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3回目のお茶会




「騎士団に防寒具を?」


本日は美貌の王子様こと婚約者レオナルド殿下と3回目のお茶会。


美人は三日で飽きると聞いたことがありますが、私の提案に聞き返す殿下は、内容が予想外だったのか呆けた表情ではありますが、それはそれで完成された絵画のようで飽きることはなさそうです。



「正確には献上品の一つに北国の羽衣という植物から採れる珍しい生地を考えていまして、北国ではその一級品は王族の正装にも使われている生地だそうです。今回防寒具にと考えているのはもっと広く使われている質のものですが、リュヌ家から直接軍部に贈るのは政治的によろしくありませんから、献上品として一旦生地のまま収めるようにと父からもアイデアをもらいましたの。はい、こちら資料ですわ」


いつものことながら、すっとそばに来たレティから資料を受け取りレオナルドに渡す。



「わわ!あぁ…うん、資料ね」


気配に敏感なはずのレオナルドも驚く忍び技術。そしてこの流れに慣れつつある自分に遠い目をしながらも、レオナルドはしっかりと資料を受け取った。



「あぁ、なるほど。目録には異国の布として載せるのか」


「はい。以前相談事があれば…と仰っていただけたので、我が家の騎士たちの意見も聞いたのですが、やはり王宮騎士団のことをよく知るレオナルド殿下に聞いたほうがいいと思いまして」


「相談してくれて嬉しいよ。ざっと読む限り保温力と丈夫さが温暖な我が国にはないレベルだし、もしかしたら標高の高い領地の母上の実家なんかが興味を持ちそうだ。献上品なんてなくともしっかり信頼を築いて婚姻できればと考えていたけれど、国の利益になる品を考えてくれてありがとう。騎士服に加工する際にアドバイスができるよう、騎士団の隊員にも話しておくよ」


「ありがとうございます。彼の国の周りには興味深い国がまだまだたくさんありますから、学べるところは学んで、セレーネ国に活かしたいですわ」


「私の仕事には国外での外交もあるから、これからは一緒に学んでいこう」


今回の準備で周辺国について改めて学んだアンジェラは、まだまだ知らない世界がある事を知り訪れてみたいと思っていた。

だからこそ、レオナルドの提案には社交用のではなく満面の笑みで返す。


「はい!お力になれるよう頑張りますわ!」


「…っ!笑顔、かわっ。んん″っ実際に成果を上げてきた貴女が言うと、期待が高まるよ。婚約に関する取り決めもそうだけど、いよいよ披露目の夜会が近づいてきたね。ドレスも完成次第送る手配をしているけれど、他になにか不安なことはある?」


アンジェラの笑顔の直撃を受け動揺しながらも、レオナルドは優しく質問する。


「お気遣いいただきありがとうございます。大丈夫ですわ。領地にいる兄もまもなく到着しますし、国内の貴族だけでしたら頭に入っておりますので。あ、でも…」


「ん?どうしたの?」


それまで不安なくスラスラと話していたアンジェラの口調が変わったのに、レオナルドが前のめりになる。


「あの、殿下と仲が良い方を先に知っておきたいなと。夜会で失礼がないようにしたいので」


アンジェラは公爵令嬢という地位から、国内の殆どの貴族が自分より下である。だから、意図せずとも相手を恐縮させてしまうことがあるのだ。


いつも自信に溢れて余裕のあるアンジェラか不安そうに瞳を揺らす姿に、思わずレオナルドは手を取った。


「そういえば私達は社交では殆ど話したことがなかったからね。少しは私に興味を持ってくれたようで嬉しいよ」


社交としての予習と思ってした提案の、何がそんなに響いたのか、慈しむように手を取られ見つめられてしまい、さすがのアンジェラもドキドキと落ち着かない。


「あ、あの。殿下…」


「うん?そうだね、披露目の準備といえば、まずは私のことを殿下と呼ぶのはやめよう」


ギャップ萌えで、庇護欲を発動したレオナルドはアンジェラの動揺を受け流し、更に囲い込む。


「それは…結婚まではさすがに」


「私がお願いしているんだから問題ないよ。急に決まった婚約だし、仲がいいとアピールしなきゃね」


「…承知しました。それでは私のことはアンジェラと呼び捨ててくださいませ。それであの、レオナルド様、先程の仲が良い方の件は…」



思い切って名前呼びしてみたアンジェラがレオナルドの方を見ると、何故か口を抑えて天を仰いでいる。


頬を赤く染めて照れながら呼ぶアンジェラは、思った以上だったらしい。

女性慣れしていないレオナルドの経験値の低さが今になって返ってきた。


「レオナルド、様?」


「あーアンジェラ、うん、いいね。名前を呼ばれるのも幸せだなんて。私も呼び捨てにしてもらったほうがさらに仲が良いのを見せつけられるかな」


そう言いながら少しだけ頬を赤くして、照れながらもアンジェラを見つめる瞳には、美貌の、というよりも可愛らしいと思ってしまう。



ふふっでも殿下のことを可愛いなんて思ったら不敬かしら。



「ん?何を考えているのかな?」


アンジェラの思考を覗こうとするように顔を近づけるレオナルドの、先程までと違い狙いを定めるような視線にアンジェラは思わず目をそらす。


「さっさすがに呼び捨てはできませんわ」


「そう?まぁ夫婦になったらの楽しみにとっておくよ。あぁ、友人については当日はそばにいるから、その都度紹介していくことにしよう。基本的な情報がわかっているアンジェラなら、失礼なことをする心配はないだろう。とりあえず私が信頼しているのは執務室で見かける側近たちと、最初に王宮を案内させた騎士団のエミール隊長くらいだし。それも仲がいいかと聞かれると立場上難しいよね」



ん?…も、もしかして。


殿下はご友人がいない…?

だからせめて私には名前で呼ばせたいとか…?



淑女同士の社交場(戦い)ではなく、まったりとした婚約者のお茶会は慣れていないため無駄に言葉の裏を探ろうとして混乱するアンジェラ。




ど、どうしましょう。

なんだか今度はキラキラ美貌の王子様が可哀想に思えてきたわ。


「また何か考えているね?」



ぎく!!



「ふふっ淑女の鏡だと言われているアンジェラのいろいろな顔が見れて嬉しいよ」


「えぇーっと…ごほん。準備も整いましたし、披露目の夜会を無事に済ませたいですわね」


できるだけ自然に繋いでいた手を離し、美しい動作で紅茶に口をつけ動揺を隠すアンジェラ。



脱げかけた猫をしっかりとかぶり直したアンジェラを、楽しそうに見つめるレオナルドだった。




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