…side レオナルド
今日ついに婚約が決まってしまった。
昔から、まずは兄上の結婚を優先するべきだと主張し続けてきたのが仇となり、兄上の結婚が決まってからの圧がすごかった(主に母の)。
私は月の女神と呼ばれる母に顔立ちが似ているからか、絶対に認めたくはないが『美貌の王子』などと呼ばれ、昔から女性に言い寄られることが多かった。
こちらの事情や話を聞こうともせず、自分がいかに魅力的であるかを笑顔で語りながらすり寄ってくる女性達のことが気持ち悪く感じ、女性との接し方に悩んできた。
王族として品位を落とすわけにもいかず、紳士的な対応をするように心がけているが、話の流れで誰か一人に時間を割いた結果(と言っても数秒単位)、令嬢達の間で争いがおきたことが何度あるだろう。
さらに遅くにできた妹のわがままがひどすぎて、女性全般を避けるようになってしまったのだ。
仕事という議題があればまだしも、社交場では正直いつも逃げ出したい。
それならば最初から話すきっかけを作らないようにすればいいのだと、騎士団と執務室から出ないことを思いついたのはいつだったか。
もっと早くそうすればよかったと思うほどに、毎日が楽になった。
ただ、貴族たちとの繋がりとなる夜会のなかには避けられないものもある。
アンジェラ·リュヌ公爵令嬢
最初に彼女が気になったのも、他国の貴族を招いての大きな夜会だった。
高位貴族の彼女とは、幼い頃から互いに面識はあっても、あちらから積極的に話しかけてこない分、私の中で認識は薄かった。
女性への接触を避け続けている日々の中、公務として久しぶりに参加した夜会でのこと。
他の女性達のように眩しいくらい宝石を散りばめているわけでもないのに、一際目を引くミルクティーのような美しい髪が目に入り、宝石のように煌めく大きなブルーの瞳の女性が父上に挨拶に来たのを見て思わず息を飲んだ。
ゴテゴテと着飾っていなくとも、白い胸元や細い手首、薄く思わずなぞりたくなる耳には、普通の貴族では買えない質の良い宝石がおさまっているのが分かる。
いや、思わず見てしまった部位については触れないでいただきたい。今までは女性特有のシルエットすら気持ち悪いと思っていた私が一番驚いているのだから。
確かにあの両親の遺伝子を受け継いだ整った顔だが、なんとなく覚えていたものよりずっと大人っぽくなっていて、なぜだか目が離せない。
優雅に頭を下げ父の元を去る際には私とも目があった。しかし私を見ても、他の者たちへと同じ熱量しかない。
いつもなら興味を持たれるのも嫌なはずなのに、なんとなくそんな態度にもやもやとする。
だからだろうか、母上から『気になるご令嬢はいた?』という夜会後恒例ともなっている、今までは無視していたその質問に、初めて名前を出してしまった。
『リュヌ公爵令嬢…』と。
それからはあっという間に婚約までの準備が整えられてしまった。
母の性格を考えれば予測できた結果なのかもしれない。無意識とはいえなぜあの時彼女の名を口にしたのか…。
初めて私の口から女性の名がでたので、母は絶対に逃すものかと、本来ならかなり期間をかけて選定や準備をするものを、おそらく史上最速で国王に認めさせた。
まぁ、かの令嬢とは深く話したことこそなかったけれど、決算とともに上がる報告書で自身の功績も何度か目にしたし、何よりあの優秀なリュヌ公爵家との婚姻に反対するものはいないだろう。
それでも政略結婚とはいえ私も令嬢の為人をその間に自分の側近や影を使って慌てて調べたが、容貌はもちろん性格も能力も悪い噂は聞かず、王族に嫁いでもしっかり役目を果たせるだろうということが分かった。
すべてが整ったあと、先程彼女に改めて挨拶をしたところだ。
この婚約をどのように思っているのか、私について何か思うことはあるだろうか。
私が一言、名を出してしまった為に整ってしまった婚約。彼女の家は忠誠心が高く、断るという選択肢はなかっただろう。
聞きたいことはあるのに、やはりこちらから話しかけてあれこれと期待されても嫌だなと今までの経験が頭を過り、挨拶程度しか口にできなかった。
そのせいなのか、アンジェラ嬢の返事もとても素っ気ない。
自分から歩み寄らなかった結果なのに、やはりなんとなく心がもやもやする。
私自身の気持ちも彼女の気持ちも分からないのが苛立たしい。
うん、そうだ。
婚約者になったのだから周りからの圧に関係なく多少は信頼関係を築いたほうがいいだろう。
さて、どうしたものか。
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