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gimmick-天遣騎士団-  作者: 秋谷イル
序章・ガナン大陸戦争

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消えない戦火(1)

 そして二人は見つけ出した。いや、正確には見せつけられた。皇帝ジニヤは城の中庭にいたのだ。

 無数の、物言わぬ肉片と化して。


「なん、だ……?」


 怒りに燃えていたブレイブですら戸惑う。全く予想していなかった展開。二人がここへ辿り着いた瞬間、待っていたかのように空から死体が落ちて来た。切り刻まれバラバラになった亡骸が。

 その中で一つだけ、これが何者であるかを示すように無傷のまま放り捨てられた生首が地面にぶつかり、半分潰れて虚ろに宙を見上げた。

 カラカラと音を立てて転がったのは直前まで被っていた王冠。

 皇帝ジニヤ。おそらくはそれであろう死者の視線を辿って見上げた二人は三階のテラスに三十代半ばの若い男の姿を見出す。


「天士か……少し遅かったね。先を越させてもらった。これで僕の復讐も終わりだ」

「復讐……? お前が何故?」


 問い返したのはアイズ。間近で見るのは初めてだが、帝都に来た後、神眼を使って城を監視していたから顔はすでに知っている。丸眼鏡をかけた優し気な風貌。茶色の髪に灰色の瞳。中肉中背で左耳に生まれつきの赤いアザ。間違いない、あの男こそ“魔獣”を現代に蘇らせた天才錬金術師イリアム・ハーベスト。

 ブレイブも呟く。


「イリアム……」

「ああ、僕がそのイリアムだ」


 男はあっさり肯定した。そして炎に照らされた肉片を見下ろし悲しそうに俯く。

「そう、僕が造った。そこに転がってる皇帝陛下の命令で魔獣(トーイ)達を生み出した。人類史上最大の虐殺を手助けした。それが僕だ」

「何故だ? どうしてそんなことを?」

「両親を人質に取られてね。拒否したら父は僕と母の目の前で拷問されて死んだ。母だけでも守りたかったけど、その母に頼まれたんだ。父が死んで以来、僕を見る目が変わった。全て僕のせいだってなじって責任を取るよう求めて来た。だからそうした。ほら、帝国は滅んだ」


 両手を持ち上げ、空虚に笑いながら周囲を見渡す。その背後からは炎と黒煙が噴き出し始めていた。城の中もすでに燃えている。


「じゃあ、やっぱり……お前なのか? お前が市民を……」

「えっ? すごいな、よくわかったね。ああ、たしか万里を見通す天士がいるとか聞いた気がするな。その力で透視したのかな? そうだよ、帝都にいた人間は皇帝陛下と僕以外、全て魔獣に変えてやった。生きていたって苦しむだけだからね。僕らはあまりに多くの罪を犯し過ぎた」

「……!」


 ──また歯の軋む音。ブレイブが握った剣の柄も悲鳴を上げる。


「お前だ……お前とジニヤの罪だ! 巻き込まれただけの人間まで一緒にするな!」

「違うね、帝国臣民全員の罪だ。誰かそこの皇帝を止めてくれたかい? 僕にやめるよう言ってくれたかい?

 一人もいなかった。そんな人間は一人もいなかったんだよ! 誰も彼もがジニヤの言うなりだった! 逆らおうとさえしなかった! 僕は絶対に許さない! 彼等は父を拷問し、僕の研究を利用し、この大陸の覇権を握ろうと企んだ! よく知りもせずに当事者の話を否定するな! そういう国なんだよここは! 滅んで当然だろう!?」


 帰って来るんじゃなかった! イリアムはそう叫んだ。

 そして、ふと何か思い出す。


「ああ、いや、そうじゃなかったな……一人だけいたよ。彼女だけはジニヤにさえ意見を述べた。止めようとしていたんだ。彼女だけが僕の救い……今回だってこの大変な仕事を手伝ってくれたんだよ。二人で復讐を完遂した。

 なのに、どこへ行ったのかな? さっきから見当たらないんだ。ずっと一緒にいたじゃないか。ねえアリス、どこへ──」


 イリアムは炎で満たされた城内へ振り返る。

 すると、そんな彼の背中から刃が飛び出た。


「なっ!?」

「!」

 アイズでさえ、そこに何者がいるのか見えない。距離や角度の問題ではなく、障害物が邪魔になっているわけでもない。

(なんだあれは?)

 銀色の霧のような何かが、その中にいる者の姿を隠している。イリアムを貫いた刃まで含めた全体像がぼやけてしまい明確に視認できない。


「アリ、ス……」


 イリアムはそのまま突き落とされ、自分が殺した皇帝の肉片の上に落下して来た。突然のことで固まっていたブレイブがすぐに駆け寄る。


「イリアム!?」

「う、く……っ、痛い……刺される、って……こうなる、のか……」


 刺創は胸部。心臓からは外れているものの太い血管を傷付け片肺にも穴を空けた。この男はもう助からない。

 冷静に判断したアイズはイリアム・ハーベストから視線を外し、頭上の何者かに注意を注ぐ。もはや脅威はその謎の存在と城の外の魔獣達だけ。

 しかし、謎の存在は炎に包まれ動かなくなった。死んだのか、それとも別の理由で動かないのか、ここからではやはり判別できない。

 確認しなければ。そう思った彼女は動き出した直後、何故か足を止める。

「誰だ?」

 誰かに“待って”と呼びかけられた気がしたが、ブレイブの声では無かった。イリアムのものでもない。

 女の声だった。

「誰かいるのか!」

 呼びかけに返事は無い。訝りながら振り返るとブレイブは何故かイリアム・ハーベストの傍らで泣いていた。静かに、悼むように。

 そんな彼を見上げ、イリアムは穏やかな笑みを浮かべる。

「シス……迎えに、来てくれたんだ……」

 目の焦点が合ってない。視力が失われつつある。そのせいで目の前の相手を別の誰かと誤認している。

「けふっ」

 咳き込む力も弱々しく、少しだけ血を吐くイリアム。肺に血液が流れ込んでいる。

 そして申し訳なさそうに謝った。

「ごめん……僕のせいだ……全て……」

「いいんだ……」

 ブレイブは手を握り、やはり優しく語りかけた。

「オレは許す……もう、気にせず眠れ……」

「あり、が、とう……」

 それから彼はアイズの方に視線を向ける。ほとんど見えていないと思っていたが、そうではなかったらしい。あるいは気配で察したのか。


「ノーラ……」


 誰だ、などとは問い返さなかった。流石に。


「君も、ありがとう……もしもアリスに、会えたら……」


 声は小さくなっていく。

 体から力が抜けて。


「ごめん……と……」


 それが最後。この大陸を地獄に変えた錬金術師イリアム・ハーベストは、二人の天士に見守られながら息絶えた。

 城が崩壊していく。すぐ近くに崩れ落ちた尖塔の破片が落下する。

 見上げると、あの謎の存在は同じ場所に留まったまま。正体を確認しておきたいが時間は残されていない。

「ブレイブ、もう脱出しなければ危ない」

 飛行能力を持つ仲間を連れて来るべきだった。そう悔やみつつ彼の肩を叩く。

 ブレイブはすぐに立ち上がり、剣を振り下ろした。イリアムの首が斬り落とされ、横を向く。

「証拠が必要だ……」

「なら私がジニヤの首を」

「いや、お前がイリアムの首を持て。脱出するぞ」

 言うなり、さっさとジニヤの頭を拾い上げるブレイブ。アイズも言われた通りイリヤの髪を掴んで持ち上げたが、途端に注意される。

「もっと丁寧に扱ってやれ」

「わかった」

 たしかに大事な証拠。しっかり保全しないといけない。アイズは剣を鞘に納めて両手でしっかりそれを抱える。

 なのにブレイブはジニヤの髪を掴んだまま片手でぶら下げている。

「おい」

「コイツはいい。この男には、これでちょうどいい」

「……」

 背中から怒気が立ち上っている。下手に刺激しない方が良さそうだ。

 アイズは周囲を見渡し、やがて脱出口を見出す。

「こっちだ、ついて来い」

「ああ」

 先に立って走り出す彼女。背中を追いかけるブレイブ。炎と炎の間のわずかな切れ間を縫って走り抜けていく二人。人間だったらとっくに焼け死んでいるだろうが天士には少し熱い程度の火力。

 やがて遠く離れた場所で巨大な影が炎の中に崩れ落ちる。

 直後、竜のものとは別の雄々しい咆哮が上がった。

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