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gimmick-天遣騎士団-  作者: 秋谷イル
一章・天士と少女

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大きな代償(1)

「ついに倒せましたね」

 ほっと息を吐いたエアーズの隣でブレイブも嘆息する。

「なんとかな」

 アイリスは地上へ落ちる前に完全に消滅した。おかげで城を押し潰されずに済んだのはいいが、このままではどのみち住処を失ってしまう。

「とりあえず消火だ! お前ら、街の方の火を消しに行け! 生存者の捜索と救助も必要だろう! 急げ!」

「了解です!」

 走り出す天士達。自身も旧皇城の門前に降り立ったブレイブはリリティアを抱えて降下してきたアイズを一人で迎える。

「団長、次の指示を」

 今しがた八ヶ月越しに大仕事を終えたばかりだと言うのに、もう次の任務を欲する彼女。ブレイブは呆れ顔で答えた。

「まずは火を消すために能力を使いたい。解除を要請する」

「承認」

 即答するアイズ。ブレイブの能力は強力すぎて二人の副長と契約の場にいた数名の人間のうち一名の承認が無ければ完全開放できない。

 だが、そのうち一人でも承認すれば限定的な使用は可能となる。

「壊すなよ」

「そのつもり、だっ!」

 剣を抜き放ち上段に構えてから振り下ろすブレイブ。その刃から放たれた不可視の力はまっすぐ飛んで城の外壁に衝突すると瞬時に暴風と化して城全体を包み込んだ。さらに城の上に雨雲が発生して雷を落とし、雨を降り注がせる。

 三分の一でこれである。完全開放など出来る限りしない方がいい。


「なっ、なんだ!?」

「今度は城だけ嵐に飲み込まれた!」


 屋内に隠れて様子を窺っていた人々が再び窓から顔を出して驚愕する。ブレイブの発生させた嵐は城を包む炎を徐々に弱らせ鎮火させていった。同時に頭上の雲を払って月の光を地上に降り注がせる。


「じいちゃん、さっきのでかい化け物がいなくなってる!」

「お、おお……天士様じゃ、天遣騎士団が我々をお救い下さったのだ……!」

「すげえ……あんな化け物を……本当に強いんだな、天士って……」

 危険は去ったと悟り少しずつ通りに出て来て、あるいは屋内に留まったまま窓から城の方向を見つめ感嘆する人々。

 やがて歓声を上げ始める。脅威の消失と、それを成し遂げた天士達の活躍を称える。

「ありがとう天士様! 天遣騎士団、万歳!」

「神に感謝いたします……」


「……どうだ、アイズ」

「何がだ?」

 唐突に問われ眉をひそめる彼女。ブレイブの言わんとしていることがわからない。

「あれは、お前に向けられた声だ。なんせ、お前が奴を倒したんだからな」

「だから、それがなんなんだ?」

 やはりわからない。与えられた使命を果たしただけ。人間達が感謝するのは当然のことだし、それに対して自分が思うことも何も無い。

 ブレイブは不服そうにため息をつく。

「まったく、一年も経ったのに成長しないな」

「……」

 その自覚はある。成長したら、今のやりとりも理解できるようになるのだろう。

「努力する」

「ああ、そうしてくれ──っと」

 一転、何故か笑顔になる彼。同時にアイズの左手に何かが触れた。

「ん?」

「……」

 救出した少女。意識はあるようなので地面に下ろし自分の足で立たせたのだが、今までずっと何の反応も示さなかった彼女がアイズの手を掴んでいた。こわごわと、ほんの少し指先を重ねる程度ではあるが、おそらく手を繋ごうとしている。

「その子はわかっているようだ、誰が助けてくれたのか」

「……」


 なんだろう? 今までに感じたことのないものが指先から伝わって来る。

 この少女は自分のせいでこうなったはずだ。なのに、それでも──


「あり、がとう……」

 たどたどしく紡ぐ感謝の言葉。心は壊れていなかったらしい。あるいは何かが損傷したそれを蘇らせたのか。

 助けた者に感謝されるのは当然のこと。そう思っているのに、やはり何か違う。初めて胸の中が疼いた。

 不可解な事象。じっと少女を見つめていると思わぬ記憶が蘇る。戦争の最中、突然愛を告白してきた少年。彼の顔と少女の姿が一瞬重なる。


『じ、自分はアイズ様をお慕い申し上げております! できれば寵愛を賜りたく!』


「……お前もそうなのか?」

「?」

 質問の意味がわからず首を傾げる少女。つられてアイズも頭を傾ける。どうやら違ったらしい。やはり人間に対する理解が足りない。

 そうこうしているうちにブレイブが新たな命令を発する。

「アイズ、オレは消火活動に加わる。お前はその子をエアーズかメイディあたりに預けて魔獣の残党がいないか調べろ!」

「わかった」

 頷くなり少女を抱き上げる彼女。少女はびっくり顔で見上げて来た。

「この方が早い」

「うん……」

 そう言って首に腕を回し、しがみついて来る。アイズも少しばかり驚いたが、たしかに密着させておく方が走りやすい。咎めずにブレイブの後を追って走り出した。


 消火と生存者の救出、そして魔獣の残党捜しは翌朝まで続いた。幸いにも魔獣は一匹も残っていなかったが、炎に包まれた区画と病院にいた人々、合わせて七百四十名の市民は帰らぬ人となった。病院は完全に焼け落ち、城も一部崩壊。

 こうして甚大な被害を受けながらも、最強の魔獣アイリスとの決戦は一夜の内に結着を見たのである。




 ──数日後、ブレイブはいつもの執務室でアイズが来るのを待っていた。エアーズ経由で呼び出したからすぐに戻るはずである。

 幸いにもこの尖塔は無事だった。外壁が少し焦げたくらいで大した被害は受けていない。中にあったイリアムの研究資料もそのまま。だから今も足の踏み場が無いくらいに大量の紙束で床が埋まっている。アイリスとの決着はついたし近々処分するつもりだ。

「……」

 この資料の処分方法について思うところはあるのだが、仕方ない。契約は守らなければならないのだ、今後の為にも。

「今後か……」


 とうとうアイリスを倒した。これであの戦争は本当に終結。

 あとは、この街をどうにかするのが自分達の使命。

 他にすることは無い。行く場所も。


「怪しまれてなきゃいいが……」

 そろそろ誰かが“秘密”に気付いてしまってもおかしくない。少なくとも違和感はあるはずだ。そこから真実に辿り着く者がいつか必ず現れるだろう。

 その時、自分はどうしたらいい? そして彼女は──


 答えは未だ出ない。


「はあ……」

 疲れた顔で息を吐く。そして思考を切り替えた。とりあえずは目先の問題に対処しよう。アイリスの件で天士の力を目の当たりにした市民は口々に天遣騎士団を称えている。

 だが、全員がそうではない。特に今回の一件で被害を受けた者達とその関係者の中にはに不信感や恨みを抱いた者が少なくないようだ。

 当然だと思う。自分達はこの地を統括し管理を任された組織。なのに壁内へあんな怪物を侵入させた。その時点で本来なら責任を問われるべき。今は天士達への批判を許さない風潮が強く、そのため誰も公然と自分達を批判したりしない。だがいつかは鬱積した不満が爆発するだろう。

(どうにか発散させるか和解に持ち込みたい)

 これからクラリオを旧帝国民の安息の地としていくにあたり住民との協力は必要不可欠。なるべく遺恨は残したくない。


 それに別の不安もある。


(本当にアイリスとの戦いは終わったのか……?)

 あまりにも呆気ない気がする。たしかに彼女は強かった。とはいえ、想像していたほどでもなかった。

 アイズが言っていたことも気になる。彼女はアイリスの五感が人間と同等の性能でしかないと見抜き、光源になっていた魔獣達を仲間に撃墜させ自分が接近するための隙を生み出した。

 しかし自身の肉体を自在に変化させられるアイリスなら、視覚などどのようにでも取り戻せたはず。

「やはり死にたかったんだろうか……」

 病院での会話から察するに、彼女の目的はそれだった。死に場所を求めてクラリオまでやって来たのだろう。怪物として生きることを受け入れられず、自分を殺せる者達がいる場所を旅の終点に決めた。

 アイズを特別視していた理由はわからない。八ヶ月間ずっと追跡され続けたことで絆のようなものを感じていたのだろうか?



『駄目ですよ、この子は大事なお姫様。助け出すのは主役の仕事』



 ──主役。アイズのことを何度もそう呼んでいた。彼女にとってあの戦いは劇のつもりだったのかもしれない。脚本を書き、演出して、悪役まで自ら演じた。元々そういうことに憧れていたのではないか? 舞台を明るく照らし出したのも観客、つまり市民に余さず演者の動きを見せたいから。だからほとんど攻撃には使わなかった。

 なら、あの配役もわからなくはない。アイズは天遣騎士団の中にあっても異色の存在だ。男ばかりの組織で唯一の女。他の天士とは真逆の漆黒の甲冑。物語の主役には、そういうわかりやすい特徴を持つ者が望ましい。

 リリティアもそうだ。たまたま魔獣の襲撃から生き延びた少女。両親を失い、心に深い傷を負った悲劇の子。こちらもわかりやすいヒロイン像と言える。

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