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gimmick-天遣騎士団-  作者: 秋谷イル
五章・選択の先へ

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破界遊戯(1)

【ブレイブ君、せっかく作戦を立てたところ申し訳ないんだが、こっちのルールを押し付けさせてもらうよ】

「なに?」


 本体が近くにいるのか、それとも距離など関係ないのか、幻像は本当に目の前にいるかのように眼下の天士たちへ語りかける。


【本当ならもっと君たちを苦しめたり追い込んだり知恵比べや我慢比べを楽しみたかったんだがね、残念ながら時が来てしまった】


 視線はアイズを捉えたまま。どうやらアルトルの力の負荷に耐え切れず器が崩壊しかけている事実を知られたらしい。アクターが知っていた以上、そうだろうとは思っていたが。


【このまま時間切れで退場を待つなんて、そんなもったいないことは僕も避けたい。彼女は稀に見る名優だ。最後まで舞台の上に立ち続けて欲しい。ファンとして、そう願うのは当然だろう?】


 ――何がファンだと、そう言い返しかけてブレイブは堪える。おそらく、この提案に乗った方が彼らにとっても都合が良い。

 ユニはゲームを望んでいる。なんでもありの戦争ではなくルールのある遊戯を。ならば余計な口を挟まず、そのルールを正確に把握しておくべき。どうせ先手を取られた時点でさっき立てた作戦は瓦解している。

 そんな彼らの沈黙を満足げに受け取り、ユニは説明を始めた。


【君たちはあれだろう? できれば市民も巻き込みたくないと考えているはずだ。だからそれを最初のゲームにしよう。今、全市民を聖都の外れに集めている。まずは彼らを守って助け出してみたまえ。生存者全員が脱出した時点で第一関門突破と見なし、聖都全体を君たちもろとも封鎖する】

「!?」

 こちらがやろとしていたことを向こうが自らの手で為すと言う。流石に予想外で目を見開くブレイブ。

 それに第一関門と言った。

「続きがある……ということね」

 彼より先に訊ねたのはアリス。するとようやくその存在に気付いたかの如くユニは恭しいお辞儀で返した。

【おお、これは皇帝陛下。あなたが皇女殿下であらせられた時以来ですな。お顔を拝見できて嬉しく思います】

「いいからさっさと説明しなさい! 私たちに何をさせたいと言うの!」

 激昂するアリス。推察通りなら彼女の父と想い人が狂ったのも、祖国が滅び、自らが怪物に変えられたのも目の前の男が元凶。冷静でなどいられない。


 しかしユニは慇懃無礼な態度を崩さず、そんな少女を嘲笑する。


【落ち着きなさい陛下。今説明しますとも】

「この……っ」

「アリス」

 堪えろと肩を掴んで止めるアイズ。そのおかげでようやく少しだけ落ち着きを取り戻す少女。

 二人の姿を見たユニは【はっはっはっ】と快活に笑う。

【仲良きことは美しきかな。境遇の似た者同士で傷を舐め合い、互いを心の支えにしてきたのですね。それを望んでいました。そうでなくては全く面白くない。是非とも二人で私の元まで来て下さい】

 言ってから、彼は聖都の中心にあるオクノク大聖堂を指先で示す。この宗教国家における王の城。

【当然、私は大聖堂の中心、礼拝の間にいます。そこまで来られたら直接お会いできましょう】

「それが第二のゲームか?」

【いいや、僕との直接対決は最後さブレイブ君。今回は三柱教らしく三つのゲームを用意した。市民の脱出に続く第二のゲーム、それは聖都を守る守護者を突破して大聖堂まで辿り着くこと】


 ただそれだけ。だが言うほど易しいことではないと、誰もが同じ予感を抱く。ユニの底意地悪い笑みによって自然とそう思わされる。

 この男が簡単な遊びなど仕掛けてくるものか。徹底的に相手を苦しめて愉しむつもりに違いない。そのための手駒なら必ず相応の強敵を用意してある。


【早く来てくれアイズ。僕はね、この日をずっと待っていたんだ】

 言うだけ言って現れた時と同じようにふっと消えるユニの幻像。直後に聖都の方から微かに悲鳴が聞こえてきた。距離は遠くとも天士達の優れた聴覚は聞き逃さない。

「始まった!」

「もう始まってます副長!」

「ああ」

 もう副長ではないのだが、いちいち訂正する間も惜しい。アイズは抜き放ったままの剣を再び持ち上げ、聖都の方向を示す。


 呼吸が苦しい。全身の骨と筋肉が軋む。それでも視界は今なお明瞭で敵と味方の姿をはっきり捉えている。

 まだ戦える。まずは最初のゲーム――民の安全の確保。これに勝利して前へ進む。敵の思惑にまんまと乗せられているとしても、迷っていられる暇は無い。


「民を守れ!」

「天遣騎士団、出撃!」

「はい!」

 自分たちを率いる兄妹の号令に従い走り出す天士たち。白い甲冑が夜の森の中で無数の軌跡を描く。

 目指すは聖都。彼ら天士が生まれた、始まりにして終わりの地。



 アリスもアイズの背中を追って走り出し、そして後悔した。

 仇敵の登場で思わず表に出てしまったが、リリティアとアイズにもっときちんとお別れをさせてやるべきだった。今この瞬間が今生の別れになるかもしれないのに。

 向こうはこちらを知らないが彼女はずっとリリティアを見てきた。長く共にあった少女に対し少なからず愛着を抱き、感謝もしている。


 けれど、もう遅い。少なくとも決着を付けるまでは交代する暇など無いだろう。


(ごめんね……)

 せめてアイズの願いは成就させる。させてみせる。彼女に悔いの無い死を迎えてもらう。そうしたらリリティアの悲しみも少しは和らぐ。

 怪物となった自分には、そのくらいしかしてやれない。

 他には何もすべきではないのだ。

 たとえ、別れずに済む方法を思いついていても。



 聖都オルトランド外縁部、特に周囲を囲む壁の出口がある東西南の門の前には多くの市民が集結していた。そして門を封鎖し、誰一人として外へ出すまいと立ちはだかっている僧兵団を問い詰める。


「いったいどうなってるんだ!」

「さっき南の空に現れた教皇聖下のお姿はなんだったの!?」

「知らん! 我々は、ただ門の封鎖を命じられているだけだ!」

「聖下の勅命である! 今は何者もここを通すことはできん!」


 そう言って僧兵たちは絶対に道を譲ろうとしない。大門を固く閉ざしたまま押しかける民衆を宥め、あるいは高圧的に追い返そうとする。


「下がって! 下がって!」

「ふざけるな、お前らだってさっきのを聞いてただろう!」

「ゲームって言ってたわ! 何かする気なのよ、この街で! 私たち皆を巻き込んで!」

「そうだ、自分で邪悪ななんとかだと名乗っていた!」

「天遣騎士団が近くに来ているらしい! 助けを求めよう!」

「駄目だと言っている! そもそも、あんなものが教皇聖下なはずがあるまい! あれは聖下の御姿に似せた幻か何かだ!」


 信仰心の強さゆえか、あるいは自分たちの拠り所である権威を守りたいからか、南の空に現れた巨大なリリウムの幻像そのものを偽りとして否定する彼ら。

 しかし事態はすぐに、そうも言ってられない状況まで悪化する。


「ぎゃあああああああああああああああああああっ!?」

「っ!!」

 絶叫が上がり、声のした方向を見た人々は驚愕する。

 同時に、やはりとも思った。

 本当に惨劇が始まったのだ。一人の男が四つ足の獣に組み敷かれ、頭に噛みつかれている。

 その獣は次の瞬間、あっさり男の頭を噛み砕いた。しかも咀嚼しながら視線を巡らせ、次の獲物を探し始める。

「あ、ああ……ああ……」

 恐怖のあまり失禁してへたり込んだ女を獣は選んだ。素早く飛びかかり、また絶叫が響き渡る。

 他の者たちは逃げ出した。門が閉ざされている以上、逃げ場は壁の中にしかない。

 けれど逃げても逃げても、行く先々に次々にそいつらが現れる。

 魔獣(トーイ)が。天遣騎士団によって駆逐されたはずの怪物たちが。

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