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いざ高き天国へ   作者: 薫風丸
第3章 男爵家の人びと
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第93話  お兄様捜索隊

 一刻も早くパパ達に知らせてフェルディナンド兄様と従者の少年を捜索しないと、耳にした内容から危険が迫っていると思う。

弱かったが聞こえて来たのだ、近い筈、だけど遠ざかれば分からなくなる。

じっと待っているわけにはいかない。


よっしゃ!恩あるルトガーパパのために、お兄様の救出に行くわよ!

何の関係もないあたしを引き取ってもらっているのに、ここで黙っていたら、あたしの女が廃るってものよ!

先ずはセリオンさんを通信で報告だわ!


『セリオンさん!フェルディナンド兄様が城の下のどこかで大変だとパパに知らせて!あたしは先に探りをいれてみる』


『おい!早まるな、おい!アンジェ待て!』

『無理!すぐ行かないとやばそうなの!』


今、動かなければ、痕跡を辿れなくなるかもしれない。ごめん!後先の事を考えていたら間に合わなくなるかもしれないの。


ふわりと体を浮かすとダリアさんに、しかと抱きとめられた。

*ジタバタジタバタ*

うー!空しくもがいたが抵抗できないー!

こんな事をしている間にお兄様がヤバイことに!放してちょーだいー!


「らめー!ゆきゃにゃいと、にーしゃまが「参ります!わたしも」?」


「お嬢様!セリオンが一緒に行けと!私はお嬢様の御付き侍女です!どこだってお供します!」


そこにセリオンさんの声が頭に響いて来た。

『どうせ止めても行くだろう?俺もすぐ行くから、無茶だけはするなよ!すまんが任せたぜ、ダリア!』


自分から相手に通信できるようになったセリオンさんが、ダリアさんに頼んだのだ。おお、力持ちのダリアさん、これは強力な味方だ。


「だりあしゃん、ゆーどーちゅるー!」

「はい!お嬢様!」


*      *       *       *


その頃、ルトガーはグリマルト公爵の手紙を読み終わって驚嘆していた。

カメリアと顔を見合わせ、二人共セルヴィーナを哀れに思った。


そこに、慌てた執事が急を告げに部屋に急ぎ足で入って来た。


「奥様!緊急です!城門の守備兵から連絡で、フェルディナンド様が奥様に内緒でお戻りになったようです!」


「何ですって!?それで何処にいるの??」


「坊ちゃまが秘密に通せとおっしゃられ、通した後、城門塔の守備兵が心配になり監視塔の守備兵に声をかけたところ、中庭を通った姿を見ていないと言うのです。

中郭門は通っていないので、城内にいらっしゃっていないのは確かです」


カメリアとルトガーは嫌な予感が走った、この城の地下には侵入者を惑わす縦横無尽の迷路が張り巡らされているのだ。


城の外壁には主要な門は目立つひとつだけで、使用人もその脇の小門を使う。

しかし、存在が知られていない秘密の通用門がいくつかあるのだが、それはごく少数の者しか知らない。


そのごく少数とは、城の城主とその妻と跡継ぎ、そして命を預けても良いほどの献身的な臣のみだ。

たとえ侵入者が、秘密の通用門を見つけても、そこから天守へ行くにはカーテンウォールの内部の通路を何度も出たり入ったりして使わねばならない。


それは方向感覚を狂わすための迷路である、迷路に惑わされて延々と同じ場所に逆戻りするようになっている。


そしてその完璧な迷路は罠だらけの死の通路でもあった。

この通路を使って、天守と外を完璧に安全な方法で通れる人間は、現在のハイランジア城ではカメリアの他に、カラブリア卿以外はいない。


ルトガーが黙り込んだ妻の手を取ると、彼女の手は冷えてわなないていた。

「落ち着けカメリア、まだあそこに入ったとは限らないだろう?」


低い声で、耳元で囁く夫の声を聞いて顔を上げた彼女は、手を握ってもらい落ち着いたのか、目をしばたたかせながらも提案した。


「ルトガー、入ってすぐの城壁の控え壁に、迷路の入り口があるの。

あそこなら城門と監視塔の死角になる、あの子がそこを通ったなら誰も見て無いのは納得できるわ。

城側の脱出通路と違い、逆から入る場合は罠が作動し易い、私が捜索に行く」


「いや、俺が行く、途中までならお前と一緒に行ったことがあるから判る。

お前はここに残れ」


そこへセリオンが無礼を承知で、護衛を押しのけて飛び込んで来た。


「カメリア様!旦那様!フェルディナンド様が地下通路に入り、危険な目に遭って助けを求めているようです!」


最悪の事態が想像されて、その場に動揺が走り、かろうじて平静を保っていたカメリアが混乱しはじめた。


「どうしましょう!今、地下通路は罠が生きているのよ!あんなところに入ったら、助からないわ!!」

ルトガーは彼女の肩に手を置いて落ち着かせると

「落ち着け、カメリア、俺がすぐ探しに行く!アイリス、アンジェを頼む」


その言葉にびくっと、顔をこわ張らせるセリオンを見て、ルトガーは怪しんだ。

ルトガーは部屋を出る勢いでセリオンの腕を掴み廊下を出ると、彼を引き寄せて低い声で小さく聞いた。


「セリオン、何だ?早く言え」

「助けを求める声を聞いて、それで、アンジェは行ってしまいました」


ルトガーが真っ青な顔をして表情を引き引きつらせると、慌てたセリオンがダリアをつけたと補足した。


「一刻を争う状態だそうで、今行かないとフェルディナンド様が危ないと。

それで俺も止めるのを諦め、ダリアを一緒に行かせました。

申し訳ありませんルトガーさん」


ダリアがついていったと聞いて安心したルトガーは、暴走傾向のアンジェのことだからセリオンひとりに責任はないと、乱れる心を一旦落ち着かせて彼の背中を叩いて言い聞かせた。


「分かったお前を責める気などない。アンジェの暴走気味な性分は分って来たからな。ダリアに指示してくれてよかった。俺は探しに出るから、一緒に来てくれ」


「もちろんです、俺がいればアンジェと連絡を取れるかもしれませんから」

「ああ、頼むぞ」

「ルトガー、私も行くわ!」


捜索隊を出しましょうと、言い聞かせ引き留めるアイリスの手をはらって、カメリアが廊下に出て来た。


「ここの通路を正確に理解しているのは、今、私だけなのよ!」

勢い込んでいるカメリアを、止めておけと説き伏せる前に、彼女はなおも捲し立てた。


「罠だらけの通路は大勢で行ったら余計に危険よ。それに私なら通路の罠を作動させずにフェルディナンドの捜索に行けるわ」


彼の目を真っすぐに見据えるカメリアを前にして、これは言っても聞きそうにないと、ルトガーは吐息交じりに頷いた。

カメリアは彼に腕を絡めると、背伸びして耳元で小さく囁いた。


「わたしの寝室に迷路までのショートカットがあるわ」

「わかった、俺から絶対に離れるなよ」


そういうとルトガーは、さっきまで鞭を除けるために使っていた片手剣用の盾を手に取った。


城主のための脱出用通路は3階の城主用の寝室にある、そして、もうひとつが2階の家族用の居間だった。

その家族用の居間をアンジェとダリアが部屋の中を調べていた。


*      *       *       *


 ダリアさんと一緒にお兄様の声が聞こえてきた辺りを調べてみた。

あたしの感覚で聞こえて来たのは部屋の暖炉脇の壁からだった。


「お嬢様、床に何かあるのですか?足で踏んでもどこも反応がありませんが?壁にも怪しいところは無いようですよ」


あたしはハイハイして、お兄様の声の手がかりを探していた。

「うー、でも こにょあたりと思うにょでちゅ」


もう一回声の聞こえて来た暖炉のほうに丹念に目をやると、大理石の角の部分のごく小さな部分が、少し色が違う、指で触ってみたら、カタリと音がして小さな板がずれて飛び出してきた。


ずらされた場所には何やらボタンのような物があった、押せと言わんばかりですよ。ならば、もう押さねばならぬ!ポチっとな!

*ズズズズズ………*

暖炉の前の石床がずれて音をたてた。床の下には真っ暗な石の螺旋階段が暗い闇の中に続いていた。


おお!まさにおとぎ話の世界、こんなの体験してみたかった!

「やりましたね、お嬢様」

ダリアさんが燭台を持って来た、時計回りとは反対に真っ暗な螺旋階段を下りていく。蝋燭の灯りを頼りに、ダリアさんに抱かれたまま移動だ。


「さすがハイランジア城、こんなところまで防御に徹していますね」

「どうちて でちゅか?」

あたしには、ただの螺旋階段にみえるのだが、何故かわからない。


「だいたいの人は右利きですよね。ですから、この螺旋階段を敵が上ってきたら、階段の中心が右手側でしょ?剣が振るいにくいのですよ」


なあるほど、分かりました!攻められる側の城の兵は右手で剣を使っても邪魔にならないのね。

ダリアさんからの説明だと、ハイランジア城では攻城戦を想定して作られているそうだ。

大砲が無い時代では攻城戦は1年以上に及ぶ事も有った。


そのため城主のいる天守が容易く攻められないために、1階は迷路になっていて、2階、3階には容易にたどり着けないようになっている。


「この城では敵の侵入を阻む工夫が随所にあります、気を付けて歩きましょうね」

「ふあい!」

それって罠が有るってことでしょうか?怖いな、ハイランジア城!

神経を集中して耳を澄ませていると、微かな水音が聞こえて来た。


「先ほどのお話では、フェルディナンド様は水のあるところにいらっしゃるのですよね、近くなったでは?」


確かに、でもお兄様と従者が別々になってしまった位だから、結構浸水域が広いかもしれない。

そうこうしているうちに、通路が分かれている場所に出た。


先方に立つダリアさんが、前方を、燭台を持ってかざしたが、全く同じ作りでどっちに行っていいのかは皆目見当がつかない。


「お嬢様の能力を使って聞こえます?」

「うーん、だめでちゅ」

「そうですか、でも城側ですから妙な罠は少ないと思いますが…」


お兄様は、ここから遠くに離れたのか、声どころかもう気配もない。

この辺の下かもしれない、気配を拾えないかと壁に耳を当てて寄りかかり触っていたら、ゴトンという音と共に回転した壁に飲み込まれた。


「お嬢様、こっちのほうじゃ無いのでは?って…あれ?」

ダリアが後ろを振り返ったときアンジェの姿は消えていた。

お嬢様―!陰気な通路にダリアの焦る声が空しく響いた。


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