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gimmick-天遣騎士団-  作者: 秋谷イル
四章・愚者の悲喜劇

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守護者の血統(1)

「なん、だと……?」

 地面に降り立った直後、想定外の事態に目を見開くアイズ。アリスに敗北し倒れていたルインティの複製が突然巨大な肉塊と化し、周囲にあるもの全てを飲み込み始めた。赤い髪でなく赤黒い触手が木々に絡み付き、引き寄せて自らの内に取り込む。

 そしてまた肥大化する。虫や鳥や獣、逃げ遅れた生物も次々に彼女の一部と化した。

 触手はアイズにも迫って来る。しかし、もう切り払うことも回避することもできない。手足に力が入らず、ただ膝をついて荒い呼吸を繰り返すだけの彼女をついに触手が掴んだ。

 ――が、横から伸び来た桜色の髪が触手共を切り払い、アイズを掴んで引き寄せ、危ういところで救出する。

「す、すまん……助かった……」

 またアリスによって救われた。彼女はノウブル達も自分の手元に引き寄せて髪と魔素を組み合わせたドームを作り、保護している。

 そして深刻な表情で告げた。

「長くは保たないわよ。多分すぐに破られる。その前に複製の魔素結晶を破壊しないと全て終わり」

 ドームを外から叩く触手の群れ。今のところ防ぎ切れているが、相手がこのまま膨張を続けていくなら、やがて暴力的な質量の前に押し潰される。

「何が起きた?」

 ノウブルに問われ「無理心中」と答える彼女。

「さっきルインティの複製に接触した時、結晶は破壊し損ねたけど彼女の思考なら少しだけ覗くことができた。負けた時にはこうするつもりだったみたいね。他の魔素結晶を取り込み、自身を何もかも飲み込む単純だけれど強力な魔獣に作り変えて世界の全てを自殺に巻き込む」

 いや、自殺とは少し違うかもしれない。なにせ彼女自身は死ぬことがないのだから。ここでアイズや自分が命を落とせば、おそらく彼女は未来永劫誰にも殺せなくなる。寿命だってあるかわからない。

「あるいは、自分を新たな世界にしたいのかも。このまま全て喰らい尽くせば、彼女が神にとって代われる」

「ふ、ふざけんな! そんなことまでできるのかアンタら!?」

 顔を引きつらせるインパクト。蒼白になっているのは腕を斬り落とされ大量に血を失ったことだけが原因ではあるまい。

「できても、普通はやらない。私なら絶対に御免だわ」

 アリスは安心させるためそう答えた。だが、実際には少しだけルインティの気持ちもわかる。

 自分だって、アイズと一つになって生きられるなら、それしかもう選択肢が無いと思った時は実行してしまうかもしれない。

 だが、アイズは受け入れないだろう。その証拠に彼女は今なお戦意を失っていない。

「止め、るぞ……!」

 死にかけの体で無理矢理立ち上がる彼女。アリスはアリスでその決断を支持できない。

「無理よ、もう貴女には戦わせない。休んでなさいアイズ」

「だが、魔素結晶は……!」

「複製のなら私でも壊せる。それに、もう一人可能性のある人がいるはず」

「!」

 アイズは弾かれるように顔を上げた。その視線の先にはノウブルの姿。

 たしかに、彼なら可能かもしれない。

 アリスは自ら話しかける。

「副長さん、気付いているんでしょう? アイズはもう限界よ」

「ああ……マジシャンが死んだからだな」

「ええ、そしてもうすぐアクターも死ぬでしょう。いえ、もう死んでいるかもしれない」

「ま、待ってください。どういうことです? 彼等の死がアイズ様に悪影響を及ぼすのですか?」

 割って入るフルイド。彼やマグネットはまだ、アイズが以前より衰えている事実に気が付いていなかった。アクセルライブの加護で補っていたから仕方のない話である。当人も極力隠そうとしていた。

 アクターがすぐに気付けたのは、かつて彼がアイズとよく対戦していたからであり、ノウブルには人並み外れた直感がある。

 意外なことにインパクトも気付いていて、理由まで言い当てた。

「多分、アイズ様が元は人間だからだ」

「あっ……」

 ようやくフルイドとマグネットも察する。おそらくそういうことだと。その考察をアイズ自身が肯定した。

「ああ、その通りだ……ノーラの体が、神の力に耐え切れない……」

 ――アルトルが何故自らの手で復讐を果たそうとしなかったのか、クラリオから離れて数日後に理解した。頻繁に凄まじい苦痛が襲いかかるようになったことによって。

 ノーラという器にアルトルの力は大きすぎた。本来なら収めようのないそれを錬金術師ラウラガは強引に収めさせ、それゆえに復活したアルトルの肉体はすぐに崩壊を始めた。

 解決法を提案したのは彼女自身。力を分割付与してなるべく多くの人間達に与え、それによって新たな器を守る。

 一柱の神が作り出せる天士の数は最大で四十九人。だから彼女は四十九人の人間を用意させ、その全てを天士化した。すると肉体の崩壊も止まった。

 そしてクラリオで十九人が死亡し、アルトルから与えられた力を彼女に返還した。その時からカウントダウンは再開されたのである。

 半年保ったのは、むしろ幸運。

「私は、もうすぐ死ぬ……だから頼む、ノウブル……その後は、お前に」

「任せろと言ったぞ」

 全て言い終わる前に遮るノウブル。昨夜すでに同じことを言った。

 アクターとの戦いではあまり役に立てなかったが、相手がただただ肥大化を続けるだけの肉塊なら彼にも戦いようはある。

「お前は休んでいろ」

「……ああ」

 アイズは頷いて、けれども先に一つだけしておくべきことをした。ノウブルの胸に飛び込んだのだ。

 予想外の行動に流石の巨漢も仲間達も動揺する。

「な、なんだ?」

「心音を聴いている。知っているはずだ、彼の力の付与条件を」

「あっ!」

「そうか、そうですよね」

「アクセルライブの加護だ!」

 何故か胸を撫でおろすフルイド達。ノウブルもまた、どこかホッとした表情で嘆息する。

「先に言え、心臓に悪い」

「何故だ?」

 相変わらず自覚が薄い。こういうところは全く成長していないと知り、彼は改めて息を吐く。

 危うく、ただの仲間として見られなくなるところだった。



 鼓動が早くなる。それはつまり血流が加速するということ。体温も上昇して、それに伴い普段より強い力が湧き上がって来る。

 これが天士アクセルライブの加護。彼は心音を聴いたことのある相手になら自分の加護を一時的に付与することができた。

 ノウブルは初めて使った。しかしこの感覚には馴染みがある。彼の奥の手を使った時の高揚感に近い。

「長時間は保たない……私の意識も、お前の体も」

「わかっている」

 アイズに警告されて頷く。アクセルライブから聞いたことがあった、この力は通常の数倍の身体能力を獲得できる代わり、体力の消耗が著しいと。

 それにどのみちアリスの防御も限界が近い。

「早く行って! そろそろ突破される!」

 髪を魔素でコーティングして編んだドーム。おそらくこの地上で最も堅固な砦のはずなのに、それも赤い触手に侵食されこじ開けられる寸前。必死に耐え続けていたアリスが切羽詰まった声で叫ぶ。

「早く!」

「わかった、出口を開けろ」

 腰を落として構えるノウブル。アリスが目配せで確認を取ったので軽く頷き返す。

 すると髪が動いて目の前に出口を作った。途端にそこから侵入を果たす触手。しかし一瞬のうちに蹴散らされる。

「オオッ!」

 ノウブルが両腕を交差し、交差部分を『盾』にして突撃したのだ。この世界で最も硬いと言われるそれが巨大な矛の先端と化し、立ち塞がる肉の壁を貫きながら前に進む。

「任せた……!」

 地面に座り、少しでも体力の消耗を減らしながらノウブルに付与した加護の維持に集中するアイズ。もう彼に任せるしかない。

 天士達はそんな彼女とアリスの護衛に回る。

「クソ、来るな気持ち悪い!」

「副長、早くしてください!」

 次々にドームに隙間ができて触手が侵入して来た。それぞれの能力で迎撃し、時間を稼ぐ。

 アリスが言うには、これに取り込まれてしまえば彼女でも脱出は不可能とのことだ。天士や女神の場合どうなるかまではわからないが、少なくとも幸せな結末になどならないだろう。

 だがアイズは冷静である。彼女はノウブルにならできると確信している。

「信じろ……奴は、特別だ……」

「えっ?」

 近付いて来る触手を斬り払いながら眉をひそめるマグネット。アイズのうわごとのような呟きは彼にしか聞こえていない。

「奴は……ノウブルは……」

 実際にうわごとかもしれない。もはや意識を失う寸前。だからこそ彼女は口を滑らせた。本人より先にマグネットに教えてしまった。

盾神(テムガム)、の……血筋……」

「えっ!?」

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