化け物
『だれかいませんかー!』
床に座り食事をしていたら、ここ数日雑音しか聞こえて来なかったラジヲから子供の叫び声が響いた。
此処はスマホの電波も届かない人里離れた山奥の軍の演習場の片隅の、地下深くにある倉庫。
万が一核戦争が勃発したあと、生き残った将兵や国民に配る為の食料や生活必需品などを備蓄している。
俺と部下はその備蓄されている穀物にカビなどが生じて無いか、食品の賞味期限が切れて無いかなどを調べに来ていた時にあの厄災を迎えた。
地下倉庫にビー! ビー! ビー! と警報が鳴り響き、倉庫の重く頑丈な扉が自動で閉められる。
何が起きたのか分からないまま倉庫に閉じこめられたって訳だ。
スマホの電波は届かず無線機は倉庫の前に停めたトラックの中、情報を求めてアタフタしている俺たちの目に備蓄品の箱の上に放置されているラジヲが映った。
以前俺たちと同じように備蓄品の穀物のカビや賞味期限を調べに来た誰かが持って来て、忘れて行った物だと思う。
備蓄品の乾電池を入れチューナーを回す。
軍の無線通信は捉える事は出来なかったが、幾つかの民間のラジヲ放送を聞くことが出来た。
『謎の伝染病が全世界に蔓延しています。
軍や警察の指示に従って行動してください』
『国防総省は伝染病の出処を西の大国だと発表していますが、西の大国はそれを否定しています』
『眠るな! 眠ると人食いの化け物になるぞ』
『化け物になる確率は数パーセントしかありませんが、奴らに噛まれると噛まれた人も化け物になります。
噛まれないようしてください』
『眠ってから数日目覚め無い人は化け物になっている確率が高いです。
注意して』
『奴らを倒すには頭を潰すしか方法が無い、身体に銃弾を撃ち込んでも倒せないんだ……』
『ああ、駄目だ、スタジオの外に化け物が群れている。
私は化け物になんてなりたく無い、食われたく無い…………神よ、パーン』
銃声が聞こえたあとそのラジヲ局から音声が発せられる事は無くなる。
それから段々と放送しているラジヲ局が減って行き、ここ数日ラジヲは沈黙していた。
それが今、ラジヲから子供の声が響いたのだ。
俺は食事を止め、ラジヲに耳を傾ける。
『パパにいじっちゃだめっていわれたけど、ママもパパもねむったままおきてこないんだ。
だから、さびしくて』
『バン! バン! バン!
あ! そとにママとパパがいるー。
やっとおきたんだね。
ママ、どうしたの?
ウゥゥウウ
ヒィーいたいよーそんなにつよくつかまないで。
いたい、いたい、かまないでーヒィー。
ベリベリ、ギャアァァーー』
何かが引き裂かれる音と悲鳴が響いた後。
『グチャグチャグチャグチャ』
ラジヲから聞こえるのは何かを咀嚼している音だけになる。
咀嚼音を聞きながら俺は食事に戻り、部下だった男の肉を喰いちぎるのだった。