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お母様に癒やされます





エントランスで羽織りを脱いでいると、お母様が来て抱きしめてくれた。



ふぅ。やさぐれていた心が癒やされるわ。

お母様のこの柔らかいお胸には、人を幸せにする何かがあるわね。


「おかえりなさい、アンジー。それで、陛下からのお話はやっぱり…」

「はい。第二王子レオナルド殿下との婚約が正式に決まりました」


癒やしの谷間に頬をあてながらも、心配そうな声の母に、本日決まったアンジェラの人生を左右する出来事を淡々と伝える。


その瞳には王族に嫁ぐという高揚感もなければ重責を担う緊張もない。


なぜなら目を瞑り、母のお胸に頬を寄せて、たゆたゆと堪能しているからだ。


「まぁ。先日王妃陛下からお話はあったけれど、こんなに早く成立するなんて。とりあえず…おめでとう?」

「…ありがとうございます?」


予想されていたことなのでお互い苦笑しながらも、疲れたでしょうと頭を撫で、ひとまず部屋に戻り休ませてくれる母の気配りに、心が暖かくなった。







自室に戻りソファに腰を落ち着ければ、さっそく猫かぶりをやめた私付きの侍女レティが、テキパキと私のお気に入りの紅茶とお茶菓子を用意しながら詰め寄ってくる。


「奥様もお嬢様も、なぜ疑問形なんですか? 令嬢なら誰もが憧れる王子妃ですよ!? しかもあの()()()レオナルド殿下の!」


彼女が王宮からずっとなにか言いたくてウズウズしているのには気づいていた。


訳あって家で引き取って働いてもらう中で、レティの猫かぶりに気づいた私が、この部屋でだけはそれを止めてよいと伝えたところ、思ったことをはっきり言ってくれるようになったのだ。やるべきことはきちんとし、身の丈を弁えた上で正直に伝えてくれる彼女の態度に嫌な気はしない。

ちなみに先程エントランスでのお母様との一幕でたゆたゆしている時、レティのジト目に気づいたのは私だけだろう。


そんな彼女を私はとても信頼している。


レティを専属にしてから紅茶の味が格段に良くなった。もちろんこれまでも、最高級の茶葉できちんと指導を受けた使用人達が入れてくれていたので美味しかったけれど、レティは私の体調や気分に合わせてブレンドや温度をピンポイントで変えてくれるのだ。



そして私が彼女の猫かぶりに気づいたわけは


「はぁ~~あ。ほんとめんどくさいなー、足いたーい。レティ揉んでちょ」


私も猫、いや虎をかぶっているから。


だから信頼して素が出せる存在は貴重だ。



私が言い終わるより早く桶にお湯を用意して、足湯の準備をしているレティ。


流石だ。

私より私のことを分かっている…。



素を出させたところ口は達者になったが、侍女としての動きが疎かになることはなかった。

むしろますます私の世話を焼いてくれている気がする。



足湯の中で溶けそうなくらい気持ちいいマッサージを受けながら考えるのは、本日めでたく?婚約者となった美貌の王子様のこと。



レオナルド殿下。

御歳18になる、この国の第二王子について。


第一王子が国王に似て少し(いかめ)しい顔であるのに対し、第二王子は国一番の美女と謳われる王妃似の、誰もが王子様として思い浮かべるような整った顔だ。


夜会などで熱い視線を受けているのを遠くから見かけるが、公務として国賓等と踊る以外には女性の手を取ることがないという。将来の国王補佐として執務室にこもるか騎士団で体を鍛えるかという女っ気のない素振りに、男色の噂も後をたたない。


ただ、仕事上では男女問わず穏やかに接する方、らしい。


らしい、というのは、我が家は高位貴族として王族と接することも多いが、その分直接両陛下とやり取りするので、王子殿下とは挨拶くらいしかしたことがないのだ。

王子も我が家もなかなかに忙しく影響力も大きい為、限られた夜会しか参加しないのもある。


とはいえ私も女子の社交(戦い)の場、お茶会にはある程度参加するので、噂はよく耳にする。



昨年結婚式をあげた第一王子は、このまま次代の王位継承者が生まれれば立太子して王太子となる。


そこで勢いに乗った王妃様の次の関心が、第二王子の結婚に移ったと聞いたのは先々月のことだったか。

その時は適当に受け流していたけれど、まさか自分がその当事者になるとは。



ちなみに帰りに出会ってしまったのが、歳の離れたこの国唯一の王女リリア姫である。

先程は『幼い』と表現したが今年で8歳になるので、王族ならば本格的な、とまではいかなくてもマナー教育もとっくに行われているはずである。


けっ

遅くにできた姫ということで大切にされて(あまやかされて)育っているという噂は本当だったか。



「まぁ殿下のことはお美しいとは思うけど、交流があったわけでもない私が何故選ばれたのか分からないのに素直に喜ぶわけないじゃない。王族との結婚は色々大変そうだし」


こちらが考え事をしているときにはけして口を挟まず、しかし気になってチラチラ見てくるのは止めてほしい。

彼女のこんな動きも部屋限定のこととはわかっているけれど。


案の定すぐさま話しに乗ってきた。


「お嬢様なら血統、能力ともに問題ないかと思いますが。先日の夜会で見初められたのでは? あのときのドレスのデコルテの魅せ方は秀逸でしたから。殿方の視線を総嘗めだったでしょう」


「私にはまだお母様ほどの癒やしのお胸は無いはずよ。あれはどうすれば出来るのかしらね…」


「デコルテと胸は別物ですよ!それぞれに専用フェチがあります。私のスーパートリートメントでデコルテは何とかなるのですけどねぇ」


残念そうな目で胸に視線を送るのはやめてほしい。

私だってあと3年くらいあれば…きっと


「…とりあえず血統と能力は認めるわ。典型的な政略結婚ね。でも殿下とは挨拶をした程度よ? 今までもその時も、別に何もなかったし、今日の挨拶も二言ほどお話しただけ。政略の観点なら他国の姫と結婚したほうがいいと思うわ。あの美貌なら選びたい放題…っと」


「お嬢様、不敬ですよ。それにしても二言とは…王家からの希望ですよね? 照れてらっしゃるだけ…とか」


「そうねぇ。しいてあげるなら殿下というよりは王妃様からの視線が熱かったわね」


「はぁ…美貌の王子様って、視力が弱いんですかね」


「レティも、不敬ですわよ」


先程のお返しにと、同じセリフを伝えクスクスと笑い合った。



お読みくださりありがとうございます!

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