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gimmick-天遣騎士団-  作者: 秋谷イル
一章・天士と少女

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旧都開戦(2)

 歳の頃は三十前後、はすっぱな雰囲気の痩せた女が寝ぼけ眼をこすりつつ怒鳴る。

「さっきからうるさいね、いい加減にしな! 一応ここは監獄なんだよ!! こんな時間に騒いで天士サマに目を付けられたらどうして……くれ……る?」

 目の前にある巨体。それに気が付き、徐々に声をすぼめる彼女。起きたばかりのぼけた頭が遅まきながらの警鐘を鳴らす。

「あ、あ……」

 鎌首をもたげ彼女を見下ろす大蛇。先の割れた舌がチロチロ動き、次の瞬間には大口を開けて襲いかかって来た。

 が──

「フンッ!」

 すかさず巨斧を投げ放ち、盾にして守るウォールアクス。同時に走り出してもう一方の斧で大蛇の首を狙う。

 だが敵はそう来るのがわかっていたかのような動きでするりとかわした。そのまま彼に絡み付き、長い胴体で締め上げる。

「ぐうううっ!?」

「アクス!」

 熊をも絞め殺す圧力をかけられ苦悶の声を上げるアクス。しかし男達を守っているハイランサーは助けに行けない。次々に跳びかかって来る狼型を蹴散らすので精一杯だ。そうこうする間に大蛇は頭からアクスを丸飲みにしようとしている。

 ところがその時、予想外のことが起こった。突然横合いから振り抜かれた岩塊が大蛇を殴り飛ばしたのである。

「させるか!!」

「カッ……!?」

 衝撃で意識が飛び、拘束を緩めてしまう蛇。その隙にアクスは内から押して強引に空間を広げ、右手に掴んだままだった斧を両腕で振り上げる。

「ッラア!」

 斬るというより引き千切るといった感じで両断される大蛇。脱出した彼に対し今しがた援護してくれた天士が問いかける。

「大丈夫か?」

「ああ、なんともねえ。助かったぜロック」

 天遣騎士団随一の巨漢アクス。そんな彼が見下ろす相手は天遣騎士団最小の天士ロックハンマー。最大と最少が並び立ってそれぞれの武器を構えた。


 ロック。仲間内でそう呼ばれる彼の武器は剣でも槍でも斧でもない。弓も使わない。拳こそが唯一の武器。彼は副長ノウブルと同じく体術を得意とする天士。ただし完全に素手というわけでもなく、その背後には無数の石が集まって巨大な腕が形成されている。鉱物を操り、己の手足の延長として格闘戦を行う。それが彼の闘法。


 さらにもう一人、中肉中背の天士も少し遅れて駆け付ける。

「スカルプター!」

「待たせたな、守りは任せてくれていい」

 長い睡眠を必要としない天士なのに、昼夜を問わずいつも眠たげな眼差し。彼が地面に手をつくと腰を抜かした男達の周囲で土が盛り上がり即席のドームを形成した。

『うわあ!?』

『く、暗いっ!』

『出してくれえ!!』

「我慢しろ」

 嘆息しつつ駆け回るスカルプター。次々にドームを作って周辺のテントも全て閉じ込め、中の人々ごと魔獣達の脅威から守る。

「ようし、反撃開始だ!」

 これでもう足枷は無い。残った敵を睨みつけるアクス。

 ところが、その背に何者かが触れる。

「待ってよ! アタイはどうしたらいいの!?」

「ん?」

 よく見るとさっきの女が一人だけ外に取り残されていた。全員の視線がスカルプターに集まる。咎められたと思い、不服そうに眉をしかめる彼。

「アクスの近くにいたからだ。うっかりじゃない」

「だそうです、お嬢さん。テントに戻って下さい。彼が安全を確保します」

「で、でもあんな土塊を固めただけの壁なんかすぐに破られるんじゃあ?」

「失敬な」

 ますます苛立つスカルプター。アクスは嘆息して女を見つめる。

「なら、そこでじっとしてて下さい。下手に動かれると危ない。そこにいてくれりゃ俺が必ず守りますんで」

「そうする……」

 頷く女。それを確かめ改めて吠えるアクス。

「おい、作戦は伝わってるな野郎ども!」

「ああ、エアーズから聞いた」

「向こうは副長に任せよう」

「我々は、ここでこの魔獣達を倒す」

「よおし!」

 跳びかかって来た狼を潰し、さっきとは別の大蛇を迎え撃つアクス。周囲でも仲間達がそれぞれ敵と戦い始める。

 すると──

「がんばって!」

「ッ!」

 背後からの声援。力が湧き出る。いつもより素早く振り抜いた斧は大蛇を上下真っ二つにした。続けざまに振り下ろした一撃も死角から飛びかかった狼型を両断する。感覚まで普段より研ぎ澄まされていく。

「やった!」

 喜ぶ女の声。その声がまた不思議な高揚をもたらす。

(なんだこれは? いや、そうか、これがそうなのか)

 一瞬の間に自問自答。疑問に対する答えはすぐに出た。一年以上も人間達と行動を共にしてきたのだから、そういう知識も自然と得ている。

 どういうわけか倒しても倒しても絶え間なく押し寄せる魔獣の群れ。巨大な双斧で薙ぎ払いながら背後の女に問う。

「こんな時になんですが、名前をお聞かせ願いたい!」

「フィノアです!」

 早い。問いかけを待っていたかのような即答。アクスからは見えないが、彼を見上げる彼女の瞳もまた潤んでいる。

 アクスはやはり迅速に名乗った。今を逃してはならない気がして。

「自分はウォールアクス! フィノアさん、出会ってくれてありがとう!」

「こちらこそ!」

「なんなんだお前ら、さっきから何の話をしている!?」

 困惑するハイランサー。全くわけがわからないが、とにかく同僚がどこか遠くへ行ってしまったような、そんな奇妙な焦燥を覚えた。

 そしてその直後、南の空が輝いた。




「ふふふ……」

 少女は微笑む。誰よりも高い場所からクラリオを眺め、八ヶ月続いた長い旅の終わりが近いことを悟る。

「ようやく辿り着けましたね、アイズさん」

 長かった。彼女は今日この日を待望していた。何人もの人間を魔獣に襲わせ、あの人に、天遣騎士団の副長アイズにだけ見つけられるメッセージを残した。それに気付いてくれる時を一日千秋の思いで待った。

「ずいぶん長くかかった。もちろん仕方のないことだとはわかっています。だって貴女は、まだ──」

 いや、どうでもいい。ついつい愚痴っぽいことを言いそうになったが、それでも彼女はやってくれた。謎を解き明かし“真相”に辿り着いてみせた。

 後は、この瞬間を楽しむだけ。自分の中の怒りを思う存分ぶちまけ、火を付けて燃やし尽くすのみ。

「皆さんには申し訳ないと思います。でも、これが私の夢だった。最後くらいわがままを言わせて。さあ、共に舞台で踊りましょう!」

 アイズは優秀だと思う。それでも自分の方が上。彼女や他の天士達に完全に読み勝った。だから知恵比べは満足。ここからは互いに噛みつき喰らい合う肉弾戦。

 少女は天高く、アイズがさっきまでいた尖塔より遥かに高くで月を背負って羽ばたいた。背中から生えた翼は純白。それだけを見れば女神のように神々しい。

 けれど変貌していく。手足が歪に膨れ上がり、強靭な獣の四肢へと変わり果てる。両の瞳は銀色の燐光を放った。

 大きく鼓動する心臓。皮膚を透けて浮かび上がる光も銀。

 そして、その心音に呼応したかのように──


 オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ……ッ!!


 無数の遠吠えが重なりながら響く。発生源は彼女の足下。

 かつての皇城からは人々の悲鳴も上がり始めた。




 ──遠吠えが聴こえたのと同時、アイズは目標を切り捨てた。しかしまだ何も終わっていない。ここにアイリスなどいなかった。

「クソッ!」

 また騙された。彼女が見つけた小型魔獣の発生源、それは人の形をした肉塊だったのである。斬った途端に全体を包んで見えていた銀色の霧が拡散して消えた。それでようやく正体が明らかになった。

「肉の塊が虫に……」

「そういうことか!!」

 自分達はこう推測した。アイリスに因子を注入された虫達はまず目標地点まで移動する。それから同化を行い、より大型の魔獣に変わる。

 実際その通りではあった。虫達の行く先では急行した天士四名が戦っている。ここからでも彼女の眼にはアクス達の奮闘ぶりが映る。

 だが発生源は自動化された“装置”だったのだ。いわば簡易アイリス。自身の肉の一部を切り離して虫型に変え、移動先で再合流し別の魔獣に変わる。そういう仕組み。読みが浅かった。複数の魔獣を一体化させて一つの個体にできるなら、その逆も然り。そこまで考えることができなかった。

 そしてこの肉塊は自分に対する囮でもある。気付いた時にはもう遅かった。城の方へと振り返った彼女の眼に無数の影が映る。空を舞う異形達。微かに聴こえる悲鳴。まんまと誘い出された隙に本命への襲撃が始まった。

「戻るぞキッカー! 敵の狙いは城だった! 城が襲撃を受けている!」

「なんて大胆な奴だ」

 総数の半分以下とはいえ、それでも二十人以上の天士が常駐する街でその本丸に攻撃を仕掛けるとは。にわかには信じ難い暴挙。

 だとしても事実そうなっている。クラウドキッカーも迷わず踵を返した。

 そんな二人の耳に獣達の遠吠えと空を舞う怪物共の羽ばたき、そして旧帝国民の悲鳴に混じって届く哄笑。


 あはは、あははは、はははははははははははははははっ!


 それは無邪気で軽やかで、なのにどこか物悲しい──まだ幼さの残る“子供”の笑い声だった。

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