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いざ高き天国へ   作者: 薫風丸
第3章 男爵家の人びと
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第89話  カモカモ エブリバディ

 ルトガーは王都のエルラドにいる間はエルハナス家のタウンハウスに滞在している。

同じ屋敷にはルトガーの息子のフェルディナンド・エルハナスが王立学校に通っている。


 フェルディナンドはフォルトナに居る母のカメリアに手紙を書いていた。

彼が書いているその様は怒りで目が燃えている。

父親のルトガーが、王都の菓子屋で特注のウイスキーボンボンを頼んだのを目撃してしまったのだ。


「お酒に弱いし、おちょぼ口だからボンボンは小さく作ってくれ。多めに作って詰め替えて持ち運びできるように小さい可愛い小瓶も付けてくれ」


プレゼントにするのだからと、くれぐれも、女性が好みそうな綺麗なガラス瓶に入れるようにと伝えて。

菓子屋の親父はニヤニヤして注文を受けていた。


 絶対、子供のディオにやる土産じゃない!もちろんアンジェも、赤子なんだからあるわけない!

アンジェの母親は可哀そうな妹を捨てて父から逃げたはずだ。


ということは、父親はまたもや違う女性ができたんだ!

母上だったらウイスキーなんて瓶ごと飲める…断じて違う…


あんな可愛い赤ちゃんのアンジェをほっといて何てこった!!

父上、許すまじ!母上にたっぷりお仕置きしてもらうからね!!!


書きあげた手紙に熱い蝋をたらし、エルハナス家の次期継承者の紋章指輪で蝋封をすると、フェルディナンドは執事を呼んだ。


「フットマンを呼んで、この手紙を郵便には出さないで、母上に直接届けるように伝えて下さい。父上には絶対にバレないようにお願い!」



 息子が浮気を疑っているとはいざ知らず、ルトガーは実に明るい気分でバッソへの帰り道を急ごうとしていた。

鞍につけたバックの中にはアンジェ達に買った土産が入っている。


供の警邏兵と先を急ぐルトガーの後方には、カメリア宛の手紙を持った従者がフォルトナのハイランジア城に向かっていた。


 息子フェルディナンドからの手紙を受け取ったカメリア・エルハナスは読み終わると、わなわなと怒りに身を震わせた。


―ぬかったわ!監視役に丁度良いと思い、男爵家の使用人にアイリスを送り込んだのに、いつの間に浮気を!

…うん?でも、おかしいわ。

だって、あのアイリスが、あんなに分かりやすい性格のルトガーの行動を見落とすかしら?へんねえ…


「ねえ、デゼリ。アイリスは毎日変わらないと言っていたのでしょう?」

「はい、ですが…最近すこしばかり伯母の様子がおかしいのです。男爵家のお仕事が楽しいとニコニコと…」


カメリアは耳を疑った、あのアイリスが楽しい?ニコニコ?

若い頃から鉄仮面と言われ、愛嬌も愛想も無く、嫁ぎ先は無いだろうと危ぶまれ、早くから侯爵家の侍女に決定してしまったアイリスが、である。


「わたくし、社交なんて大嫌いでした。ですから侍女になって清々しております。腹を隠して愛嬌を振りまくなんて、私の性格には合わないのです。

かといって、修道院なんて辛気臭いところは真っ平でしたから、侯爵家に雇って頂いて感謝しております」


 アイリスはそう言っていた、カメリアを裏切ることは決してしない筈だ。

これはとにかく、ルトガーを呼び出した方が良いだろうとカメリアは考えた。


*コンコン*

「旦那様よりお手紙が届きました」

執事が銀の盆に手紙を乗せて入って来た。

内容は、明日、王都の土産を買って来たので、アンジェ共々伺いたいとあった。


―あらやだ、向こうから来たわ。すぐに私のところに顔出すのは感心だけど、どうしてアンジェだけを連れて来るのかしら?

連れて来るならディオも一緒が普通ではないかしら。


カメリアはルトガーの真意が分からずに首をひねっていた。


*      *       *       *


 やっほー!春だ、春だ!空高くに舞い上がり美しくさえずる雲雀(ひばり)

バッソの野原の上空で停空飛翔しながら高らかに春を告げている。


*ピーチュルピーチュル…ピーチュル* *ピュルピュルピュル*

洋の東西を問わずに、春の風物詩である愛らしい声の鳥。


「ほーら、可愛いだろう?アンジェちゃん。ヤギの赤ちゃんだよ」

ポルトさんが仔山羊を抱き上げて見せてくれた。

か、可愛い!真っ白だぁ!モフりたい!!

「めーめーなでりゅー」


ディオ兄に支えられて手を伸ばすと、仔山羊はむにゃむにゃと指を舐めてきた。

「うきゃあ!」

手を引っこめると、周りで見ていたフェーデ君とその弟妹のルーチェ君とカーラちゃんがつられて笑い出した。


ポルトさんが来ると決まった時、パパが村のお父さんに支度金を渡した。

お礼に豚と鶏、山羊をたくさん連れて来た。

その、連れて来た動物達に餌をやっていると、ダミアンさんが木桶を持って川の方に行こうとしていた。


「ダミアンさんどこへ行くの?」

ディオ兄が声を掛けるとダミアンさんが笑って答えた。


「お礼に行こうと思ってさ、パンくずや雑穀を持ってきた」


そういうと、さっさと川べりに下りていく、彼の後をついて行くと、鴨達が河原に集まっていた。もうすぐこの子達も旅に出る筈だ。


「クワクワクワ」

ダミアンさんが近寄ると皆立ち上がって騒がしく迎えた。


「みんな、この間は俺を助けてくれてありがとう。帰る前にたっぷり食べて栄養をつけてくれよ」


そういうとダミアンさんは浅い水際に柄杓で鴨達に餌を撒いた。


一番大きなオスの鴨がダミアンさんのそばによってきた。


頭部が緑だが白い顎輪模様があり、胸が葡萄色で体は灰色だ。

黄色の嘴の先端は黒い、群れの中で一番大きなオス鴨のアッカ隊長だ。


ヨチヨチ歩いて餌の周りをまわり、水面の餌をペチャペチャと嘴ですくい取ると大声で叫んだ。


「グァーッグワッグワッグアーッ!」

それを聞くと一斉に仲間の鴨達は集まって、ダミアンさんの撒く餌にがっつき始めた。


ダミアンさんには失礼だが、アッカ隊長は群れの仲間のために毒見をしたらしい、どうやら結構ちゃんとしたリーダーのようだ。

わらわら集まって餌に夢中になっている鴨達をみて、驚いたポルトさんが口笛を吹いてから声を漏らした。


「うまそうなやつらが集まっている…マガモは餌付けしにいくいのに…

でかしたダミアン!毎日美味い肉が食えるな?

焼いた甘い輪切りのポロネギの上に鴨肉を乗せたステーキ、シンプルでもあれが一番美味いよな!」


鴨達を肉呼ばわりしたポルトさんにダミアンさんが眉根を寄せた。


「ポルト!この鴨達は俺の命の恩人だ!絶対に殺すなよ!」

「え?命の恩人?何があったんだ?鴨だぞ?」


「俺は怪我をして川に浸かったまま動けなくて、旦那様達に助けてもらった。でも、冷え切ってしまっていて命が危なくて、そこに鴨達が体を温めて助けてくれた」


ダミアンさんはポルトさんに、つい最近、川に落ちて凍えて死にそうになっていたのを、パパ達に見つけてもらった後、鴨が体温を戻すために温めてくれたことを話した。


「それで鴨を捕るなというのか。うーん、ちょっと残念だが分かったよ。

確かに、命の恩人を食うなんてひどすぎるもんな」


ポルトさんの言葉が終わるやいなや、河原の土手から低く心地よい声が降って来た。


「それが鴨達の恩返しにはピッタリだな。うちの領民を救ってくれた鴨達だ。バッソで安心して子育てできるようにしてやろう」


いつの間にかルトガーパパが土手から馬に乗って話を聞いていた。

ルトガーパパだ!パパが王都から帰って来た!


「ぱーぱ、おきゃーりー」

「お義父さん、お帰りなさい」


すかさず、ディオ兄が土手を駆け上がり、あたしごと抱きしめて貰った。

近くに立っていたセリオンさんも、にっこりして会釈をしている。


「「「こんにちは男爵様」」」

「「お帰りなさいませ、男爵様」」

「やあ、みんなただいま、いい天気だな」


パパが馬を降りて河原に降りて来ると、わらわらと集まっていた子供たちの頭を撫でた。

ダミアンさん達が会釈をすると、パパはふたりに包みを渡し、フェーデ君にも渡した。


「王都の美味しい菓子のお土産を買ってきた。フェーデ、家族皆の分もあるから、皆の新しい家に帰ったら食べなさい」


「有難うございます、男爵様」

フェーデ君が丁寧にお礼を言いながら、ルーチェ君とカーラちゃんの頭に手を添えて頭を下げさせた。


「評判の菓子屋だったからな、使用人達の分も買って来た。ダミアン達も一休みしたらどうだ?フェーデ、ちゃんと家で分けて食べろよ」


フェーデ君はパパの含みのある言いかたにすぐに気がついて、反応した。

すぐに、パパにお礼を言うと、家でお菓子を食べに帰るぞとふたりを連れて帰って行った。


「じゃあ、ポルト、俺達も野良小屋で茶にしようか。」

「良いのかい?そりゃ有難い」


「それじゃあ、俺達は菓子を食いに戻るから、また後でなディオ、アンジェちゃん。有難うございます男爵様」


ふたりはパパに丁寧にお礼を言って河原から去った。


手を振る皆が居なくなってから、パパはアンジェ専用のお土産があると言って、ポケットから小さな巾着をだしてきた。


掌に出して見せた中身は小さなウイスキーボンボンだった。

パパはひとつまみ、小粒なボンボンをあたしの口元に運んだ。


「酒は入っているがごく少量だ、フォルトナの菓子屋で作ってもらった。

これなら飲み過ぎることもないだろう?」


余計なことを…あ、いや名案ですね。えへへ

「アンジェ~?」

キロリと睨むディオ兄の視線が痛い、本当もうチクチクします。しっかり、見透かされていたらしい。


最近セリオンさんに似て来て、行く末が大変心配である。

あのような屈折した性格の大人には絶対なって欲しくないものだ。

顔が良いだけに残念過ぎる青年2号なんて悲惨な末路を見たくないわ。


パパが摘まんだボンボンをパクと口に含むと仄かな酔いを感じてきた。

見あげるアッカ隊長と眼が合うと、頭の中で彼の声がした。


『悪魔っ子のお陰で今年のバッソは楽しかったよ。もう行っちまうけど、秋もおいら達来るからな』

『そのまえに、あたしのパパからお話があるんだって』

『おいら達に?』


 アッカ隊長と仲間たち、バッソで活躍したお礼をしなくちゃね。

ありがとうの気持ちをお友達にちゃんと伝えよう。


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