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gimmick-天遣騎士団-  作者: 秋谷イル
一章・天士と少女

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希望の闇(1)

 さて──アイリスは羽ばたきながら周囲を見回す。今度は彼等を相手にしなければならない。

「アイリス……」

「あれが……」

「本当に子供じゃないか」

 眼下に集結した十数人の天士。アイズと戦ってる間に完全に包囲されてしまった。北に放った魔獣も全て倒されたらしく、さらに四人こちらへ近付きつつある。時間稼ぎの捨て駒とはいえかなりの数を投入したのに流石の手際。

 数だけ見れば圧倒的不利。なのに少女はくすりと笑う。

「冷たい人達ですね、彼女を見殺しにするなんて」

「あいつがあの程度で死ぬか」

 答えたのはブレイブ。病院の屋上に立っている。全身血まみれ。けれど彼自身の血ではなく全て返り血。

「貴方も流石です。あれだけの人数を魔獣化したのに倒せたんですね、能力を封じられているその状態で」

「……ああ」

 向けられた目には先程の邂逅時に無かった強い殺意。今まで病院から溢れ出そうとする魔獣達と戦っていたんだろう。それら、ついさっきまで人だった者達を皆殺しにしてようやく覚悟が決まったと見える。

「アイズにご執心のようだが、もうお前の相手はあいつだけじゃない。お望み通りオレ達全員で相手してやる」

「ええ、それでも構いません」

 涼しい顔で殺意を受け流す。別に彼等を侮ってはいない。個々の力なら脅威と言えないレベルだが、これだけ集まれば十分に自分を打倒しうる。

 だからこそ、こちらも本気で相手をしよう。

「殺せるなら、殺してみてください」

「ッ!」

 目を見張るブレイブ。少女の姿がさらに変貌していく。右腕は触手。左腕は竜頭。背中の翼も巨大化し、さらには数を増して六対十二枚に。胴体も下半身が膨れ上がって巨大な獅子のそれになった。

 完全に質量保存の法則を無視している。それに翼を増やしたところであんな巨体が空に浮くはずは無い。事実、もはや軽く羽ばたいているだけ。なのに浮遊し続けている。物理法則さえ書き換えてしまったと言うのか?

「なんなんだ……お前は何を造ったんだ、イリアム!?」

「さあ、私を倒して。成し遂げたなら、その瞬間から貴方が主役」


 右腕から生じる紅蓮の塊。次々に吐き出された火球が触手と共に天士達を襲う。狙いを外したそれらは城に着弾し、瞬く間にかつての帝国の象徴を炎で包んだ。構わず屋根から屋根へ飛び移り、一気に駆け上がってアイリスに肉薄するブレイブ。まだ人の形を留めている上半身。そこをめがけて剣を振り下ろす。


「やめろッ!」

「だったら殺してみなさい! そう言ってるじゃないですか!」

 触手の一部を硬質化させ受け止めるアイリス。そんな彼女に抱かれたまま、心の壊れたリリティアは静かに地上を見つめていた。

 アイズが落下した、その場所を──




「ぐ、う……っ!!」

「待ってください副長! もう少しです!」

 火球が落ち、炎に包まれた区画。その中心でアイズは治療を受けていた。甘い顔立ちの青年。天士メイディ。彼は“命”の能力を有しており、対象が死亡していない限り急速に傷を癒すことができる。元より回復能力の高い天士なら四肢の欠損でさえ元通りにできるだろう。

 アイズは必死に立ち上がろうとしている。視線はずっと城の上での戦いを見据えたまま。今まで傷一つ付けられなかった肉体と戦歴、その両方に初めて刻まれた屈辱。だがそんなことはどうでもいい。

 アイリスを倒して使命を果たす。そのためだけに生きている。なのに、こんなところで倒れていられるか。

「早く……しろ……!」

「もちろん全力を尽くしています! しかし私に解毒の力はありません! この状態では戦うことなど不可能でしょう!」

 たしかに、これで戦場に戻っても仲間の足を引っ張るだけ。考えたアイズは自分自身の左腕を見つめ、何を思ったか手甲を外すと左の手首をもう一方の手で掴んで締め付けた。

「副長、何を……?」

「集めている」

 何をかと続けて訊ねようとしたメイディの前で突然自分の手首に噛みつく。そして容赦無く皮膚ごと肉を食い千切ってしまう。

「副長!?」

 凄まじい勢いで溢れ出す鮮血。慌ててそちらから治そうとするメイディ。なのに彼女は止めた。

「待て」

「何を──」

「排出しているんだ、毒を」

「なっ!?」

 彼女の眼には体内に入り込んだ毒の動きが見えていた。血管内を流れる異物。おそらくこれがそうだろう。呼吸によって取り込まれた後、酸素と共に血流に運ばれ血液中の何らかの成分と結合し固まった。それらが細い血管を詰まらせたせいで酸欠状態に陥り、運動機能を低下させたのである。

 だから手首を圧迫してその部分にまだ血液と共に流れている毒を集め、一気に外へ追い出した。血を失った分、結局本調子とは言えない。それでも毒の効果で弱り続けるよりはマシなはず。

「よし、治せ」

「なんて無茶な真似を! 天士だって血を流し過ぎれば死ぬんですよ!?」

「まだ生きてる」

 それに天士は免疫力も高い。体内に残留している毒の量が減ったことで自力での解毒が急速に進んだ。萎えていた手足に力が戻って来る。まだ多少の痺れや違和こそあるものの、これなら戦えなくはない。傷が全て塞がったのを確認して立ち上がる彼女。

「急いでここから離れましょう!」

「ああ……」

 周りは火の海。メイディの肩を借りて歩く。肺が熱い。呼吸が苦しい。人間ならとうの昔に死んでいる。でも天士である二人はこんな場所にいてもなお平然と動ける。自分達は違う生物なのだと辺りに転がる無数の焼死体を見て再認識した。

「こんなに死んでしまうなんて……避難させておけば良かった……」

「そうだな……」

 自分達の慢心が招いた結果。見つけてさえしまえば終わりだと思っていた。アイリスも他の魔獣と同じで容易く倒せる相手だと高を括っていた。

 だが実際には想像を絶する怪物だった。あれなら天遣騎士団が全員揃っていても負けてしまいかねない。


 ああ、この街で良かった。


「あまり、気にするな……ここにいるのは、帝国の生き残り。あれに殺されたって、自業自得だろう……」

「副長……? 待ってください、彼等も人間です。我々が守るべき人々です!」

「わかっている。だとしても他よりは良い。そうだろう?」

 だいぶ火勢が弱まって来た。アイズは熱気に包まれながら、何故か青ざめた顔の部下に問いかける。

「キッカーは……」

「先程目を治したので、すでに戦闘に復帰しています」

「ああ、たしかにいる……な」

 よく見るとたしかに城の屋根の上にいた。今クラリオにいる仲間の中でも特に攻撃能力の高い二人に“靴”を与えて援護中。戦いは劣勢。二十人の天士の猛攻がアイリス一人にことごとく跳ね返される。あまりに凄まじい能力。しかもまだ本気を出していない。

「何故だ……?」

「何です?」

「何故、奴は周囲の魔獣達を使わない?」

 あのコウモリ型の魔獣達をアイリスはわざと自身から遠ざけている。倒させて毒を撒き散らせば、さっき自分がやられたように何人かは確実に行動不能にできるだろう。なのにそうしない。


 もしかすると……アイズは一つ可能性を見出す。そして空にいるアイリスの顔を改めて見つめ、疑念を確信に変えた。


 これなら勝てるかもしれない。ただし仲間達と連携を取る必要がある。ここはあいつの出番だろう。彼女の補佐官は互いに合意して決めた合言葉を唱えることにより双方向通信をも可能とする。

「紅一点の高嶺の花より。エアーズ、全員に通達しろ。今から私が隙を生じさせる。そのタイミングで総攻撃を仕掛けるんだ」

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