえ理解出来なかった。

 あるいは理解できないふりをしていた。その方が楽だから。気付かなければ、命令に従って動くだけの存在でいられた。

 でも、もう出来ない。知ってしまった。自分にも大切な存在がいると。

「お願いだリリティア……待っていてくれ……」

 泣きそうな顔で懇願する。彼女がここまで感情を露にしたのは誰も見たことが無い。すると次の瞬間リリティアは――


「うん」


 たった一言、それだけを言って無表情で頷いた。まるで記憶が飛んだ時のような、無機質な人形を思わせる雰囲気。アイズの背筋が冷たくなる。自分は何かを間違えたのではないかと、どうしてなのかそう思った。

 けれど、すぐにいつものリリティアに戻った。やはり涙ぐみ、すぐにその涙を瞳の端から零して鼻をすすり始める。

「アイズがそう言うなら……待ってる」

「リリティア……」

「だから、ちゃんと帰って来て……絶対だよ……お父さんとお母さんみたいに、いなくならないで。いい子にしてるから……」

「大丈夫だ、必ず戻る。一緒にいると約束しただろう」

 この誓いを破る気は無い。一時離れるのだってリリティアが安心して暮らせる世界にするためだ。残る二人のアイリスを倒せば魔獣の脅威は消える。天士が守護するクラリオにいれば旧帝国民とて他国の憎悪に晒されはしない。

 そしたらずっとここで彼女と一緒にいよう。アクスが言っていた、天士の力を捨て去ればそれが許されるのだと。自分も今はそうしたい。


 二人はまた抱き合って横になる。同じ毛布に包まり、互いの体温を感じながら瞼を閉ざした。


「アイズ、大好きだよ……」

「ああ……」

 少し前まで、自分がこんな風になるとは思わなかった。離れがたい、この少女といつまでも共に生きたいと願っている。

 けれど同時に、あの少女達に安らぎを与えたいとも思う。名も知らない彼女のように他の二人も生きる苦痛から解放されたいと願っているなら、この手でそれを叶えてやりたい。

 リリティアのためであり彼女達のためだ。決意を鈍らせぬよう、必死に自分に言い聞かせる。

 それでも、だとしてもこれは伝えておこう。今まできちんと言葉にしたことが無かった。

「私もだ……お前が一番大切だ、リリティア」

「うん……」

 二人は互いの温もりを忘れぬよう、強く抱き合って朝までの時を過ごした。




 翌朝、いつもの甲冑を着込み、ウルジンの背に跨ったアイズはエアーズとキッカーを伴って城を出る。すると予想外の光景が目の前に広がっていた。

「アイズ副長、いってらっしゃい!」

「御武運を!」

「我等が祖国の負の遺産を打倒し、魔獣の脅威を打ち払って下さい!」

 どういうわけか街の人々が通りに出て彼女の旅立ちを見守っている。遅れて城から出て来たブレイブも驚いた。

「なんだと……?」

 今日アイズが出発することも、その理由も市民には報せていない。なのに何故?

 困惑する天士達が通りを進んで行くと、人垣はずっと南の門にまで続いていた。誰もがアイズの幸運を祈り、これから訪れる不在の時を惜しむ。わけがわからない。情報が洩れていることもそうだが、いつの間にこんなに彼等に慕われるようになっていたのか。

「なんなんだこれは?」

 その疑問に答えたのは補佐のエアーズとキッカーである。

「あっ、副長はリリティアと城の中にいることが多かったから、まだご存知ないんですね」

「少し前からリリティアに関する噂が市内に広まってるんです。まあアクスや自分達があちこちで話してましたからね。副長があの子に慕われていることも皆が知っていて、それで以前とは違う目で見られてるんですよ」

「なるほど」

 ブレイブだけが頷く。彼には今の話でどうしてアイズが市民に慕われるようになったのか容易く理解出来たようだ。

「人間はな、子供に優しい奴を見るとそれだけで信頼してしまいがちなんだ」

「そうなのか……?」

「ああ、それもとびっきりの美女となればなおさらだ」

「……」

 最近、容姿を褒められると妙な気分になる。胸の奥が痒くなるような、そんな感覚。人々の自分に向けた温かい眼差しや声を受けて、やはり同じようにむず痒くなった。何故なのだろう。

「あれ? 副長様、照れてない?」

「まさか、アイズ副長だぞ」

「いや、でも……」

「……」

 何人かが指摘したように頬を赤く染め、それを誤魔化すように口を一文字に引き結んで先へ進むアイズ。その表情に多くの男達が魅了され、同姓ですらも危うく恋に落ちそうになった。

 やがて門の前まで辿り着いた彼女の前に、また驚きの光景が現れる。

「アイズ!」

「リリティア!?」

 城から出られないはずの彼女がそこにいた。ついさっき、城を出る直前に別れを済ませたばかりなのに、まさかもう再会するとは。

 下乗すると早速飛びついて来た。そんな彼女を抱き上げながらブレイブの方に振り返る。やはりしてやったりという笑みを浮かべていた。

「安心しろ、クラリオからは出さん。ちゃんと留守番させるさ。だが、監視役のお前がいないのに城に留めておいても意味が無いだろう、今後は自由に出入りできるようにする」

「そうなのか……」

 少し安心した。それなら街にいる友人達とも遊べる、自分がいなくても寂しくは無い。

 そう思ったアイズを見上げ、ついさっき別れの涙を流したばかりでまだ少し目の周りが赤いリリティアは告げた。

「でも、お城にはずっと住んでいていいんだって。だから待ってるよ、ちゃんとアイズのお部屋にいるからね」

「ああ……あそこはもう、お前の部屋でもある。好きなだけいればいい」

「うん!」

 そんな二人の会話を遠巻きに眺めていた市民も納得した。噂通り、アイズはもうかつてのような恐ろしい存在ではないのだと。愛情深き真の天士になってくれた、そう確信できた。

 彼女はそんな市民達の方へ振り返り、地面に立たせたリリティアの背を押す。

「皆、私の留守中はリリティアを頼む」

「お任せください!」

「大丈夫よリリティアちゃん、おばちゃんらもついてるからね!」

「安心して行ってください!」

「俺らもいますので」

 最後の言葉はウォールアクスだ。フィノアと言ったか、六月の事件で出会った女性と並んで人々の間に立っている。よく見れば他の天士達もあちこちで見送ってくれていた。

 頼もしく、そして大切な仲間達。彼等がいるから大丈夫だ。

「ああ、頼む」

 安心してウルジンに跨るアイズ。兵士達もまた敬礼して左右に並んだ。

「御武運を!」

「開門!」

 巨大な門が開く。そこへ向かって進みながらアイズはもう一度だけ振り返った。ブレイブと共に見送っていたリリティアが大きく手を振る。

「いってらっしゃい! がんばって!」

「ああ――」


 兜を脱ぐアイズ。そして人々は目にした。リリティアもブレイブも誰一人として見たことが無い奇跡を。

 少女のように明るく、可憐に笑う彼女を。


「また会おう、必ず」

 手を振って、やがて黒い天士の姿は遠ざかって行く。リリティア達は、ずっとその背中を見送り続けた。見えなくなるまで。

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