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gimmick-天遣騎士団-  作者: 秋谷イル
五章・選択の先へ

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110/127

純白の天士(1)

「ブレイブ!」

 いきなり最大戦力狙い。一瞬で彼の喉元まで刃が迫り、ひやりと冷たい気配を感じたと同時にアイズの剣がそれを弾く。

「――シッ!」

 命拾いしたブレイブはすぐさま剣を横薙ぎに振った。僅かに遅れた反撃。ただし斬るつもりは無い。というより斬れない。

 轟と音を立てて彼の剣からも風が発生する。アイズとノウブルが揃っているこの状況。当然、能力にかけられた封印は三分の二を解放済み。

「!」

 相手は予想通り後ろに跳び、攻撃を避けた。しかし追いかけてきた風に押され想定より遠くまで後退してしまう。同時に後方で動き出そうとしていた異教徒たちと魔獣の群れも突風は怯ませた。

 すかさず追撃を命じるブレイブ。

「魔獣と異教徒を殲滅! ホワイトアウトは二人に任せろ!」

「了解!」

 再び攻勢に出る天遣騎士団。ホワイトアウトは無視して他の戦力と交戦を行う。

 敵味方の入り乱れる激しい戦い。天士たちはアイズとアリスに余計な敵を近付けまいと一致団結して立ち回り、異教徒もホワイトアウトの援護のため足止めに徹する。

「邪魔をさせるな! あの二人がやられたら終わりだ!」

「はい!」

「失せろ天士共!」

「破界によって新たな世界を創造する!」

「それこそが我等の悲願!」

「させるかよ!」

 双方決死の攻防戦。三柱教側の魔獣群はアリスに生み出された白い魔獣の群れが抑え込んでいる。

 そんな乱戦の只中にあって中心だけは静けさを保っていた。空白で対峙するは一人の天士と人造神、そして最強の魔獣。

「……」

「わかっているようだな」

 感心するアイズ。ホワイトアウトは動こうとしない。他の天士を狙ったとて必ず彼女に阻まれる。さっきの一合でそう理解したのだ。

 正しい。天遣騎士団を殲滅するには、まず自分たち二人を倒さねばならない。

「援護は任せて」

 アイズの後方に控えるアリス。すでに髪を長く伸ばして戦闘態勢に移行済み。

 ホワイトアウトの相手は彼女たちに任された。何故なら三柱教のかけた制約が効かない数少ない例外だから。

 天遣騎士団の裏切りを恐れた三柱教は、やはりアルトルとの間で契約を交わしたのである。その効力が発揮されている限り天士は三柱教関係者を攻撃できない。

 だが天士でないアリスは最初から無関係。そして自身を天士ならぬ人造神だと思い出したアイズも軛を解かれた。

 よってホワイトアウトを倒せるとしたらこの二人だけ。他は攻撃の機会すら与えられない。この組み合わせは必然。

 おそらく、ユニの思惑通り。アルトル本人なら裏切ることも可能。そう解釈できる契約の穴は意図的に見過ごされた気がする。ホワイトアウトと直接対決せねばならないこの状況は、あの男が仕組んだものだと。

 何を企む? 真意を探るべく未来を見るアイズ。けれど幾多に分岐した道筋のいずれもごく近い未来で霧に包まれてしまい遠くまで見通すことはできない。

 運命を左右する特異点、そして魔素が関わっているからだ。特異点の魂が持つ巨大な重力は運命を歪める。そして万能物質である魔素も未来視に対しノイズを発生させ精度を低下させる。アイリスたちに対し彼女の透視や未来視が通用しにくいのも同じ理由。

 やはり、何度やってもこの先の未来を知ることはできない。だとしてもまず言葉による説得を試みるアイズ。

 彼女は、できればこの天士と戦いたくない。

「ホワイトアウト、剣を収めてくれ。お前には私たちと戦う理由など無いはずだ」

「……」

 相手は答えない。代わりに一歩踏み出してきた。さらに一歩もう一歩と前進し徐々に加速。夜闇に白銀の残像が生じる。

 甲高い金属音。連続して響き渡り、近付いては離れ、離れては近付いて刃と刃をぶつけ合う。

 直後、ホワイトアウトの表情に微かな戸惑いが浮かんだ。どうして殺せないのかと不思議に思っている。

 たしかに強い。見た目からはわかりにくいが彼の甲冑も動力甲冑である。天士の力にパワーアシストと魔素の高圧噴射による加速を上乗せして攻撃を繰り出す。ブレイブですら反応が遅れたのはそのせい。

(だが、私には通じん!)

 アクセルライブの能力を借りた身体強化。クラウドキッカーの力による空中機動。そしてアルトルの眼。アイズの白兵戦能力はホワイトアウトのそれさえ上回っている。

 その証拠に彼の剣は一度もアイズに触れられていない。逆に彼女の剣は何度か彼を切り裂いた。

 ただしダメージは入らない。斬っても全く手応え無し。

「本当にデタラメな力ね! 深度の差まで無意味にしてる!」

 アリスも髪から高熱を放ち、その髪を操ることで四方八方からホワイトアウトを攻撃する。本来ならそれにはアイズを優位に立たせるための誘導の役割もあった。ところがホワイトアウトは彼女の攻撃など意に介さずに自由に動き回る。

 甲冑の隙間を縫って剣を突き刺しても、露出している顔部分を斬っても、高熱の髪が体内から臓腑を焼き尽くしても彼は止まらない。全ての攻撃が無効化されてしまう。

 これが凍結させる『雪』の加護と限定的に付与された『未来視』を統合した彼の力。攻撃を受けるという『可能性』を凍らせ破砕することにより『結果』まで否定する概念干渉型防御能力。

 ゆえに彼はダメージを受けない。そうなる可能性を全て凍結し砕いて無に還せるから。

 未来視を行うアイズには彼の一挙手一投足によって次々に未来の可能性が破壊されているように見える。これを攻撃にも用いられた場合、やはり防ぐ手段は無い。

「やはり通らんか!」

「どうやったら倒せるの!?」

 こちらも手傷は受けていないが、これではいつまで経っても決着のつかない千日手。どころか実際そうなった場合タイムリミットのあるこちらが大幅に不利。

「くっ――」

 アイズは早くも息が乱れ始めている。アルトルの力の負荷と身体能力を強引に強化している代償。全力で動けるのはせいぜい一分。残り数十秒の間にこの恐るべき天士を倒さねばならない。

「これならどうだ!」

 攻撃は無効にされる。しかし攻撃と判定されなければ通用するかもしれない。そう考えたアイズはマジシャンの力で『箱』を出現させた。それは口を開けてホワイトアウトを飲み込もうとする。

 しかし彼に届く前に地面から伸びてきた氷柱に飲み込まれ、逆に動きを止めた。それでもとさらに複数の箱を出現させて仕掛けてみるも全て氷柱や氷壁に阻まれてしまう。自在に氷を生み出せるあの力は、やはり可能性の凍結を抜きにしても手強い。

「捕まえればいいのね!」

 アリスの髪が氷柱や氷壁の間をかいくぐり、巻き付いて一瞬の内に拘束する。

 ところが次の瞬間には囚われたという『結果』を破砕し自由を取り戻すホワイトアウト。巻き付いていた髪が凍り付き砕け散って雪と化す。

 しかも髪を凍らせた冷気は、そのまま本体に向かって急速に迫って来た。

「なっ!?」

 慌てて切り離すアリス。髪型が本来の短さに近付いた瞬間、急に標的を変えたホワイトアウト自身が彼女の懐へ飛び込んだ。

 アイズが割り込み、剣を使って受け止める。しかし一瞬遅くアリスの肩にも刃が食い込む。

「アリス!?」

「大丈夫!」

 アイズが止めてくれている間に再び髪を伸ばし、それを使って移動して距離を取った。離れた建物の上に着地し、ふうと息を吐くアリス。手傷は受けたもののダメージは小さい。

(深度の差のおかげで致命傷にはならなかった……でも……)

 腕を動かすという『可能性』を砕かれたかもしれない。斬られた右肩の先を全く動かせなくなった。やむなく自分の髪で肩口から切断し新たな腕を形成する。服も魔素で構築した物なので同時に再生。

 今度は動く。これでも動かせなかったらどうしようかと思った。

(とはいえ、斬られる箇所によっては行動不能になる。気を付けないと)

 話には聞いていたがここまで厄介とは。彼がクラリオにいれば――いや、仮に単騎で戦ったとしても、この身を滅ぼし得るかもしれない。アイズとノウブル以外にこれほどの力を持つ天士が存在するとは。

 自分はともかくアイズにとっては一撃受けるだけで致命傷になるだろう危険な攻撃。さらに全てのダメージを無効化する絶対防御。

 やはり倒す手段は一つ。この方法もリスクは高いが、他に手が無い以上実行せざるをえない。

【アイズ!】

【ああ!】

 彼女も同じ結論に達した。相手に聞かれないようエアーズの加護で意思疎通を行った彼女たちはタイミングを見計らって同時に仕掛ける。

【行くよ!】

【やってくれ!】

「!」

 目を見開くホワイトアウト。アリスの髪が長く伸び、一部は回り込んで彼の背後や頭上からその先端を向ける。

 ――かつてアリスはクラリオで言った。天士たちに対し、彼らに出来ることであれば自分にも大抵出来るのだと。

 事実である。彼女の体内を流れる魔素は一度見た現象であれば高い精度で再現可能な万能物質。ゆえにこんなこともできる。

「借りるよ、スタンロープ!」

 瞬間、数万本の髪全てから強烈な雷が迸った。

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