贈り物
「お嬢様、レオナルド殿下からお花が届いております」
レティが手に持っているのは、綺麗にラッピングされた見覚えのある花。
「…あらまた?先日届いたばかりよ」
そう、資料室で会って以来、レオナルド王子からは三日と置かず贈り物が届く。
視察のお土産をはじめ、おすすめの花やお菓子など。
高価なものならば、頻繁には受け取れないと伝えたいところだが、一緒に添えられるカードには『美味しかったから共有したい』『披露まで堂々と会えない代わりに』など、本当にちょっとした贈り物であることが伺え、それも人に任せず自分で選んで贈ったことが分かるから無碍にはできないのだ。
はて、今日の花はどこで見たんだったかな?と記憶を巡らせながらレティの持つ花を摘もうとしたら、空いている方の手ですっと止められた。
「お嬢様、こちらは先日王宮のお庭でお見かけしたお花です。たしか新しい色を作るのに成功して、まだ王妃殿下のお庭と研究室にしかないと、新聞に載っておりました」
その言葉にヒクリとする。
乱雑に扱うつもりはなかったけれど、王妃殿下のお庭の花なら、飾る場所や扱いは慎重にしなければ。
変わった色だったので危なく一本分解するところだったわ…
レティの記憶力と対応に感謝し、今度は慎重に花束ごと受け取った。
ミニユリの一種かしら。花弁の裏は真っ白なのに、内側は黄色から花弁の先へピンクへと色が変わっていく。小さな花束の中に緑の葉、白い蕾や黄色、ピンクが混ざって可愛らしい世界が完成している。
「素敵!王妃様は本当に可愛らしいものがお好きなのね。今度なにかプレゼントしたいわ」
「まぁ贈られたのは王子殿下ですけどね。それにしても、前回は珍しいフルーツ、その前は隣国のぬいぐるみ、更にその前はガラス細工や本もありましたね。消費できないものはそろそろ置く場所を考えねばなりませんでしたから、今回はお花で良かったです」
私達以外に漏れたら不敬罪に取られそうな発言だが、今の私は激しく同意したい。
「うんうん。本なんかは嬉しいけれど、ぬいぐるみや雑貨なんて細々したものが多いから、殿下からの贈り物用の棚を置かなきゃかしらと思ってたのよ」
「たしかに、そろそろぬいぐるみがベットを占拠し始めていますしね」
はぁ、と二人してため息をつき部屋を見渡す。
「いやもう、小物も可愛いし、ぬいぐるみも私好みで癒やされるんだけど…」
ぬいぐるみに埋もれたベッドにドサリと腰を下ろし、枕横のお気に入りの一つを撫でながらそのまま横になる。
「政略結婚なのは分かっているのだから、贈り物があってもなくても変わらないのに。世の中の婚約者同士ってこれが常識なのかしら。めんどうだなー、やっぱりお返事書かなきゃだめかなぁ」
こんな格好ができるのも、自分の部屋だけだと思ったら、本音までうっかり漏れてしまったのはご愛嬌。
「…奥様に一言一句そのままお伝えしてきましょうか?」
「じ、冗談よ、冗談。世の中の常識に則って私もお返事を書こうと思っていたところよ。レティったら、まさか伝えないわよね。さ、レターセットを出してちょうだい」
レティの視線を避けるように、よいしょと起き上がり手紙を書くため机に移動する。
ふう。彼女の絶対的な記憶力は疑えないから、そのままお母様に伝わったら危ないところだったわ…うまく躱せてよかった。ジットリとした目で見られている気もするけど、気にしなーい!
ちょうどいいタイミングで入れてくれたお茶を受け取り、ふむ、と考える。
今回のメッセージカードには『先日の茶会を思い出して欲しくて贈ります』と書かれていた。
お茶会の思い出とはいえ王妃様のお花とは…畏れ多い。
それにしても殿下は本当にマメだわ。
お忙しいのに申し訳ないから、次にお会いするときに、贈り物不要って伝えてみようかしら。
「ま、お茶会で会う令嬢達も、婚約者からの贈り物の話をしているし、ひとまず気にせずに受け取りましょう」
そう呟いてレティが用意してくれた便箋にお礼を綴るアンジェラが、後ろに控えたレティの静かなため息に気付くことはなかった。
アンジェラがお茶会で聞いた婚約者同士の贈り物というのは、実際には誕生日などの記念にもらう宝飾品やドレスであり、日常から贈り合うのはよほど恋愛脳のカップルだけであるという事実を知るのはもう少し後である。
そうしてアンジェラの部屋には花やぬいぐるみ、お菓子に置物など、様々なものが増えていくのだった。
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