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gimmick-天遣騎士団-  作者: 秋谷イル
一章・天士と少女

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希望の闇(2)

 アイズとエアーズの話が聞こえたわけではない。しかしアイリスは敏感に相手の動きが変わったことを察した。何人かが地上で新しい動きを見せている。

(何を仕掛けるつもり?)

 警戒度を引き上げながら再び迫って来た敵を迎撃。けれど防ぎ切れない。天遣騎士団は特に火力が高い団員に絞り込んで攻撃役に選び、残りがそれを全力で支援している。


「オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!」


 咆哮しながら突っ込んで来る一人の天士。彼の攻撃を触手で防ぐことはできない。竜の頭と化した左腕を向けて火球を放つ。ところが相手はその炎すら突破して来た。

「くっ!?」

「弾けろ、怪物!」

 咄嗟に盾にした翼と槍斧がぶつかり合う。するとようやく突進が止まった。元来た方向に弾かれる彼。同時に弾け散る翼。羽と血飛沫が虚空に舞い散る。

「なんて威力! 流石は天士!」

 目を見張り称賛するアイリス。彼、ハウルバードの能力は“波”──触れたもの全てを破壊する超振動波で自分自身と武器を覆い攻防一体の突撃を行う。

 そこへさらにもう一人、別の天士が突撃した。こちらはハウルバード以上に危険。能力発動に長い溜めを必要とする分、貫通力は全天士中最高。


「行け、ウッドペッカー!」

「はあああああああああああああああああああああああああッ!!」


 グレイトボウの“弦”で弾かれた彼は矢のように空を駆け抜けアイリスの上半身に剣を突き立てた。ノウブルの“盾”と対を成す最強の“矛”を生み出す力。剣先に一点集中で集束した光は凄まじい熱量を発揮し、あらゆる物質を瞬時に蒸発させる。

 だが、そこで彼の攻撃は止まった。たしかに剣先は刺さったが、アイリスの命を奪う前に何かに殴り飛ばされて城の屋根に激突する。そのまま突き破って屋内へ消えた。

「ウッドペッカー!?」

「なんだ、今の攻撃……!」

 戦慄する天士達。仲間が何をされたのか全くわからなかった。まだ奥の手があったとは。これでは迂闊に踏み込めない。

「ふふ、惜しかったですね。もう少しで私の“心臓”を破壊できたのに」

 笑うアイリス。その体の傷が見る間に塞がり、弾け飛んだ翼まで再生していく。ずっとこの繰り返しで、どれだけダメージを与えても全く疲弊してくれない。

「あんなものどうやって倒したら……!」

「諦めるな!」

 絶望しかけた部下達を鼓舞するブレイブ。

「そろそろのはずだ!」

「!」

 その時、彼の言う通り新たな展開が発生した。地上から無数の“馬上槍”が投擲されて次々に空中のコウモリ型魔獣を撃墜する。

「! 光を消す気!?」

「消えろっ!!」

 驚くアイリスの周囲で他にも数名が空中を走り、残りの魔獣を片付けていく。倒す瞬間に呼吸を止め飛散した毒血を吸わないようにすぐさまその場から離脱。情報はしっかりと彼等の間で共有されたらしい。


 ということは──


「アイズさんがいますね!」

 彼女が戦線復帰したに違いない。他の天士達を警戒しつつ姿を捜す。光源となる魔獣を全滅させられても、城と街の一部が燃えているから視界はそれなりに明るい。これだけの火災をすぐに消すこともできないだろう。


 けれど陰影は濃くなっている。

 視界の片隅で何かが動いた。


「あっ!?」

 一瞬で見失ってしまう。その影は巧みに自分の姿を暗がりの中に紛れ込ませ城に近付きつつあった。神に祝福された瞳で相手の目線を読み取り、その外へ外へと回り込みながら壁を駆け上がり、屋根を蹴って、より高い位置へと上昇して行く。

 ぞっと背筋が寒くなった。アイリスは直感に従って左腕を前方に向け即座に火球を放つ。放たれた炎が一瞬だけ照らし出したのは漆黒の女騎士。

「二度は食らわん」

「副長!」

 グレイトボウが“弦”を出現させる。アイリスがそれを視界に収めた瞬間にはアイズはすでに天に舞い上がっていた。

「来たっ!」

 身震いと同時に歓喜するアイリス。跳躍に用いた“弦”の場所から現在位置を予測して右腕を振り抜く。鞭のようにしなりながら空を裂く無数の触手。

「させん!」

「いいタイミングだ、キッカー」

 跳躍と同時に“靴”が再びアイズの足を覆った。その力で空中を駆ける彼女。凄まじい速度で一気にアイリスの懐まで潜り込む。


 そんな彼女に横合いから迫る不可視の鞭。ウッドペッカーを倒した謎の攻撃。ところがアイズはこともなげに回避して剣を横薙ぎに振る。


「ああっ!?」

 アイリスの視界は真っ暗になった。両目を切り裂かれたのだ。

「私には見える。そして、お前にはもう見えない」

 不可視の攻撃の正体は透明な触手。光が反射せず、ほとんど透過してしまうほど透明度が高い。これがアイリスの切り札。

 しかしアイズには通じなかった。アイリスの顔から飛び散った血が透明な触手に付着し、他の面々もようやくその存在に気付く。

「今だ!」

「全員かかれ!」

 ブレイブの号令に応え、次々繰り出される攻撃。無数の馬上槍が胴体や翼に突き刺さり、電光と焦熱は肉を焼く。巨斧と超振動が骨を砕き、岩の拳が腹にめり込んだ。

 無論アイズも手を緩めない。素早く剣を翻し、目の前の人の形を留めた部分を徹底的に切り刻む。


 なのに死なない。どこをどう斬ってもアイリスの命を奪えない。


「む、無駄……です! そんな、ことでは……!」

「いや、もうわかった」

 そう、二つのことがわかった。まずアイリスが発光する魔獣を放ち空を明るくしていた理由。それは実に単純なこと。この少女は暗い場所を見通せない。その弱点を補うような発達した聴覚や嗅覚も無い。五感に関してはほとんどただの人間と同じ。遠間から見た瞳が完全に人間そのままの構造だったため、そうではないかと推察した。

 そして質量を無視した巨大化と再生の仕組み。総攻撃も斬撃もそれを探るためのものでしかない。

 アイリスの体内には例の銀色の霧が流れており、それが邪魔して構造を見透かすことは難しい。けれど霧の流れ方は把握できる。傷口からも同じ物質が噴き出してくる。むしろ損傷個所にこそ集中するようだ。つまり──

「この霧が傷を修復する。そうなんだろう? 詳しい原理はわからんがどこからか無尽蔵に供給されるこれを使って巨大化も成し遂げた。ならば流れを辿り、元を断つ」

「!?」

 アイズは躊躇無くアイリスの首を刎ねた。人質に取られているリリティアごと。しかし殺してはいない。どちらも紛い物。

 予想通り二人とも霧となって拡散した。本体はここにはいない。巨体を構築し維持している謎の霧の流れを辿り、胴体の上を走って発生源の上まで移動する。巨大化した肉体の中心部。

「ここだ」

 剣で切り裂き、肉を抉り飛ばす。すると中から人の姿のままのアイリスとリリティアが現れた。

 アイリスは何故か安堵したような表情。

「やっと……見つけてくれましたね……」

「ああ、ついに見つけたぞ。さらば」

 相手が何を考えているのか、この瞬間に到ってもわからなかった。それでもアイズには何の感傷も湧かない。ただ己の使命を果たすのみ。

 彼女の剣の切っ先はアイリスの“心臓”に吸い込まれた。そこが銀色の霧の発生源だとわかったから。

「彼女、を……」

 悲鳴すら上げず、代わりにリリティアを押し出すアイリス。少女の手を掴んだアイズは落下を始めた巨体を蹴って空中へ身を躍らせる。

 クラウドキッカーの力のおかげで、そのまま空中に留まる二人。

 逆にアイリスは落ちていく。巨体を霧に変えながら。



「……ふふっ」



 やはり彼女は笑う。嬉しそうに、おかしそうに。

 ほら、やっぱりだ。自分を倒すのは彼女。彼女だけがこの悪夢を終わらせ、舞台に幕を下ろす英雄。

 だって“自分達”が選んだ主役だもの。

 全てが塵と化して消える直前、宙に浮かぶ漆黒を見つめたアイリスは思った。禍々しい黒なのに何故あんなに美しく輝いて見えるのだろう?


 どうか、お願いします。

 最期の瞬間、彼女は静かに祈った。

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