騎士団見学
「きゃあ〜!今日も、素敵だわ!」
「エミール隊長よ、なんて美しい髪かしら!」
「目の保養ね」
「みて、あの新人騎士の上気した頬!」
はて。目の保養とは…?
それに騎士を見るときに髪の艶とか頬とか…
「レティ、目の保養にはホットタオルが一番よね?」
彼女たちの考えがわからないわ。新手の暗号かしら?そう思いながらそばに控えるレティに問いかければ「お嬢様の目は私がマッサージで癒やします」と安定の返事が返ってきた。
えぇ、もちろん、私もレティのアイマッサージが一番よ。
今日は初めて王宮の騎士団見学に来ている。
剣の素振りから始まり、短距離の往復ダッシュ、障害物を避けながらのジャンプと、基本的なトレーニングが続く。
そんな中で観客の一番の盛り上がりを見せたのは…
「きゃあぁぁ〜今日はエミール隊長とルード副隊長がペアを組んでいるわ!」
「あの若手騎士の苦悶の表情がたまらないわね」
「押している騎士もギリギリを攻めてるのが分かるわ」
「あぁ、お顔が触れ合いそうなくらい近い。お互い息も上がってきたわね」
一対一での模擬戦
ではなく
ペアを組んで行うストレッチだった。。。
あとから聞いたところによると、模擬戦は流石に令嬢が見るには刺激が強いらしい。
だからといってストレッチとは!
運動前後のストレッチはとても大切だけれども!!
まぁ、これもある意味刺激が強そうだとアンジェラとレティは目で会話した。
「公爵領の騎士団訓練とはずいぶん違うものだったわね…」
公開時間が終わり、その足で次の目的地である王宮の資料室へと向かいながら、付き添いのレティに話しかける。
騎士たちの姿より、令嬢の黄色い声が耳に残って、座って見ていただけなのにとても疲れたわ。
王宮の奥の方にある資料室は仕事を持っている貴族しか立ち入らないので、その近くの通路は人気も少ない。聞かれる心配がないので正直な感想を漏らす。
「騎士への信頼感を高めるための公開ですからね。流石にちゃんとした訓練もしていると思いますよ」
「そうよね。服に隠れてはいるけれど、新人騎士以外は体格や筋肉が実践向きだったし、訓練すべてを一般公開するわけにはいかないものね」
「「それにしてもあれはどうなの(でしょうか)…」」
二人で話しながら歩いてしばらく、資料室のドアが見えたところで数人の侍女に大きな声で命令する声が聞こえてきた。
聞き覚えのあるその声にレティに目で合図すると、さっと服装の乱れを直してくれる。
「だから!新しい靴がほしいのよ。すぐに商人を呼べないなら街へ行くわ!」
「姫様、お待ち下さいませ。街への買い物には事前に手配するものがありまして…商人は…」
「もう!役に立たないわね。私からお父様に言えばすぐに……あら?なぜ貴方がここへ?」
大きな声の主も、近づいてきたアンジェラに気づいたようだ。
「ごきげんよう、リリア様。少し資料室に用がありまして。元気なお声が響き渡っていましたわ。…ところで、あれから本は読まれました?」
見本のようなお辞儀で挨拶をしたあと、うしろでクタクタになっている彼女の侍女をちらりと見て、状況を変える話題をきめる。
「えぇ!あれから同じ作者の本をすべて取り寄せて読んでいるわ。ガラスの靴の話に出てくる靴が素敵そうだから、買いに行くところよ」
読んでるようでなにより。
やる気になったらなかなかできる子だ。
よしよし。
「ガラスの靴は私も憧れて探したことがあるのですが、実際には割れてしまうので履けませんの。そちらをモチーフにした飾りが馴染みの店にあるので、今度お持ちいたしますわ」
アンジェラの提案が聞こえた王女付き侍女達の視線が熱い。
やだ。一番右端!私を拝まないで!
「そうなのね、ならいいわ。そうだ!あのお菓子もまた持ってきなさい。今度はもっとたくさんよ」
どうやら王女の興味を変えられたらしい。
そこの右から二番目!私を拝まないで!!
不審な動きの王女付き侍女達を気にしないように、王女に向き合う。
「あぁ、あれはもう無いんです」
「なんですって!?私のために用意できないって言うの?そんな意地悪をするのね!」
…ぴき。
「まさか。意地悪なんて利益にもならないことはいたしません。あのお菓子に使われているピンクチェリーは春先の一時しか採れない貴重なフルーツなのですわ。リリア様はサクラ領をご存知でしょうか?」
「りえき…?よくわからないけど違うならいいわ。サクラ領もなにも、王都以外の田舎なんて興味ないから知らないわ」
全く。王都以外に興味がないなんて、王族が言っていいセリフではないわ。彼女の教育係は一体何をしてるのかしら。
こちらこそ興味のない時間には一秒だって使いたくないのに。
さっさと終わらせるわよ!
「まぁ!それはもったいないですね。あのお菓子のピンクチェリーに限らず、各領地には高級ではなくともそれぞれとても美味しい特産があるんですよ。ま、知らなければ王宮に献上されるほど数もないですしお値段もお手頃なので、リリア様が食べられることもないでしょうが。残念ですわねぇ」
「な、な、なんですってぇ!…私は忙しいのでこんなところで時間を潰している暇はないのよ。失礼するわ!」
クリルと背を向ける王女と、こちらにペコペコと折れんばかりに頭を下げる侍女たちを笑顔で見送った。
「明日の家庭教師のお勉強は各地の特産について教えるよう、先生に伝えてちょうだい!」
遠くから側仕えの侍女に命令する声が聞こえる。
やれやれ。
歩き方は少しマシにはなったが、こんなところまで聞こえる大声はいただけませんわねぇ。
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