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とあるデザイナーの話…閑話




私は王都でも一番のドレスサロンのトップデザイナーをしております。

小さな頃から美しいものに興味があり、人や自分を着飾ることも大好きな私には天職だと思っております。


このサロンで働いているのはオーナーである親のコネですけれど。

はい。コネ入社ですね。


傍から見ればコネ入社にありがちな出世街道を突き進んでいるように見えますけれど、実力が伴わないと舐められる職人の世界。

私も若く青い頃は少々調子に乗っておりました。けれど、しっかり叩かれ育てられ、今の地位は実力で得ることができました。


貴族ではありませんが、それ以上に商人としてのマナーは習得してきました。

なぜなら我がサロンは王族御用達。さらに、王族専属デザイナーはサロン跡取り筆頭と決まっている我が家の慣習。


王族の服は、決められた意匠だけでなく、代々跡取りにのみ受け継がれる威厳を出すための緻密な設計、身を護るための秘密がたくさんございますので。

他の兄弟を押しのけて今の地位につくためには、好きなデザインだけをしていればいいというものではありませんでしたね。





え?身の上話はいいから今一番話題の第二王子の話を聞きたいですって?


まぁ、ここだけの話って言うならいいですけど。

私もね誰かには言いたかったんです。


第二王子殿下の婚約披露の衣装を仕立てに行った時の話ですよ。


ふふっ思い出したら私まで甘酸っぱい気持ちになっちゃいますね。


幼い頃から()()()王子と騒がれていた殿下とは、10歳の披露の時に初めて服を作らせていただくためお会いしました。噂に違わぬその美しさに私の創作意欲が掻き立てられたのを覚えています。


しかし『美貌の』と騒がれてもやはり男ですから。

王族の方々を穴のあくほど見つめても不敬にならないこの立場でなければ気づかなかったほど、あの品のある笑顔でうまく隠していらっしゃいますが、どうやら容姿を褒められることに苦痛を感じてらっしゃったご様子。


さらに積極的な女性が苦手らしく、笑顔は崩さないものの心でとても距離を取られたことを覚えています。



えぇ、私、美人ですから!!



でもね、バッタリ会ってしまったんです。


え?どこって…


騎士団の更衣室ですね。


ハイ…男性用の。




知り合いの騎士の方の服を届けるついでに、ちょうど更衣室で確認してもらってたんです。


お気づきの方もいらっしゃるかも知れませんが、こんな美人ですけど、私オトコなんです。

そう、女装は私の仕事着ですね。

これも跡取りに代々伝わるやり方…なのかは私の父しか知りません。

貴族の女性のドレスを作るときに男性の格好だと緊張されることも多いですから、父のマネをしてこの仕事着にたどり着きました。

性別はもちろん隠すことはなく事前にお伝えしておりますし、ちゃんと見ればわかると思うのですが、殿下はそれほどまでに私に興味がなかったのでしょう。


ということで、更衣室でばったり会ったときの驚き顔は見ものでした。

少し後ずさられたのは私が襲うとでも思ったのでしょうか?


まぁその後誤解が解けて話をすることが増え、たまに以前の担当者として王宮に来る私の父(もちろん女装)の正体を知って、しばらく無言になっていたのは懐かしい思い出です。


さて、話がそれましたがそんな第二王子レオナルド殿下の婚約者様のドレス。


先程も申し上げました通り、殿下は基本的に人当たりが良く、妹姫様のドレスのお仕立てにもよく付き添われておりました。


とはいえ、わりと()()()()()妹姫様の付き添い時には、レオナルド様は姫様の喜びそうな言葉を選んで伝えているだけで、正直女性のドレスに興味はないんだろうと思っておりましたの。


何より、お噂を聞く限りあまり女性にも興味がないのでは…と思っていたことは内緒でございます。


それがまぁ、なんと言いますか。


婚約者様へ見せる甘い眼差し。

表面だけ見て『美貌の』などと騒いでいる令嬢たちに見せるのはもったいないほどの、人を魅了する笑顔でした。


殿下の婚約は政略の意味も強いと思っていたので、人当たりが優しいとはいえ正直殿下があんなに特別に想いを寄せるとは思ってもいませんでした。


婚約者様がたじろぐほどに距離も近く、私にまで牽制してきましたから…


恋をすると人は変わるんですね。



たしかにとても美しい婚約者様。

公爵令嬢というその身分があまりにも高くなければ、懸想する輩も多かったことでしょう。

しかも高貴な方なのに貴族にありがちな遠回しな話し方ではなく、率直に意見を言ってくださるため、打ち合わせが大変スムーズでした。

サロンのお針子たちも最初は緊張しておりましたが、お着替えの際にお声がけいただいたらしく、すつかり虜になっていましたね。


残念ながら、ドレスにはあまり頓着しないらしく、王族の婚約者ならば派手なものや高価なものを率先してお好みになるかと思いましたが、物の価値や催しに合わせて飾る必要性は理解した上で、御本人の希望が「殿下に合わせて」…とは。


その分こちらの力量が試されますね。

美しいお二人が並ぶ姿を自由に作っていいなんて、デザイナーとしての腕がなります。

しばらくは眠れない日々が続きますが、やってやりましょう!



お読みくださりありがとうございます!

お気持ち程度に評価☆押していただけると嬉しいです。

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