ドレスを選びます
今日は2回目の婚約者交流、つまり前回のお茶会で約束した婚約披露用のドレスを相談する日だ。
王宮内の案内された部屋で待っているとレオナルドが笑顔で現れた。
「こんにちは、アンジェラ嬢。今日も素敵だね。ドレスの仕立て屋が来るまで時間があるから、お茶でもどうかな?本当は庭を一緒に歩きたいけど、まだ披露するまではね」
流れるようにアンジェラの手を取り予定の確認をする行動は前回と同じくスマートなのに、なぜか前回より距離の近いレオナルドにアンジェラの体温が上がる。
「お、お庭は次の楽しみにとっておきますわ」
「ふふっ私もそうしよう。あぁそうだ、今日作るドレスは披露用に王家から1つと、私からも個人的には贈らせてほしい」
「まぁ!そんな、いつも殿下からはプレゼントを頂いておりますし、ドレスは王家からの分で十分ですわ。そのお気持ちだけでとても嬉しいです」
「いや、私が贈りたいんだ。時間は取らせないし、だめかな?実は今までプレゼントといえば妹に強請られるがままに買っていたから、ついその癖でぬいぐるみやお菓子などを贈ってしまっていたことを反省してね。婚約者のいる側近に助言をもらったんだ」
なるほどリリア王女に強請られていたものを参考にしたらしい。たしかに子供っぽいものもあったけど
…でも
「公務でお忙しいのにいつもありがとうございます。それではありがたくいただきますわ。でも私は殿下から贈られてきたお土産なども嬉しかったですよ?」
小さな雑貨が多くとも、その時々にレオナルドが考えて購入したことが伺えるメッセージがあったので、貰うたびに気持ちが温かくなったのはたしかだ。
「そうか。ふとした瞬間にアンジェラ嬢ならどう感じるかとつい思ってしまってね。たしかにそうやって選ぶ時間も楽しかった」
美貌の王子様のはにかんだ笑顔を見せられたら、私じゃなくてもドキドキするわ。
「あ、ありがとうございます。いつか視察に同行することがあれば、一緒に選びたいですわね」
うっすら赤くなったアンジェラの頬に手が伸びそうになったレオナルドは、それをごまかすため思わず頭を撫でた。
「アンジェラ嬢?そこは公務じゃなく旅行でもいいんじゃないかな、なんてね」
殿下でも冗談を言うのね。と、いうか…
な、な、撫でられてるわ〜!
やっぱり殿下の女性への距離感ってリリア様基準なのかしら。
更に近づく距離にパニックになりつつも、リリア王女の教育をなんとかせねばと心のなかで思うのだった。
コンコン
慣れない甘い雰囲気にアンジェラが落ち着かずにいると、ちょうど仕立て屋が来たと侍従が伝えに来た。
「レオナルド殿下、リュヌ公爵令嬢、この度はご婚約誠におめでとうございます。マダムローザ、デザイナーのドナと申します。お二人の大切な一日のお召し物、心を込めて最高のものに仕上げさせていただきます」
深く頭を下げながら挨拶をするのは、背の高い美人デザイナー、後ろにいるお針子の女性達も頭を下げている。アンジェラも知っている王室御用達として王都中心に店を持つサロンのスタッフらしい。
「あぁ、よろしく頼むよ」
「マダムローザのサロンに作ってもらえるなんて光栄だわ」
アンジェラもそこのサロンを利用したことはあるが、目の前のデザイナーは初めて見る顔だ。
「私はローザのお店でも王室担当となっております。今後はお作りさせていただく機会も増えると思いますので、どうぞよろしくお願いいたします」
レオナルドはすでに顔見知りなのだろう、ドナ達はアンジェラに向けて再度礼をする。
「王族の服はデザインだけでなく、伝統や、いろいろ工夫も必要だからね」
なるほど、身を護るためですね。
レオナルドの言葉から工夫の意味を理解し頷く。
「そうなんですね。こちらこそ、よろしくお願いするわ。どうぞアンジェラと呼んで」
そうしてレオナルドとアンジェラがソファに座ると、ドナ達はいくつかのカタログをテーブルに広げ始めた。
「それではさっそくですがドレスの形からお伺いさせていただきます。紋章や柄などは品位を考え使えるものは決まってきますが、ご希望はございますでしょうか?」
「個人的なデザインのこだわりは特にないので、お任せしたいわ。派手すぎるのは苦手だけど、殿下に恥をかかせることのないよう、質は殿下に合わせてほしいわ」
まぁ、『美貌の』王子様の隣が私では何を着ても見劣りしてしまうでしょうけど。
隣で興味深そうにデザインを見比べているレオナルドをちらりと見ると、視線に気付いたのか目が合ってしまった。
「私は彼女のドレスに合わせるから、最高級の生地で作ってあげて」
笑顔でそう言いながらアンジェラの腰に手を回すレオナルドに驚いていると、感激したようにデザイナーのドナが胸の前に手を合わせた。
「まぁ!お互い想い合っておいでなのですね。お任せください!アンジェラ様と殿下のような美しい方のため、腕がなりますわ」
『美しい』に殿下も入れてきましたね。
ドナさんも美人さんなので、今の私は両手に花といったところかしら。
そのまま興奮したドナがアンジェラとデザイン画の間で視線を行き来させるたびに、なぜか腰に回った手でレオナルドの方に更に引き寄せられる。
ち、近いわ。
婚約者ってみんなこの距離感なのかしら。
アンジェラの動揺する様子を見かねたのか、ドナが試着の提案をしてくれた。
「ごほん!まったく、私に嫉妬してどうするのですか。アンジェラ様、基本的なデザインを決めるため、このあといつくかお召になっていただいてもよろしいでしょうか?」
レオナルドとの近さを意識しすぎたアンジェラに、最初のドナのつぶやきは聞こえていない。神の助けとばかりにすくっと立ち上がった。
「も、もちろんいいですわ!」
急に離れた体温に、ふっと寂しそうに手を見つめていたレオナルドだが、立っているアンジェラの顔が赤くなっているのを見て、にやりとする。
「ふふっ見るのが楽しみだな」
「え!?で、ですが着替えに時間もかかりますし、申し訳ないので一旦別行動でお仕事していらしても…」
ドレスの着替えは時間がかかるし、殿下を待たせるなんて。それにできればさっきから殿下の隣でドキドキするこの気持ちを落ち着かせたいのだけど…
「大丈夫。待っている間はここで仕事するし、妹の付き添いで慣れているから……と、言うわけではないな。私が見たいんだ。だめかな?」
既にどこから現れたのか王子の侍従が書類の束を持って控えている。
それに…
そんなキラキラした目で見つめられて断れる人がいるだろうか(いや、いない)
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