テラスでの告白
レオナルドと数曲続けて踊ったあとは、火照った体を冷やすためテラスへ出た。
ちなみに婚約者としての最低限のマナーである2曲が終わる頃に、アンジェラと踊ろうと令息達がソワソワしていたのを察したレオナルドが、わかりやすくアンジェラを引き寄せて牽制し、そのまま3曲目を踊り始めたので、察した令息達は気持ちを切り替えて二人のような良き出会いを求めて解散していった。
もちろんレオナルドに熱い視線を送っている令嬢もいるが、いつも美しいながらも一定だった笑顔と、アンジェラに向ける笑顔の差を見てしまったあとでは、「やはり遠くから眺めるに限る(不敬!)」と割り切れるリアリスト子女が多いのは、この国の傾向なのかもしれない…
「レオナルド様はとてもリードがお上手なんですね。私もこれから始まる公務のためにもっと練習しないとと思いました。でも他の方と踊らなくてよろしかったのですか?」
「まぁ、幼少期から練習だけはさせられたからね。アンジェラは私の意図をしっかり組んだ動きをしてくれるから楽しくて、もっとずっと踊っていたいくらいだよ。今日は、他国の要人もいないし、婚約発表の日くらいアンジェラを独占させて」
キラキラとした優しい笑顔を向けるレオナルドに、普段は余裕を持って対応できていたアンジェラの胸は何故か鼓動を早める。
「…はい」
どうしたのかしら。
さっきのお兄様とレオナルド様とのお話のあとから、レオナルド様の言葉にドキドキするわ。
頬を染めたアンジェラを嬉しそうに見つめながら、「少し休もう」と、レオナルドの提案でテラスのベンチに並んで座ることになった。
「…いよいよ妃教育が始まるね。アンジェラなら大丈夫だとは思うけど、もし、困ったことがあれば相談してね」
どうしたのかしら。
レオナルド様、なんだか緊張している?
改まった表情で背筋を伸ばしアンジェラを見つめるレオナルドに違和感を感じ、安心させようと力強く返事をする。
「はい、ありがとうございます。王妃様もマリアンナ様も先程同じことを仰ってくださいましたわ。不安がないとは言いませんが、楽しみでもあります」
「母上も義姉上もアンジェラを構いたくて仕方がないらしい。…アンジェラ、婚約が決まってから言うのは本当に卑怯だが、私の気持ちを聞いてほしい」
何かを決意した表情と、その後アンジェラへの気遣いを感じる視線に、アンジェラの背筋も伸びる。
「はい」
「…まだ王太子が決まっていないとはいえ、私は自分が国王になるより、兄を支えていきたいと思っている。そしてアンジェラにもそのサポートをしてほしいと思う。もしかしたら、その、君の能力なら王妃としての役目もきっとできると思うし、期待させていたらごめん。もちろん兄達に跡継ぎが生まれるまでは自分の意志では何もできないけれど」
自分の意志をしっかり伝えるため覚悟の表情から始まった言葉ではあるが、アンジェラが王妃になる可能性がほぼないことについてなかなか言い出せずこのタイミングで伝えることになってしまったレオナルドの瞳が、少しだけ不安そうに揺れた。
本当はもっと早く言うつもりだったのだ。
ただ、王妃になることは国の女性の頂点に立つこと。その責任の重さよりも地位に憧れを持つ令嬢も少なくはない。アンジェラがそのような考えを持っているとも思わないが、婚約発表前に伝えて拒否されることを恐れてしまった卑怯な自分を省みて、レオナルドの心に不安がよぎる。
アンジェラが、それで婚約をやめるなんて言うはずがないってわかっているのに…
そんなレオナルドの膝の上に置いた手に、温かいアンジェラの手が重なる。
「レオナルド様、王家に嫁ぐものとして国のため、民のためにとやるべきことはいくらでもあります。謝る必要などありませんわ。私はどのような立場でもレオナルド様をお支えできるようにするだけです」
「君って人は…」
アンジェラの答えを聞いて瞳に熱が戻るレオナルド。
その中に今までの優しさだけでなく見えてしまった不安、そして先程まではなかった妖艶な色を見つけ、はっと我に返った。
わ、わ、私ったら、思わずレオナルド様の手を!?
離さなきゃっ
しかし、引こうとした手を逆に引き寄せられ、気がつけばアンジェラはレオナルドの腕の中にいた。
真っ赤になりながら固まるアンジェラと、腕の中の愛しい人を抱きしめ堪能するレオナルドは、痺れを切らした側近に声をかけられるまでそのまましばらく過ごしたのだった。
もちろん、ホールの窓からレオナルドの兄夫婦がニヤニヤと見守って、程々のタイミングで側近に呼びに行くように言いつけたのはお約束である。
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