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商会にて




ドレスの打ち合わせから数日後、アンジェラは侍女レティを連れて王都にある商会を訪れた。


「アンジェラ様、お待ちしておりました」


あえて中規模で抑えているこの店は、リュヌ公爵家が出資していて王都でも有数の収益を上げている商会だ。

中規模で抑えているのは大規模になると遵守する法律が増え、突飛な思いつきの多いリュヌ公爵家の融通が聞きにくくなるから、という創始者の格言らしい…


さっそくアンジェラとも顔馴染みの支配人が奥の特別室に案内する。


「今日はよろしくね。早速だけど頼んでいたものは手に入ったかしら」


「はい。こちらが北の国の羽衣を使った布でございます。軽くて暖かく、北国の王族などがドレスの内側の素材に用いることもある最高級品をご用意しました」


大きなテーブルに従業員達が生地のサンプルを並べていく。


少し前から北の国周辺で流通している羽衣という植物から採れた素材を使って作る服は、今までにない軽さと保温力があるらしい。


セレーネ国の王都は冬でもあまり寒くないため需要はないが、北側の辺境の地では北国と取引のある貴族同士で流通させていると資料室の本に記載があった。


アンジェラはその羽衣を使ったものをオーダーするため頼んでいたのだ。


「まぁ!これがそうなのね。たしかに軽くて温かそうだわ。ドレスもだけれど、他にも使いたいからかなり大量にほしいのよ。仕入れられるかしら」


「大量に…ですか。大変申し上げにくいのですが、こちらは羽衣の中でも特別軽く保温力の高いものでして、羽衣の素材である植物が最初に咲かせる花からしか取れないものなのであまり出回っていないのでございます」


申し訳無さそうに頭を下げる支配人にアンジェラは優しく微笑む。


「最高級じゃなくてもいいのよ。少し丈夫な生地と共に使いたいの。袖はなくていいからこんな形で。コートの内側に着込めるような物をたくさん作りたいの」


「ほう。ベストのような服でしょうか。コートの下に着るんでしたら保温力を活かせるようお腹と背中にだけ羽衣を織り込めますね。それでも今までより格段に温かくなるでしょう。それでしたら…」


先程のサンプルとは別で木箱に入った少し粗めの綿のようなものを取り出す。


「これは?」


「最高級ではありませんが、こちらが中級の羽衣を繊維にする前の状態なのす。そのまま生地に挟んで保温性を高めてもいいですし、少し性能は下がりますが繊維状にして生地に織り込むことで洗うこともでき丈夫になります。ただ、艶も消えますし…あまり貴族の方が使われる場面もないかとは思いますが」


温暖な王都の、しかも暖房が完備された邸宅では需要はないだろうと、売りつけることなく正直に話す支配人の姿勢には、いつも好感が持てる。


「教えてくれてありがとう。先程のとは色も手触りも違うけれど、私が作りたいものにぴったりだわ」


笑顔で箱に入った羽衣を撫でるアンジェラを見て、ふと支配人が気づく。


「…そういえばお嬢様、先程大量にと仰られてましたでしょうか」


馴染みの店だからこそ警戒する、リュヌ公爵家の血をひいたアンジェラの無茶振りの予感。


「えぇ。騎士団の冬の防寒具にしたいのよ」


「き、騎士団ですか。しかしリュヌ公爵領は冬も比較的暖かかったように思いますが」


過去に何度かアンジェラの提案で利益を出してきた支配人は、思わぬ返答に目を瞬かせる。


「実は、もうすぐ発表されるのだけれど、レオナルド殿下との婚約が決まったの。それで披露目の夜会で献上の品を考えていて。夜会の献上品は毎年納めているけれど、今年は少し特別なものにしたくて。王宮の騎士団は地方に派遣されることもあるでしょう?だから軍部に使ってもらえるようなものなら国の利益になるし、王族に嫁ぐものとして合理的じゃないかしら。それに王妃様のご実家の領地は標高が高いから、羽衣自体に興味を持っていただけるんじゃないかっていう思惑もあるのよ。これからも取り扱えるよう仕入れルートは作ってあるんでしょう?」


「ルートは、はい、そうですね。え……ぇえ!というか、ご婚約!?おおお王子妃!!それは!おめでとうございます!!あぇ!?しかし騎士団?いや、それに王妃様のご実家への販売促進…」


情報が多すぎて支配人のテンションがおかしい。


すでにアンジェラの依頼から羽衣を仕入れてみて、その有用性を理解した商会の従業員達はしっかりと今後の取り引きについても契約している。

とはいえ合理的な献上品とは?


アンジェラの周りの人がよく陥る理解不能な状態になっている支配人を、かわいそうな人見る目で見つめる侍女レティ。

彼女も最初に企画を聞かされたときに同じような表情になったのを経験しているのだ。


それでも笑顔でしっかりと祝辞を述べられたのは、さすがリュヌ公爵家御用達の商会である。


「持参金や他の品と合わせるから、服自体は高価にする必要はないの。むしろ丈夫さを優先して硬めの安価なラインでもいいわ。とりあえず100着くらいお願いできるかしら?」


「ひゃひゃひゃ100着!!失礼、いや、しかし、ひゃっ100着でございますか」


目が飛び出そうなほど見開いて、動揺を隠せずに確認する。


「とりあえず3着ほど見本をお願い。調べた限り丈夫さも保温も騎士服のコート内側に着るのに問題ないとは思うけど、それを持ってお父様にプレゼンするわ」


そう話しながら、まるで扇子でも取り出すかのように優雅な動作で、分厚い羽衣の資料と騎士服の資料、さらに支配人のサインをするだけとなっている依頼書を、どさりとテーブルに置く。


「は、はい。早急に取り掛かるように致します」



動揺しながらも、けして「できない」、とは言わず、しっかりと受け取りサインをする支配人に満足し、アンジェラは商会をあとにした。




その後支配人は商会幹部を集め、今日の情報を伝え話し合った。


アンジェラが自ら来た時点で、若干の心構えはしていたが、やはり驚きの連続な会議だったようだ。


それでも、最後に一致したのは『依頼の件はもちろんのこと、アンジェラ様のご結婚祝いを商会からも!!!』という、なんだかんだアンジェラを小さな頃から見守ってきた従業員達の声だった。


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