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王女と視察 2




視察の最初の目的地である孤児院は、城から馬車でひと刻ほど。中心地からは少し離れた地区に教会と併設して建っている。


福祉分野は女性王族の仕事とはいえ、実際に訪れる機会は多くはない。事前に資料を読み込み、見学時に問題がないか気になる箇所があればチェックをしつつ子どもたちの様子を見る。

その準備もアンジェラはレオナルドのアドバイスを受けつつ行ってきたので抜かりはないはず…だが



「はあ、まだ着かないの?わたくし冷たいジュースがほしいわ。それに足のマッサージもしなきゃ」



この眼の前の王女をどうしてくれようか。



「リリア様。まもなくですよ。飲み物は…用意してくれるでしょうが、視察中にマッサージは難しいでしょうね。もしくは馬車でそのまま休みますか?」


「な、何言ってるのよ!王族である私が行かないと喜ばないでしょ!!」


いっそのこと視察を取りやめてくれないか…そんな期待を込めて提案するも、やはり行く気はあるらしい。



「ふぅ。では間もなく着きますので、リリア様、本日の責任者は私であるということをお忘れなく」


「ふん!言われなくてもわかってますわ!」



…先が思いやられるわね。





「「ようこそ、お越しいただきありがとうございます」」


孤児院の門の前に馬車が停まり、降りていくと揃って頭を下げたシスターたちに迎えられた。


「本日はよろしくお願いします、聞いていると思いますが、レオナルド殿下ではなくリリア殿下と見学します」


「わたくし喉が渇きました。早く案内してちょうだい」


・・・。

シスターたちの顔を見ぬままに要求をするリリア王女の行いに、さっそく頭が痛くなる。



まったく。


「リリア様、まずは子どもたちに会いに行きますよ」



姿勢を引くし、王女の目をしっかり覗き込みながら微笑む。


…察しろ!!

(秘技、目で威圧!)


「なんでっっ」


反論しようと私と目があった瞬間、ピクリと声が止まる。


うんうん、防衛能力はあるようで何よりだわ。



「視察のスケジュールは決まっております」


「うぅっ分かったわ」


一瞬だけ巻き起こった不穏な空気などなかったかのように、空気の読める大人たちは、まずは子どもたちのもとへ案内してくれた。




「「こんにちはー!」」


『遊技室』と書かれた部屋では既に5から10歳くらいの子どもたちが並んで待っている。


王族の視察ということで若干緊張はしているが、それよりも珍しい客人ということでワクワクとした瞳で見つめられアンジェラは思わず笑顔になった。


「元気な挨拶ですわね。こんにちは。みなさんにおやつを持ってきましたよ。たくさんお話を聞かせてくださいね」



「わぁー!ありがとう」

「お菓子嬉しい!」

「お話したいです」

「お姫様きれい〜」


視察に来たのが若いアンジェラとまだ子供であるリリアだったためか、優しくアンジェラが話しかけると子どもたちは口々に話しだした。


年長の子に持ってきた土産を渡し、しばらく部屋で子どもの話を聞きながら一人ひとりの様子を見る。

そして子どもたちがおやつタイムになると、アンジェラ達は別室に移動した。


マナーも何も無い、しかし子供達のリラックスした食事タイムに王族が同席することはないからだ。

これは王族への礼儀であるとともに、子どもたちを守るためでもある。



リリア様、子どもたちの前で癇癪を起こさなかったのは意外だったわ。

話したがる子どもたちに相槌をうっていたのは流石に王族というより、当たり前ではあるけれど。




そのまま大人しく別室まで来たリリアは、やっと出された紅茶を前にしても、手を伸ばすこともなくポツリと零した。


「…みんな私達の到着を待ってたのね、それなのに私ったら」



どうやら並んで待っていた子供達のことを見て、思うことがあったようね。



「ここの安全を守る目的もあって、外部の人間が来ることは多くないですからね。楽しみにしていたのでしょう」


「ほんとはおかあさまが面倒を見ていると聞いていたから、どうして私だけのお母様なのにって思っていたけど…」



うーん、子供の感情としてはわからなくもない。まぁ王妃様の子供に兄二人も含めてあげてほしいところですけどね。



「王妃様は国母ですからそのような役割もあるでしょう。でも子どもたちは国の宝として皆で育てていくものです。そして王族の女性たちがそれを率先して務めるのです。ここにいる子どもたちは特に親がいない分、国で面倒を見る必要がありますわね」


「親がいない…そうよね。私、先程の子どもたちのために何かしてあげたいわ!」



キッと顔をあげやる気を見せたリリア。


あ、これは。


「シスター!私の財産を「いけません!リリア様。今話そうと思っていることを口に出すのは許しません」


リリアが勢いのまま話し始めるのを遮ったアンジェラを、リリアは睨む。


「あなた、何を言うの!?王女である私の言葉を邪魔しないでくれるかしら」


()()()()()()()、ですわ。現場を見て考えることは大切ですが、発言には根拠と責任が伴います。リリア様の気持ちはちゃんと理解しておりますが、今日はレオナルド殿下と私が準備しておりますので見ていてください」


「お兄様と…ふん。わかったわ」


言い足りないと顔は不満そうだが、レオナルドの名前が出たところでやっと落ち着いてくれた。


先程からおろおろしていたシスターたちも、リリアが落ち着いたことに胸をなでおろす。



「さて院長。定期的にご提出いただいている報告書と子どもたちの様子から、みなさんがしっかりと子供達の健康に配慮していることが分かりました。様々な事情の子たちをまとめるのは大変でしょう」


「ありがとうございます。もちろん、全く問題がないわけではありませんが、それでも、安心できる場所、帰る場所として守りたいと思います」


「年間予算も無駄なく計画的に使用していますね。足りていないものなど、今後の計画をお聞かせいただけますか?」


「そうですね。日々の生活や子どもたちの教育などは支援のお陰で何とかできておりますが、夏前の長雨で傷んでしまった窓を、冬になる前に修理できればと考えております」


「なるほど。実はレオナルド殿下とも老朽化した箇所の修理について、話してきました。後日専門家が来ますので相談してみてください」


「まぁ!ありがとうございます。そんなに多くないので、いただいてる支援からやりくりするつもりでしたが、これで子どもたちの食費も減らさずにすみます」


「予算内で優先順位はつけさせていただくと思いますが、また困ったことがあればご相談くださいね。それから……」


いくつかレオナルドと準備したことを伝え、次の移動する時間となった。





シスターや子どもたちに見送られ、馬車から孤児院が見えなくなると、それまで大人しかったリリアがアンジェラを睨む、しかしどことなく元気はない。


「ねぇ、私の財産からあそこに支援することをなぜとめたの?」


「リリア様は王族です。王族の財産を動かす際は、たとえ少額であっても、よく考えなくてはいけません」


「でも何もかも足りないわ、着ているものだって新しくはなかったし。…なら服をあげるわ。私のドレス!美しいし汚れもないわよ」


「リリア様、孤児院ではドレスを必要とはしていません。それに孤児院はあそこだけではありませんので、一つのところだけに支援するわけには行きません」


「そんなの分かってるけど何もかもだめって…っならどうしたらいいのよ!」


「服が必要なのは確かですね。でも今だけ、そこだけ考えても解決しませんわ」


「でも寒くなるから暖かくしてあげたいのよ」


「その気持ちはとても大切ですね。ではこういうのはどうですか?」


揺れる馬車の中、話し合うアンジェラとリリアの顔は朝とは違いいきいきとしていた。




お読みくださりありがとうございます!

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