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王女と視察 1




婚約発表の夜会以降、少しずつアンジェラの妃教育が始まった。


公爵令嬢としてマナーも知識も身に着けてはいるが、臣下と王族では振る舞いだけでなく考え方も違う。


他国の王族との接し方なども含め、それらは現王妃から直接指導される。


最初は王妃自らの指導に多少緊張していたアンジェラだが、公務で見せる落ち着いた姿勢をどこへ置いてきたのか

「アンジェラさん、困ったときは笑顔よ!うちより大国だろうと小国だろうと、心から敬意を持って接することが大事。パッションよ!パッション!!」

と、割と熱い人だった。


「まぁ、舐めた真似をするような輩は…妃教育フェーズ3で教えるわ。ふふっ」

と、黒い笑顔が見えた気もするが。



妃教育フェーズ3とは


…いくつまであるのでしょうか。





そして妃教育には他にも、視察に行く際に必要な各地の特色、そして外国の文化や言葉の勉強があり、こちらはそれぞれ専門の教師がついている。


もともと地理や経済に興味が偏り、領地近辺についてはかなり専門的に学び実践してきたアンジェラは、対象が国内全体になることに、戸惑いより喜びを感じた。




「楽しくて仕方ありません!公爵家といえども、他領の経済など表立って調べることは憚られましたから、こっそり資料室にて学んでおりましたの。こんな素晴らしい場所で堂々と学べ、なおかつ実際にその地へ行けるなんてっ」


目をキラキラさせながら分厚い資料を高速でめくるアンジェラに、レオナルドは苦笑しながら返事をする。



数日後に初めての視察を予定しており、只今王族用の資料室の大テーブルで向かい合って勉強中だ。


周りには高く積み上げられた本や資料、そして自分たちでまとめたメモが並ぶ。


ペラペラ…ペラペラペラ



「ははっそんなに喜んでもらえるとは。私も幼い頃は色々なところへ行ける視察が目新しく楽しみにしていたが、責任者として向かうようになった今なら、『視察は準備が全て』と言っていた父上の言葉がよく分かる。その地で開催される勉強会などのための準備が想像以上に大変で、たまに逃げ出したくなるよ」


「ふふっ、それでもレオナルド様は全く手を抜いてないですよね」


ペラペラ…ペラペラ


「まぁ慣れもあるし、覚えたてよりは効率的に予習できているからな。むしろアンジェラのその資料の読み込みのスピードが羨ましいよ…うん。さすがリュヌ家…」


そう。アンジェラの読むスピードは王族で優秀なものに見慣れているレオナルドが若干引くレベルである。


「好きこそものの上手なれ、ですわよ。仰るように、準備が全て、当日は余裕を持って臨めますわ」


ペラペラペラペラ


「…間違いない」



福祉など女性王族が責任者となる視察は、婚姻後はアンジェラ一人で向かうこともあるらしいが、今回は王宮外での初めての公務ということで、レオナルドの横で学びながらサポートすることになっている。


妃教育が始まってから連日王宮で顔を合わせるようになったレオナルドとアンジェラは、今ではすっかり仲の良い婚約者…ではなく、同僚のようだ。


お互い合理主義で、得意分野を分担して作業しているので、無駄がない。





そう、順調に準備を終えたのだったが……





「…すまない」

「どうか無理なさらないでください。一緒に準備してくださったんですもの、私一人で行ってまいりますわ」

「ごほっごほ。しかし、まだ婚約者であるアンジェラに責任者として王家直轄の施設へ向かわせるのは、君もやりにくいだろう。やはり私も…ごほっ」



視察当日の朝のことである。

早めに王宮来てみれば、なんだか顔の赤いうるんだ瞳のレオナルドに迎えられた。



まぁ!今日は一段と色気があるわ。

それになんだか気だるそうな雰囲気ね…と思ったのもつかの間。


「ごほっごほ」


「レオナルド様!?もしや熱があるのではないですか?」


「…大丈夫だよ、さぁ行こう」


少しの間と握られた手の温度。

…これは明らかに


「だめです。休んでください」


「いや、しかし。ごほっごほ


「風邪はひき始めにしっかり休むことが大切ですわ。今日の視察は本来女性王族の仕事ですし、王妃様もご結婚前からお一人で訪れていたとのことなので、婚約者の私だけでも受け入れてくれるはずです」


「そりゃぁアンジェラなら大丈夫だとも思うけど…ごほっ、でもアンジェラの初めては全てごほっわたしと「お兄様!その視察、私が代わりに参りますわ」


辛そうに、更に顔を赤らめながら付き添うと言ってくれているようだが、咳込んでよく聞こえなかったところで、横から思わぬ声が聞こえる。


「リリア(様)!?」



ぴょん!とアンジェラとレオナルドの間に入るリリア王女に思わず声が揃ってしまう。



「お兄様、私だって立派な王族ですのよ!きっとただの婚約者だけが行くより喜ばれますわ。それに体調が悪いときは無理をしてはいけないと、私によく言っていたのはお兄様ですわ」


「無理をするなとは言ったが、あれはリリアが幼かったからで…それにアンジェラなら立派に「いーえ!わたくしだって立派に努めてみせますわ」



何故かとても張りきっているリリア王女と、体調のせいでスマートに止められないレオナルド。




はぁ。困りましたわ。


今日の視察は王都近郊の果樹園と孤児院。

それぞれの様子を見て、健全に運営がなされているか、改善点などを見て来るという難しいものではないけれど…


成人前のリリア様では、王族とはいえ責任者にはなれないから結局私が責任者よね。リリア様を連れて行かないほうがスムーズなのはまちがいないけれど…



ちらりとレオナルドの方を伺うが、かなり体調が限界のようである。

苦しそうにしながらどうやって止めるか悩んでいるのが伝わる。




うん、レオナルド様を早く休ませてあげたいし、仕方ない。




「リリア様、本日は孤児院と果樹園の視察です。どちらもリリア様が普段接する貴族ではない民たちが多くおりますが、よろしいですか?」


「そんなの知っているわよ。皆私が行ったら喜ぶはずだわ」


はぁ。王族としての振る舞いができなければ期待している分がっかりさせてしまうこともあるのに、リリア様はわかっているのでしょうか。


「そうですね。ですが平民は王族に敬意は持っていてもマナーを学ぶ機会はありません。失礼ですが、彼らなりの礼儀を受け入れる姿勢で挑めますか?」


「もちろんよ!お母様からも民は国の宝と言われているもの」



どうやら一番大切なところは教えていただいているのね。

でも、実際王族と言わずとも貴族と平民ではリリア様が思っている以上に違うものだわ。


果たしてどこまで伝わっているのかしら。



レオナルドはなんとかリリアに諦めさせようとしているらしい。あたふたとするレオナルドに安心するように目を合わせて頷いたあと、アンジェラはリリアに向き合う。


「分かりました。では一緒に行きましょう」


「やったぁ!」


「アンジェラ!無理しなくても」


嬉しそうなリリア王女と止めようとするレオナルドだが、アンジェラはしっかりと釘をさす。


「ただし、リリア様はまだ未成年ですので視察の責任者は私が務めます。公務については私が進めますので、リリア様は本日は、私の付き添いということでお願いいたします」


「なによそれ!貴女の指図は受けないわよ!」


リリアのその態度こそが問題であり、アンジェラもこれだけは譲れない。



「指図をするつもりはありません。ですが私達の意見が合わなければ民が不安になります。約束ができなければ一緒に行くことはできません!」


ここまではっきりと言われ慣れていないリリアは、少しだけたじろぐとふんっと腕を組みながらもなんとか折れた。


「な、なによ!っ仕方ないわね。今回だけよ!次は貴女が付き添いよ!」


「次回については本日の様子を見て決めることにしましょう。それでは時間もないので出発します。レオナルド様はしっかり休んでくださいね」


オロオロしたり咳込んだりと、完全に蚊帳の外に置かれていたレオナルドは、アンジェラの心配をしつつももう口を挟む元気もなさそうだ。


「あ、あぁ。本当に色々と…すまない、アンジェラ。気をつけて」


それでも最後にひときわ潤んだ瞳で見つめられてはさすがのアンジェラも頷くしかない。


「は、はい。おまかせください」


「では行ってまいりますわ!」



かなり余裕を持って登城したはずが、結局予定の時刻を少し過ぎてしまった。まぁ、移動時間にも余裕を持たせてあるから、スピードを調整すれば修正できるだろう。


護衛と付き添う侍女が待つ馬車に乗り込み、やっと王宮を出発するのだった。



ちらりと振り返ると、辛そうにほほえみながらも見守るレオナルドの後ろで、レオナルドの侍従とリリア王女の侍女たちが揃って手を合わせているのが見えた。



実はずっと後ろに控えていたのだが、口を挟むわけにもいかず、アンジェラが引き受けて決着がついたことに感謝と尊敬の念を送っているのである。



だから拝むのはやめて〜!!



お読みくださりありがとうございます。

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