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資料室にて




なんだか疲れる一日だわ。

ふぅ、と息を吐き、再び資料室を目指して歩こうとして、今度は別の角度から呼び止められた。



「アンジェラ嬢!ここで会えるとは、嬉しいよ。資料室へ用かな?ご一緒しても?」


人形のように整った顔を微笑ませ、婚約者であるレオナルド殿下が歩いてきた。

以前よりも表情が柔らかいように感じるのは気のせいかしら。

あちらも侍従を連れていて、仕事の途中のようだ。




それよりも…


何この場所、王族との遭遇率が高いわ!!




思っていることを笑顔で隠し、しっかり猫をかぶったアンジェラは返事をする。


「レオナルド殿下、もちろんですわ。今日は騎士団の見学に来たのですが、少し調べたいことがありまして。殿下もこちらへ?」


「あぁ、執務の中で確認事項を見つけてね。ところで今リリアの声で『勉強』という単語が聞こえたんだが…」


「はい。リリア様は国の農業にご興味があるようですわ」


「農業?はは、まさか」


「本当ですよ。先程お話したあとで、明日の家庭教師の内容を決めておりましたから」


「いつも家庭教師から逃げているリリアがねぇ、槍でも降るかな。それにしても、騎士団見学は楽しめたかな?」


リリア王女のことを告げても信じられないと笑いつつ、意味ありげにアンジェラを見つめる。


「楽しむ…というより、国を守ってくださる感謝からお役に立ちたいという気持ちはありますね」


「感謝…そうなんだ。これはまた、騎士たちが聞いたら喜びそうだな。私もよく騎士団には出入りしているから、聞きたいことがあれば教えてあげられるよ。先日のパワーマスについても騎士団長が乗り気だったからね、また話を聞かせてもらうことになると思う」


口に手を当てぼそりと呟いたあと、にっこりと笑顔で提案するレオナルドは、一見優しい王子様にしか見えない。


「まぁ!騎士団の窓口の方をご紹介してくだされば、いつでも伺いますわ」


「騎士団だけでなく、備蓄など他の可能性もあるからね。私が窓口となろう」


「そんな。お忙しい殿下の手をわずらわせるわけにはいきませんわ。報告書作成や交渉も父の手伝いで慣れておりますので、どんな方でも…」


「これから妃教育も忙しくなるだろう?私ならその時間にも会えるし、あなたの功績を出しつつサポートすることは、婚約者である()()役割だと思わない?」


「…ソ、ソウデスネ」


な、なにかしら。圧を感じるわ。

そんなにパワーマスを気に入ってくれたのかしら。

もっと色んな味を作ってみましょうか…



「困ったことがあってもなくても()()()()相談してね。それではまた」



資料室の入口で別れ際に手の甲に口づけを受け、侍従を連れて奥へと歩いていくレオナルドを、アンジェラは呆然と見送るしかなかった。


あってもなくても相談…?


〜っ!ていうか、手!手!!手に〜!



「さすが、スマートなご挨拶でしたね」


当たり前だが婚約者のいなかったアンジェラには、異性からの口づけ全てが未経験である。


手の甲から首筋まで真っ赤に染まって口をパクパクしながら動けないアンジェラの代わりに、レティが冷静に状況を解説する声と、その場に出くわし動けなかった文官の唾を飲む音だけが残った。







「……あれ?なんで私座ってるのかしら?」


気がつけば目的の資料が積まれたテーブルを前に座っている。


「こころここにあらずとは思ってましたが、完全に無意識だったとは…ここにある資料全てご自身で用意して座られましたよ?…まぁ、お嬢様でも初めての分野というものがありますものね」


微笑ましい笑顔で見つめてくる我が侍女に、いたたまれない気持ちになるのはなぜかしら。


「ご、ごほん。さぁ、目的の項目を探すわよ。北の国から輸入している生地の種類で、暖かくて丈夫な…以前何かで見たんだけど、どれだったかしら」


気を取り直して目につくものからペラペラと索引をめくり、該当しそうなページを見ていく。


ペラペラっ

ペラペラペラ


「…お嬢様、このあたりの資料、一冊で700ページもありますよ?」


「大丈夫よ〜すぐ見つけるから。レティも読むの得意でしょう?」


ペラペラペラペラ

ペラペラ


「いつみても引くほどの速読!私は暗記はできますが、読んだりまとめたりはお嬢様の足元にも及びませんのに〜」


「ごちゃごちゃ言ってないで、これ、戻してきて」


読んでるそばからノートに必要事項を写しまとめていく。


ペラペラ

カリカリカリ

ペラペラ

カリカリカリ



速読を諦めたレティが分けられた資料を返しに行く足音と、たまたまその場に居合わせ、引くほどの速読を見せられ動けなかった文官の、唾を飲む音だけが残った。





ーーーーーーー


「なんだか色々と想定外なことが重なって疲れる一日だったわ。レティ。肩もんでちょ」


「ほんとうですね。それにしても、あの短時間での王族との遭遇!今まで全く会わなかったのに、これもご縁ですかね」


「何ニヤニヤしてるのよ。さ、そろそろ寝るわ」


「はーい。お嬢様おやすみなさいませ」



お嬢様…レオナルド殿下はあの時『会えて嬉しい』って仰ってましたよ?

これからが楽しみですわね。


侍女はそっと主の扉を閉めたのだった。


お読みくださりありがとうございます!

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